第8話 ステラ姫

8.ステラ姫




 スマト王国に入ってからは、立派な馬車に乗り換えて進んでいる。馬車の中は、僕と老紳士、そして三人の兵士が座っていた。


「あ、あの……これは一体?」


「ほっほっほ。心配せんでもよろしい。説明は姫さまからあるじゃろうて」


 老紳士は道中の時のような柔らかい声でそれだけを言い、説明してくれなかった。

 すぐに城が見えて来た。転移する前に、一度だけ入ったことがある。その時と比べて、なにも変わった様子はなさそうに見えた。


「あなたがアレクくんね、ようこそスマト城へ」


 城に入り、老紳士と一緒に広間へ通された。

 大勢の人がいる奥に、濃い青色の服を着て宝石のついたティアラを額に乗せた小柄な女性がいる。歳は僕よりは少し上なのかな。落ち着いた雰囲気だ。


 ……と思ったのだが、こちらに歩いてくるときに、スカートの裾を踏んづけて盛大にすっ転んだ。


「ひっ、姫様! 大丈夫ですか?!」


 周りの者が慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫です。ご心配かけました。と、ところで……」


 転がったティアラを受け取りながら、姫が言う。


「問題なしと報告を受けましたが、間違いはありませんね」


「ステラ姫。左様でございます」


 老紳士が姫に向かって頭を下げる。


「では、少しばかり秘密のお話をしましょうか」


 足元をちらちらと気にしながら、姫はそう言って部屋を出て行った。僕は周りの人に連れられて、別の部屋に連れていかれる。

 その部屋の中には、ステラ姫だけがいた。


「はぁー、この格好はくたびれるわね。さっきは、恥ずかしいとこ見せちゃったっ。なかなか慣れないわぁ。もっとも、マレッタほどじゃないけどね」


 さきほどとは全く違う口調で、僕に話しかけてきた。


「改めまして、ステラです。アレクくんね。どうぞ、よろしく」


 僕はなんと言って良いかわからず、体が固まったまま「は、はい……」としか言えなかった。そんな僕の体を、いきなりポンポンと叩かれる。


「そこに座って」


 言われるがままに、椅子に腰かける。


「驚いたでしょ? でも、無事に来ていただけて良かったわ」


 ステラ姫はそう言うと、老紳士が僕の護衛として、ここまで付き添っていたことを明かしてくれた。


「いや、それだけじゃないの」


 単に護衛役としてだけではなく、僕のことを見定めていたとも言った。固有スキルを持った者が、もし邪悪な心を持っていたのであれば、即座に暗殺することになっていたとも。

 あ、暗殺って……。こ、恐いことをサラリと言うなぁ。


「現に今、反乱を起こそうとしているようだわ」


 メリデン王国の国王ワグナーは、帰還したパーティの強力な力を使って、このスマト連邦を乗っ取る計画を進めている。これも老紳士の調査結果だという。

 実際、勇者パーティが戻ったことについて、なんの報告もないらしい。


「それもこれも、私の父が……」


 ステラ姫が真剣な表情になった。

 魔王の呪いにかかっているというのは、事実だった。姫の父親であるレムセル王は、日の出前に気を失い、夜を過ぎると目を覚ます。日中は一切活動が出来ない。体も日に日に衰弱して行っているそうだ。

 そのため王としての仕事も行えず、人々の前にも出られなくなったという。

 数年前に王妃も謎の死を遂げているために、急遽ステラ姫が王の代わりに公務をこなしているらしい。


 王は起きている間の時間をずっと、城にある文献を読み漁り、魔王に対抗する手段を探しているとのことである。


「逆召喚についても、父が調べたことなのよ」


 ステラはそう教えてくれた。


そんな大事なことを僕に話してもいいのかと、驚いて聞き返す僕の言葉など意に介さないようにステラ姫は続けた。


「あ、12時1分5秒ね。そろそろお腹空いた頃じゃない?」


 確かにお腹は空いてきたけど……。今、どこも見ずに時間を言った? しかも秒まで?!


「あ、驚かせちゃったかしら。私の固有スキル、【時計クロッカム】よ。ただ正確な時刻がわかるだけなんだけどね」


 ステラ姫はそう言って笑った。

 姫が固有スキルを持っているのか!

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