とある科学者の異世界孤児院経営録
@cloudy2022
プロローグ:とある院長の日記
○月×日
ふむ、久方ぶりに日記というものに手を出してみようかと思う。
まあ、どうせ誰も見ないのだから適当でいいだろう。
とりあえず、まずは自分のことからでも書き出してみよう。
前世の名は「
今世の名は「アリス・ゴールディーン」だ。
年は78、数か月後の誕生日で79歳になる。
身長は194.cmの長身に部類されるもので、体重は83.5kgの少し細身で筋肉質な体だ。
髪の色は白髪が混じり始めた灰色で、目の色も同じく灰のような色をしている。
顔には深く刻まれたシワがあり、その瞳からは年齢以上の経験と威厳のようなものを感じさせる。
……うむ、こうして書いてみると改めて自分という存在がよく分かるものだ。
皆からカッコいいといわれるが、こう列挙してみるとなんとなくだが分かる気がする。
さて、こんなものを書きだしている私は何者なのか? 知られても特に気にはしないのでいろいろと書いていこうと思う。
私は俗にいう転生者だ。
歳のせいで頭がイカれたのかって? そんなことなどあるわけがなかろう。
これでも若いころはよく漫画を読んだりしていたのだぞ。
まぁ、そんなことは置いておこう。
では、どうして私がこのようなことになったのかを書いていこうか。
あれは確か…………そう、前世での私が50代半ばを過ぎたころだったかな。
私はもともと優れた科学者であり、様々な分野の研究や開発をしていたのだが、とある事件によって命を落としてしまった。
まぁ、これに関しては別にいいだろう。この世界では確かめようがない問題であり、今の私にはさして関係のないことだからだ。
そして、体がだんだんと冷たくなっていくのを感じ取り、訪れる死を覚悟した瞬間、私は真っ白な世界――「天界」とやらにいたのだ。
ん~、ここで話が突然飛んだ感が否めないが、まぁそこは「テンプレ」というものなのだろう。
このような意味不明な現象に近いと言える「臨死体験」は前世で何度か経験したことがあってね……あれは思い出したくないよ……。
それはさておき、そんな世界にいたのはもちろん神様や天使という存在。
正直言って、初めて彼らと出会ったときは疑ったさ。君たちだって、いきなり「私たちは神です」とか言われても困るだろう? それと同じことだよ。
しかし、彼らの話を聞く限り、私は本当に死んでしまったらしい。
そこに絶望はしなかったね。あったのは「あぁ死んでしまったのか。やり残した研究があったのに……」という感情だった。
昔の私は今よりかは研究狂いでね、寝食を忘れて没頭するような日々を送っていたんだ。だからだろうか、死ぬ間際になって悔いばかり浮かんできたんだよ。
他にも、もっと別のことをすればよかった。もっといろいろなことを知りたかった……そんなことばかり頭に浮かんだよ。
それに、妻にも息子夫婦たちにも会いたいと思っていたときもあった。
だから、私は目の前にいる半ば神様に諦めながらも聞いてみたんだ……「私を元の世界に戻すことはできるか?」と。
まぁ、無理だと言われてしまったね。
当然といえば当然なんだが、その時は少しだけ落胆してしまったよ。
だが、そこで神様たちは言ったんだ。
『あなたを元の世界に戻せない代わりに、別世界で第二の人生を送る権利を与えましょう』とね。
それを聞いた私は微妙な表情をしていたと思うよ。元の世界に帰ることに意味があるのであって、第二の生に意味はない……とね。
しかし、彼らが私をこの場に喚んだのには、ちゃんとした理由があってね、それを聞いた当時の私は難色を示しながらも承諾して……
今の世界――中世ヨーロッパ調の世界「魔導大国ソロモン」へと転生したのだよ。
この大国は様々な国を統合した国なので、一つ一つの小国は存在している。いうなれば大国ソロモンはヨーロッパ州やアジア州などのようなものを指すのである。
そこで私が与えられた役割は、「技術を発展させて今の世界を豊かにしてほしい」とのことだ。
正直言えばうれしかったよ。前世ではやれなかった少し自由な研究や開発をしてみたかったのでね。
あっちでも自由と言えば自由だったのだが、それでも「これ以上はいけない」「予算がある」「人に使えるものを作れ」とさんざん言われてね……。
それはさておき、異世界に生まれ変わって私がやったことは「この世界でやりすぎない程度の技術提供および技術指導」というシンプルなもの。
シンプルすぎて次元跳躍システムの簡略化を片手間にできるほどだった。
そして、三十年ほどかけてこの世界の文明レベルを上げ、魔法という便利なものを利用して技術を広めていった。
それから十年ほど経ち、今では私の作ったシステムを利用したり、改良したりしてそれぞれの分国が新しい文化や発明品を生み出しているほどだ。
その功績が認められ、私は国の重鎮となったわけだ……が、正直言って祭り上げられるのは性に合わなくて一年とたたずに辞めてしまったがね。
そのあとは雲隠れし、各国を回ってたのだが……正直言えばあの神たちが私を転生させたのは少しどころかかなり間違っていたのではないかと思うよ。
急速な発展は技術の奪い合いをもたらし、様々な場所で戦争が起こった。
そこでは、多くの血が流れて、たくさんの人が死んでいった。
そんな地獄のような光景を見ていられなかった私は、各国の王族たちを脅し、もしくは交渉していくつかの国に平和協定を結ばせたのだ。
そう、私はただ単に見ていられなくなったからそうしただけで、別に善意でそうしていたわけではない。
むしろ、その時の私は自分の罪滅ぼしとして動いていたのだろう。
まぁ、結局は自分のためだったというわけさ。
しかし、そのおかげで平和になったこの世界では、私は神のように崇められてしまったわけだがね……。
自分の善意で傷つけて、自分の善意で彼らを助け、自分の善意で縛られる。
なんという皮肉だろうね。そんなことを繰り返しながらこの世界に生まれ変わって六十年が経ったある日、私はとある村に訪れた。
そこは小さな村だったが、とても活気があり、人々は笑顔に満ち溢れていた。
私はその風景に心を打たれ、気づけば足を止めてしまっていたのだ。
だが、彼らは先の戦争の影響で生きていくのも厳しいほど貧困していた。
栄養状態が悪い子供は寝たきりで、若者たちは力を合わせて無理にでも笑顔を浮かべて働き、老人たちは死を待つくらいならせめて笑おうとしているようだった。
それが見ていられなかった。
自分の見えていなかったところでここまでだれかを不幸にさせていたと、自分に対して怒りを抱き、同時に悔しくもあった。
だからだろうか……私はある提案をしたんだ。
それは、「この村に学校も兼ねた孤児院を作ってみてはいいか?」というものだ。
それを聞いた村長は「確かに、将来のことを考えれば良いかもしれない」と言ってくれたので、私は早速行動に移った。
そして完成した孤児院――「アリス孤児院」の院長となった私は、子供たちに勉強を教え、文字を覚えさせ、簡単な計算を教えた。
建立当初はこの村の子供だけであったが、紛争地区に出向いて救出した子供たちもこの孤児院に入らせた。
みんな遠慮がちで私に対しても敬語を使ってきたのだが、次第に打ち解けていき、私を先生と呼んでくれるようになった。
そんな日々を過ごしていくうちに、私は科学者としてではなく、教育者としての道を歩み始めた。
そこからはあっという間だったよ。
今まで培ってきた知識や経験を活かし、様々な分野で新しい発見や発明をして、それを孤児院の子たちに教えた。
その子たちもどんどん吸収していき、やがて私を超える天才へと育っていった。
そんなこんなで今に至るというわけだ。
……ふむ、書こうと思えばここまで書けるものなのだな。
こうして書いてみると、案外悪くないものだと思う。
さて、そろそろ本題に入るとしようか。
私がこの手記を書いている理由は一つ。私の生きた証を残すためだ。
私の書いたものは遠い未来まで残ることはない。しかし、私の生徒たちが受け継いでくれればそれでいいと思っている。
そのために、ここに私自身のことについて書き残しておくことにしているのだ。
もちろん、私が死ぬ前に全てを書き終えるつもりだ。
もし、私が死んだら、これを見ているであろう君たちに託すことにする。
君たちは優秀な子だ。きっとこの先も素晴らしい人生を送ることになるだろう。
その時が来たら、これを読んでほしい。
これは君たちにしかできないことなんだ。
それと最後にもう一つだけ言いたいことがある。
……君たち、私に対して少しくっつきすぎじゃないかね? いい歳なんだぞ? 私みたいなおじいさんよりもいい人は大勢いるだろうに……
とある科学者の異世界孤児院経営録 @cloudy2022
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