第3話私の大切な人
強盗に遭い、私の両親はこの世を去った。早朝、私はリビングで呆然と立ち尽くす。病院の廊下にあるベンチで眠ってしまってやっと家に帰ってきたのだ。
「ここってこんなに広かったっけ。」
私はぽつりと呟く。いつもは決して広く感じない空間がとても広く感じる。もう両親はいない。涙がまた溢れてくる。
「うぁぁ。ひぐぅ。」
嗚咽交じりにまた泣き出す。食欲が出ないが何か食べないと。私は台所の引き出しから食パンを取り出し、トーストもせず口に無理矢理突っ込む。
「今日は学校に行きたくない。」
私は学校に電話をして休ませてもらった。
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ひかりちゃんが学校を休んで3日が経った。私は心配で堪らなくなっていた。彼女はいつも明るくて誰にでも手を差し伸べてきた。彼女には誰が手を差し伸べるのだろうか。今彼女の助けにならなくて、いつ助けになるというのか。
「今日、ひかりちゃんの家に行ってみよう。」
私は小さく呟きながら決意を新たにする。私と彼女は小学1年生の頃からずっと一緒だった。いつからか、私は彼女をただの友達以上に大切に思うようになっていた。栗色のショートボブが揺れるたび、透き通った高い声が耳を撫でるたびに、少しずつ私の中の愛おしさが増幅されていった。
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放課後、私はひかりちゃんのアパートに来ていた。チャイムを鳴らして語りかける。
「こんにちは。心音です。もしよければ家に入れてくれないかな。」
数分後、玄関のドアが開けられた。正直こんなにすんなり開けてくれるなんて意外だった。大山先生が来た時、しばらく1人にしてほしいと言ったらしいから、会えるとは思っていなかったのだ。
「開けてくれてありがとう。お邪魔します。」
家の中は書類や物が散乱していた。確か強盗が入ったらしいから、多分その時のままなのだろう。ひかりちゃんは髪がボサボサでやつれているように見えた。
「ねえ、ひかりちゃん。私じゃ頼りないかもしれないけど、こういう時だけは頼って欲しいかな。私も両親を亡くしてるから、気持ちは分かるつもりだし。話くらいなら聞けると思うから。」
私は語りかけるようにひかるちゃんに言った。
「あありがとう。今日は一緒にいてくれないかな。」
ひかりちゃんは声を絞り出すように呟いた。
「もちろんだよ。それじゃあ急いで着替えと持ってくるね!」
ひかりちゃんが私の袖を掴んで私を静止する。
「私のがあるから、それじゃあ駄目かな。お願いだから独りにしないで。」
上目遣いで見られて、こんな状況なのにドキドキしてしまった。それにひかりちゃんの服を着るなんて大丈夫なわけがない。しかし、今ひかりちゃんを独りにしたくない。
「分かった。ひかりちゃんのを借りるね。」
私はひかりちゃんの背中に手を回し、抱きしめる。
「よしよし。今日はずっと一緒にいる。だから泣かないで。」
私は小さい子を諭すように語りかける。ソファーに一緒に腰掛けるとひかりちゃんは私の膝に頭を乗せてきた。
「心音の膝落ち着く。」
ひかりちゃんは小さく呟く。その日、ひかりちゃんは私の膝で眠ってしまった。
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