第5話警戒と信頼
数日ぶりの学校。少しだけ緊張する。そういえば転校生の子とはまだ話してなかったっけ。これから一緒に過ごすのだし、挨拶だけでもそのうちしないと。教室のドアを開けようとすると、ちょうど瞳が教室から出てきた。改めてストレートの綺麗な黒髪だと思う。
「あっ初めまして。まだ話したことなかったよね。丸山光といいます。これからよろしくね。」
「黒澤瞳。よろしく。」
転校生は短くあいさつした。転校初日も思ったのだが、どうやらあまり人とかかわるのが好きではないらしい。
「あなたはコペンハーゲン解釈と多世界解釈どっちを信じる?マルチバース理論についてどう思う?」
突然瞳はそう問いかけてきた。コペンハーゲンカイシャク、タセカイカイシャク、マルチバースリロン。意味不明な単語が多すぎて私の脳は完全に止まってしまった。
「えっと…。よくわからないかな…。」
「そう。知らないのならいいわ。」
そう言って瞳はそそくさと職員室のほうに歩いて行ってしまった。
「ひかりちゃん、もう大丈夫なの?」
心音が心配そうに話しかけてくる。心音の顔をみると心臓がきゅっとなった感じがした。
「うん。もう大丈夫。さっき転校生の子からコペンハーゲンカイシャク?とかタセカイカイシャク?について聞かれたんだけど、心音は何のことかわかる?」
「えっうんまあ。もしかして私があれを作ったことを知ってる?」
心音は独り言のようにつぶやく。
「変身のデバイスがあるでしょ。あれって多世界解釈、マルチバース理論に基づいてレベル3の宇宙を無理やり入れ替えてるんだよね。多分それについて探ってるってことかな。」
やっぱり何を言っているのかさっぱりわからない。ただデバイスについて熱心に語っている心音はとても楽しそうで、こちらまで嬉しくなってきた。
「とにかく瞳さんには気を付けたほうがいいと思う。目的は分からないけど、正体をバレされたら大変だから。」
私は人助けをする際、変身することで素性を隠している。相手が人に危害を与えようとするタイプの人間だった場合、報復される恐れがあるからだ。服装に関しては美海先輩の趣味で魔法少女風になっている。
「そういえば先生が休んでた間のプリント渡すから職員室に来てほしいって言ってたよ。」
「わかった。行ってくるね。」
私は職員室に向かおうと踵を返すと、優から話しかけられた。優は美海先輩の弟で、私たちの幼馴染だ。鼻筋が通っていて綺麗な顔立ちをしているので意外と人気がある。運動は得意だが、勉強は苦手な男の子だ。
「もう体調は大丈夫なのか?」
「うん心音のおかげで大分楽になったよ。」
「そっか。それはよかった。そう言えば瞳ちゃん知らない?探してるんだけど見つかんないんだよな。」
「さっき教室を出て行ったよ。何か用事なら見つけたときに言っとくよ。」
「いやそういうわけじゃないんだけどな。ただそのなんとなく話したいなと思って。」
ちょっと恥ずかしそうに優がつぶやく。もしかして…。優は瞳のことが少し気になっているようだった。確かに瞳は凄い美人さんだし、凛としていて、好きになるのも頷ける。もしアシストできるようなことがあればしてあげよう。私は密かにそう決めたのだった。
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放課後、美海先輩も私のことを心配しているそうなので、心音の家でデバイスの調整がてら遊ぶことになった。
「光、本当に大丈夫か?大分やつれてたって聞いたが…。」
両親が死んで、全くつらくないといえば噓になるが、それでも心音のおかげで少しだけ心の余裕ができていた。
「大丈夫といえば嘘になるかもしれませんが、でも今は大丈夫だと思います。」
「そうかそれならよかった。」
安堵した表情から心の底から私のことを心配してくれたのだとわかる。
「じゃあこのメイド服を着てもらおう。」
撤回。やっぱり美海先輩は美海先輩だった。
「今日は着ませんよ。今日はこれから一緒にレーシングゲームやるだけって話でしたし。」
「光は絶対に合うと思うんだよ!自称世界最高のメイド服ソムリエの私が保証する!」
「どんな保証の仕方ですか!まあでも心配かけましたし。今日だけは特別ですよ?」
なんだかんだ言って美海先輩は私のことを本当に心配していたようだった。その日私は美海先輩に着せ替え人形にされたのだった。
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