第6話 お嬢様の服を脱がせる

 俺は変態じゃない。俺は変態じゃない。

 心の中で呪文のように唱えながら、ボタンを一つ一つはずしていくが、罪悪感が半端無い。

 いや、俺も見た目7歳だからセーフだ。

 あれ?

 7歳でも、男の子が女の子の服を脱がすのはアウトじゃないのか?

 いやいや、今はそんなこと考えるな。

 煩悩を捨てろ俺!

 違う!

 煩悩なんて無い。これは純粋に手伝っているだけの人助けだ。


「早くしてちょうだい」

 お嬢様、それ、焦ってる男に一番言っちゃいけない台詞だから。


「分かってるよ。変なことは考えてないから」

 もう俺は何も考えずにボタンに集中する。


 ずらりと並んだボタンをやっとの思いではずせば、お嬢様はドッサッと草原にドレスを脱ぎ捨てた。

 まったく恥じらいを感じないのは身の回りの世話は使用人がして当たり前だからだろうか。

 なんだよ。ドキドキした俺が馬鹿みたいじゃないか。


「ふー、重かった」

 だろうな。


 よっぽどスッキリしたのかそれからは文句も言わずに、お嬢様は俺の後を黙って付いてくる。


 お嬢様の服を脱がせたからって処刑されないよな。

 少しの不安があったが、俺たちは用水路の合流地点らしい水門を発見し、草むらに隠れて、護衛が探しに来るのを待つ。



 *


「この魔法陣は誰がやったの?」

 俺の手の甲にクッキリと浮かび上がる魔法陣をお嬢様はじっと見つめる。


「これは……」

 推測だけど、俺はみ嫌われる双子の片割れで魔力封じされて捨てられた。


 それを言っていいのかわからず、黙り込むと、「ふん」と不機嫌そうに少女が俺の目の前に自分の手を差し出す。


「あ」

 小さな手の甲に俺と同じ魔法陣が浮き上がっている。


「同じだ」

 大きさと形状は全く一緒。

 違うのは俺のは藤色だが、お嬢様の方は桃色をしている。


「これは王宮魔術師のマギ様が私の魔力が暴走しないよう、魔力封じするための魔法陣なの。あなたのは?」

「俺のも魔力封じだ。誰がやったかは知らない」

「自分のことなのに知らないの?」


「そんなこと言ったって、これをほどこされたあと、すぐに捨てられたからな」

 俺の言葉に、お嬢様はすまなそうにもじもじと自分の足下を見つめている。


「別に同情はいらないぞ。このままですまそうと思ってないから。俺はこの魔法陣を解除して、自由に生きる」

「羨ましい」

「お嬢様には宮廷魔術師が付いているんだろ」

「私は魔力制御ができないから、解除出来ないって」

 最後の方はほとんど聞こえないくらいの小さな声だった。



「いつか、俺が大魔術師になったら解除してやる。それまで諦めるな」

「うん、期待しないで待ってる」

 俺の言葉をお嬢様は全く信じていなかったと思うが、それでも出会って一番の笑顔で頷いてくれた。



 それからすぐに、スティーブがお嬢様を探しに来た。


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