第9話 モンスター襲来

9.モンスター襲来




「わたしの妹も持ってるわ。そのうち紹介するわね」


 驚いている僕に向かって、ステラ姫はさらりと言った。


 あ、えと……。

 質問したいことが多すぎる。どこから、なにを聞いたらいいんだ?

 いやいや、僕が固有スキルを失ったことも伝えないと。あ、でも、報告を受けてるって言ってたから知ってるんだろうな……。


 扉を激しく叩く音が聞こえた。


「姫、一大事です! ポリンピアに、モンスターの襲来です!」


「なんですって?! このタイミング……。もしかしてメリデン王国?」


 姫はそう言うと、慌てて扉を出て行った。一見落ち着いた感じがするんだけど、なんだかバタバタする女性だな。そんなことを思っていたら、再びステラ姫が戻って来た。


「ついてきてるのかと思ったわ。なにしてるの、一緒に来てよ!」


 手を引っ張られ、部屋の外に連れていかれる。

「あ、こっちじゃなかった」などと城の中を行ったり来たりせわしない。一体、どこに向かっているのだろうか。


「おねえちゃん、どこ行くのよ、まったく!」


 引き回されながら廊下を走っていると、背中から声が聞こえた。

 ステラ姫と僕が一斉に振り向く。


 そこには黄色いリボンをつけた、ちっちゃな女の子がいた。

 先に丸い輪がついた棍棒を背負っているが、背が小さいため、棍棒がとても大きく見える。


「あ、これが一番下の妹、トリエッティ。ついこの間、十一歳になったのよ。誕生会ではね、歌をうたってくれたんだけど、それがもう……」


「おねえちゃん、もうっ。わたしの紹介してる場合じゃないでしょ!」


「あっ、そうだった! トリエッティお願い!」


「じゃ、手を繋いでね。お兄ちゃんも!」


 僕はいきなり手を掴まれた。

 なにかつぶやく声が聞こえた瞬間、目の前の景色が変わる。


「とーちゃーっく!」


 僕はなにが起きたのか理解できず、辺りを見回す。

 すぐ先に、ゴブリンの大群が見えた。大勢の兵士たちが応戦している。


「ここは?」


 僕が二人に聞こうとする間もなく、ステラ姫はゴブリンの大群に突っ込んでいた。

 手には大きな槍を抱えている。どこかで見たことのある気がする。先が三つに分かれた淡い水色の槍……。


「幻槍ボルギアスっていうのよ。本当はお父さんのなんだけどね」


 トリエッティと呼ばれた女の子がにっこり笑いながら、僕に話しかけてくる。


 ボ……ボルギアスだって?!


 子供のころ、絵本の中で見たことを思い出した。神器と呼ばれる世界最強の武器だ。


 ステラ姫は大きな槍を振り回しながら、ゴブリンの大群をぎ払っていく。


「で、一体ここはどこなの?」


「おにいちゃん、聞いてなかったの? ポリンピアよ」


 あ、えっと。確かに襲撃があったのは聞いた。

 でも、さっきまでお城にいた気がするんだけど。


「えへん。あたしの固有スキル【時現移動ムーブオーバー】で、ぴゅーって飛んできたの!」


 そういえば、ステラ姫は、妹も固有スキルを持っているって言ってたな。

 瞬間移動できるスキル……?


 しかし、ステラ姫は強いなぁ。逃げ遅れた市民の誘導までしながら、倒している。

 剣と槍では違うけど、下手したら強さは元の勇者パーティのドレッド並みじゃないかな。


 ……でも、次から次へとゴブリンが湧いてくる。


 大丈夫なのだろうか?

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