第8話『おいふざけんなまたこのパターンかよッ!』
翌日の木曜日。学校が終わり、午後五時過ぎにアパートに帰ってきた俺はマットレスの下に隠していた封筒を床に置き、
この封筒に入っている五万円は来月発売するエロゲの店舗限定特典をコンプするため、生活費をギリギリまで切り詰めて貯金した大切な軍資金である。
俺はその封筒とにらめっこしながら頭をブンブン振ったり、ポカポカ叩いたり、ベッドの上でジタバタして葛藤し、
「んぬぬぬぬ、なんで俺がアイツのためにヘソクリを使ってまで……」
だが、そんな思考とは裏腹に昨日の光景を思い浮かべるたび、胸がギュッと締め付けられる。同時に腹の奥底が煮え返るほどムシャクシャした。
あんなパパ活まがいなことをされたら身内として恥ずかしいったらないだろ。大体、知らない人の家に上がったり、知らない人とデートしたりするのも危なっかしい。まあアイツなら危険な目に遭っても腕っぷしでどうにかしちゃうかもしれないけどさ。
要するにアレだ。いつかあの筋肉ゴリラの被害者が出る前にアイツを止めておかねばならない。今、妹好きの
それに……。もし母さんがこんなこと知ったら大変なことになるぞ……。
――と、それらしい理由を並べては頭を抱えながら苦悩し、そして俺はようやく決意を決めてグッと拳を握りしめた。
「やっぱり、あんなバイトは辞めさせるべきだ!」
なによりアイツがいるかぎり俺が安心して妹代行サービスを利用できないからなッ……‼
正直、それが一番の決め手だった。
それはそうと、困ったことに俺はヤツの連絡先を知らない。
まあ手段がまったくないというわけではないが。例えば、実家に電話をかけて母さんに繋いでもらおうにも、もし妹代行サービスのことがバレてしまったら姉にぶっ殺されるし。
仮にバレなくても母さんに電話をかけたらもれなくお説教が付いてくる。最近、俺が着信拒否してるのが悪いんだけど……。とにかく、わざわざそんなリスクを冒したくはないわけだ。
というわけで、アイツを呼び出すには妹代行サービスを利用するしかなかった。
俺は封筒を握りしめ、先日登録したホームページから妹代行サービスに電話をかける。
「もしもし、妹代行サービスをお願いしたいんですけど」
『あらァ~、お客ちゃんねぇ~ん! どの子をご指名かしらァ~ん?』
なんかやけにテンションの高い男が電話に出た。いや、口調からして女性の方だったら失礼だけど。前に電話したときは女性の声だったと思うんだけどなぁ……。
俺は気を取り直して軽く咳払いする。
「え、えーっと、ユリちゃんで……」
『ユリちゅわァんねぇ~ん! で、いつにするのかしらァ~ん?』
「できるだけ早く来てほしいんですけど……」
『あらァ~、せっかちさんなのねぇ~ん。でもごめんなさァ~い、ユリちゅわァんはしばらくスケジュールが埋まってるみたいなのよぉ~ん』
アイツ、そんなに忙しかったのかよ……。
どうやら人気ナンバーワンは伊達じゃないみたいだな。
「そうですか、早くていつになりますか?」
『え~とねぇ~ん、日曜日の午前からになるかしらァ~ん』
「日曜か……」
今週の日曜日はたしか引っ越しのバイトが入っていたはずだ。とりあえず一度こっちのスケジュールを確認してからまた電話するのが良さそうだ。
「えっと、じゃあまた電――」
『ユリちゅわァんにこだわらないなら、他の子が空いてるわよぉ~ん』
「あ、いえ。ユリちゃ――」
『今、アタシ的売り出しチュ~のアカネちゅわァんなァ~んていかがかしらァ~ん?』
「いや、あの――」
『まだまだ新人ちゅわァんだ・け・どぉ~、健気さと
「健気⁉ 献身的……っ⁉」
『いかがかしらァ~ん?』
「ぜひ、アカネちゃんでお願いしますッ‼」
――やってしまった……。アホか? アホなのか俺は……⁉
ずぅーん、とベッドの上にうつ伏せになりながら俺は後悔の念に
ファミレスのバイトでチャラめのお客さんに怒鳴られたり、引っ越しのバイトでマンションにエレベーターがなくてヘトヘトになったあの日々が水の泡じゃないか……。
「なにやってんだよ、俺……。大事な軍資金を無駄遣いしてしまうなんて……」
本当はエロゲに使うはずのお金だったのに……。
しばらく血の涙を流して後悔した後、フラフラとベッドから体を起こした。
……まあ頼んでしまったものは仕方がない。こうなったからにはポジティブにいこう。
前回はアイツが来てしまったせいで思う存分楽しめなかったし、代金を支払う以上は今度こそ存分にお兄ちゃん気分を味わってやるぞ!
なんとか気持ちを切り替え、しばらくお兄ちゃんロールプレイの演技プランを考えているうちに玄関からインターホンの音が聞こえてきた。
俺は軽やかな足取りで玄関に向かい、来訪した妹を出迎える。
「やぁアカネ、よく来たね」
クールで優しいお兄ちゃん――既存のアニメ作品で言うなら『ハイカラお兄ちゃんはアンドロイド妹とともに』の主人公である
俺の分析では、健気な妹と相性バッチリなはずだ。
「に、兄さん……。本日はよろしくお願いいたしますっ……!」
俯きがちにスカートの
恥ずかしがり屋の妹、キタキタキタァ~~~ッ!
「に、兄さん……?」
俺が興奮気味に立ち呆けていたのを不思議に思ったのか、アカネちゃんは戸惑いがちに顔を覗き込んでくる。だが、視線を上げた彼女とばっちり目があった瞬間、俺はスンッと表情を失ってしまった。
その理由は、彼女の顔に見覚えがあったからだ。
「え……。も、もしかして桜庭さん?」
「あっ」
そこに立っていたのは俺と同じクラスで風紀委員も務める優等生――
おいふざけんなまたこのパターンかよッ……‼
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