第5話『……お母さんに言ったらぶっ殺すから』
夕方の五時ごろになると、悠里のスマホからアラームの音が聞こえてきた。
二時間の妹代行サービスの終了を告げる合図だろう。
「はい、終わり。これで満足したでしょ?」
時間になった瞬間、スンッとビジネススマイルを消してぶっきらぼうに吐き捨ててくる。
なんだこのあっさりした反応は……。こういうのって別れ際まで夢を見させてくれるもんなんじゃないの? いや、ところどころ素に戻ってたけど。
「お前な、ちょっとくらいサービス精神ってもんがないのかよ」
「ふん、アンタにあげるサービス精神なんてあるわけないでしょ。なに、ひょっとしてときめいちゃった?」
「んなわけあるか。にしても、
「はぁ? その妹コスプレにときめいてたのはどこのどいつよ?」
「だからときめいてねぇっつーの!」
再び、鼻先をくっつけんばかりに睨み合う。
ぷいっと互いに顔をそむけると、ふいに背後からゴソゴソと物音が聞こえてきた。
ちらと視線を向ければ、悠里が動物のストラップを付けたトートバッグからクリアファイルを取り出し、一枚の紙を座卓の上に差し出してくる。
「アンケートよ。任意だけど、一応渡しておく決まりだから」
紙を見れば満足度アンケートのようなもので、担当した妹やサービスに対する五段階評価やそれ以外にも『意見や改善点などがございましたらご自由にご記入ください』と書かれたテキストボックスが印刷されている。
俺はpcデスクからペンを取り、仕方なくアンケートを記入することにした。
担当した妹は……もちろん最低評価で。理由のところには『素の性格の悪さが
自分でも悪い顔になっているのを自覚しながらスラスラとアンケートを記入していると、ふいに視線を感じて顔を上げる。すると悠里がふいっと視線をそらした。
「んだよ」
「……別に。趣味の悪い部屋だと思っただけ。目も当てられないわね」
「うっせー、この伝説の妹たちに比べたらお前はただのコスプレゴリラだからな」
「きもー」
うえーっと面倒くさそうに舌を出す仕草を見てカチンときた。
「そっちこそ、オタクを見下して金儲けか。
「は、なに言ってんの……?」
「どうせ俺みたいなヤツらを小馬鹿にして、いい金ズルだって思ってんだろ?」
まあそんなことはわかりきった上でサービスを利用しているわけだが。メイドさんだって本気で萌え萌えキューンしてくれているわけじゃないってことくらい知っている。中には本気でやってくれている人もいるかもしれないが、少なくともコイツはそんな人間じゃない。
だから想像できなかった。コイツが本気で怒るなんて……。
「そんなこと……。そんなことするわけないでしょッ――‼」
今までに聞いたことのないほど強い怒気のこもった声だった。
俺は呆気に取られて顔を上げる。
悠里は鋭い視線でこっちを睨み付け、トートバッグをひっつかんで立ち上がった。
ダンダンダンッと下の階まで響きそうな足音を立てて玄関の方に歩いていくが、ふいにその足を止めてこちらに振り返ってくる。
「……今日のこと、もしお母さんに言ったらぶっ殺すから」
そう言い残し、ツインテールの姉は
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