第4話 お嬢様と流される
「お嬢様!」
切羽詰まった声が上から落ちてきて、俺はようやっときつく閉じた目を開けた。
「よそ見せずこっちへ走れ」
スティーブはお嬢様を小脇に抱え建物の陰に走り出す。
地面に矢の刺さる音と人間の呻き声が聞こえる。
「伝令を送ったからすぐに応援が来る」
その目の前に、ボトリと矢で胴体を打ち抜かれた1羽の鳥が落ちてくる。
「ちっ……」
スティーブは悔しそうに言葉を飲み込むと、建物の上をにらみつけた。
もしかして、これが伝令だった?
「小僧、顔を見たか?」
「太陽を背にしていたから、顔は見えなかったけど、一人だった気がする」
「やはり一人か……相手は魔術師だな」
「魔術師?」
「ああ、一度に複数の矢を
言葉通り、10本以上の矢が地面と二人の護衛に突き刺さっている。
なんてこった。
転生チートで簡単に死なないような気がしたけど、油断できないな。
「いいこと考えたわ、あなたが囮になりなさい」
は?
それまでスティーブの後に立っていたお嬢様が突然俺の手首をつかむと、おもむろに俺を物陰から押し出した。
「え?」っと思ったときには、俺は咄嗟にお嬢様の腕をつかみ返して一緒に道ばたに転げ出てしまう。
こいつ最悪!
しかし、本当に最悪だったのは転げ出てしまった道路の先が用水路だったことだ。
ゲッ、まずい!
お嬢様のピンク色の瞳が大きく見開かれるのをどうすることもできず見つめたまま、二人してボチャンと水の中に落ちていた。
俺は、泳げたが当然お嬢様は、あっという間に沈んでいく。
どうせスティーブが助けるだろうと、彼を見るが雨のように矢が降ってきてそれどころではないようだ。
くそっ、終わりか。
覚悟を決めて、大きく息を吸い込むと俺は水の中に潜っていった。
手を伸ばして、腕を掴むといっきに水面めまで引っ張りあげる。
用水路の壁には手が届かなかったので、一段低くなった水門にしがみついた。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か」
未だ焦点の合っていないお嬢様に大声で怒鳴る。
「おい、聞こえてるなら返事しろ」
ようやっと意識がしっかりしてきたのか、ゲホゲホとむせながら、お嬢様は両手で俺の頭を押さえ込むようにしがみつく。
「手を離せ溺れる!」
力尽き二人で沈みそうになったとき、前触れもなくしがみついていた水門が開いた。
「うわぁぁぁぁぁ」
すごい勢いで流されて、俺はしがみついているお嬢様を強く抱きしめ返した。
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