第1話 7歳。奴隷スタート

「まったく、いきなり奴隷スタートってありか?」

 俺はついさっきの出来事を思い出してどんよりとした気持ちで、草むらに頭を抱えてうんこ座りする。


 一時間ほど前、気が付いたら俺は脂ぎった男にのしかかられていた。

 ニタニタ笑う口元はヤニで黄ばんでおり、思わず顔を背けてしまう。


 何だこいつキモ!

 しかし運悪く、目に入ったのは肉に埋まった、もっとおぞましい塊だ。


「臭くて吐きそう」

 素直な感想なのに、白豚はみるみる顔色を変え、膝をついて俺の首を絞め始める。


 これマジで死ぬやつ!


「まったくなんで?」

 俺は迷わず男の股間を蹴り上げた。


 なんだこの違和感?

 視線を落とし、じっと手を見る。

 そこには小さな手が拡げられていた。


「マジヤバ」

 これって、もしかして異世界転生か……。

 こ汚い部屋の中で、男が転げまわっているのを見下ろし、逃げなきゃと本能的に窓に駆け寄る。


 絶体絶命。

 なのに頭がスッキリして、気分が高揚していく。

 これが噂の転生者ハイか?



 ✳︎


 状況を整理すると、俺は推定7歳、教会の前に捨てられ名前もなかった。

 何故か手の甲に魔法陣が刻まれている。


「いかにも、わけありだな」

 今のところ、魔法も使えない。


 問題は、ぐるっと2本腕に入れられた奴隷印である。

 まるで時代劇の罪人みたいだ。

 奴隷の刺青があると一人で関所を通ることはできないので、何とも厄介である。


「記憶が戻るタイミングとしては最悪だよな」

 まずはこの奴隷の刺青をなんとか消さないと。


 ✳︎


「あー、あれか」

 怪しい路地に入って行くと薬屋の看板が出ていた。

 ゲームで言えば補給ポイントだ。


「こんにちは」

 隙間だらけの扉を開けると、草を乾燥させて束ねたものが所狭しと天井からぶら下がっており、棚には、見るからにヤバそうな色の液体が並べられている。

 とりわけ怪しそうな紫色の液体の中には巨大ダンゴムシのようなものが沈んでいた。


「いらっしゃい」

 カウンターの椅子に座っている男に声をかけられるが、フードをかぶっているので表情が見えない。


「あなたがこの店の魔術師ですか?」

「そうだけど」

「ちょっとお伺いしますが、この魔法陣を消すことはできますか?」

 俺の言葉にフードの男は面倒そうに「無理だな」と一言、答えた。

「だが消せる人間なら知っている」

 うーん、都合よすぎだけどとりあえず話は聞くか。


「どこに行けば会えますか?」

 俺が質問すると、男は無言で右手を出した。


「お金ならないです」

「だろうな、じゃあこれはにしておいてやる」

 これは何のフラグだ? こいつ俺の正体知ってるのか?




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