第32話『作戦の命運は湊斗きゅん次第だけどねぇ~ん』
「あらァ~、そうだったのねぇ~ん!」
妹代行事務所。マリーさんと向かい合う形でソファーに腰を下ろした俺たちはすべての事情を説明したうえで深々と頭を下げた。
特にマリーさんにはいろいろと迷惑をかけていたこともあり、なにを言われても仕方がないと思っていたのだが、当の本人はあっけらかんと笑い飛ばした。
「ごめんなさいねぇ~ん。ユリちゅわァんの意見も聞かないで勝手に行動しちゃって。アタシも不安で周りが見えてなかったみたいねぇ~ん」
「オーナー。あたし、嬉しかったです。オーナーが本気で守ってくれて心強かったし、改めてこの人は信頼できる人だなって思ったんです」
「やァ~だァ~、そんなこと言われたら涙腺がカンブリア爆発しちゃうじゃなァ~い」
いや、涙腺がカンブリア爆発はよくわからないけど。でも、やっぱりこの人を信頼したのは正しかったと改めて思えた。
マリーさんは涙を拭いて滲んだティッシュを丸めながら言う。
「それで、ストーカーちゃんと和解したいんだったわねぇ~ん。どうやってストーカーちゃんを呼び出すのぉ~ん? 向こうは警戒してアタシたちの呼び出しには応じてくれないかもしれないわよぉ~ん」
「そうですね。だからおびき寄せて捕まえます」
「ずいぶん手荒な真似をするのねぇ~ん」
「はい。せめてそれくらいは……。姉は反対してますけど、そのくらいはしないと俺の気がすまないんで」
俺が怒りを込めて言うと、マリーさんは口許を手で覆った。
「ウフッ。湊斗きゅんのそういうところ、アタシは好きよぉ~ん」
「ア、アハハ……」
マリーさんはおどけたように言っているが、濃いアイシャドウの奥にある瞳はメラメラと燃えているように見える。『賛成』というような目だ。
「作戦はこうです。まず、姉を使って所定の位置まで犯人を誘き出します。そして――」
「ちょっと待ちなさァ~い。ユリちゅわァんを囮に使おうなんて正気かしらァ~ん? ウチの従業員をそんな危険な目に遭わせるのは容認できないわァ~ん」
「でも、犯人をおびき出すにはそうするしか……」
「いいえ、ひとつアイデアを思い付いたわァ~ん」
「アイデア……?」
「ええ。でも、まだヒ・ミ・ツ」
マリーさんがパチッとふさふさのツケマを瞬かせる。
「え。秘密って俺たちにもですか?」
「ええ。これは重要なことなのよぉ~ん」
なるほど。誰にも作戦を伝えてはならない理由があるんだ。あえて伝えないことによって作戦の成功率が上がるとか、そういうことなんだろう。
この人のことは信頼できる。任せてしまって問題ないはずだ。
「そういうことなら……はい。わかりました」
「じゃあ、作戦はストーカーちゃんをおびき出すって方向性で考えるわねぇ~ん。明日の朝、ここに集合よぉ~ん。作戦を伝え次第、実行に移すわァ~ん!」
「えぇ! もう明日実行するんですか⁉」
「引き延ばしても被害が拡大するだけでしょぉ~ん? 明日はちょうどユリちゅわァんの出勤日だし、犯人は必ず現れるはずよぉ~ん」
「そうかもしれないですけど、準備とか……」
「大丈夫。すぐに実行に移せるわァ~ん。作戦の命運は湊斗きゅん次第だけどねぇ~ん」
「お、俺次第……?」
一体、どういうことなんだ……?
マリーさんを信頼して任せたはいいものの、やっぱり心配になってきた。
だが、俺が作戦の命運を握ると言うならただ任されたところで頑張るだけだ。
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