◇すれ違い◇  (2)




客にお茶を出した空木うつぎがキッチンに戻る。

そして大きくため息をつく。

空木も仕事はきちんとこなしてはいるがどことなく覇気がない。


「空木チャン。」


どこからかペリが声をかけた。

空木は周りを見渡すが姿は無い。


「ねえ、そろそろ機嫌治してよ。」


空木は再び大きくため息をついた。


「ペリさん、私ここを出ようと思うんですけど。」

「えっ?」

「引っ越しをして別の仕事を探すつもりです。」

「でも調子が悪くなったらどうするの。」

「その時は予兆があるみたいだからここに戻ります。

どちらにしても私はこの街からは一生離れられないようですから。」


最後の言葉は少しばかり捨て鉢な言い方だった。

いつも丁寧にしゃべる彼女にしては珍しかった。


「ねえ、空木チャン、ヒナトリの事怒ってる?」


彼女はしばらく沈黙する。


「怒っていると言うかあの人がこの状態を嫌がっているのではないですか。

勝手に決めるなと言っていたし。」

「それは正直なところ空木チャンも同じ気持ちじゃない?」

「……そうですね、」


外から微かに車の音がする。

あの出来事から家はますます森の気配が濃く別世界のようになり、

いつもほのかに緑の香りが漂っていた。


「確かにそうです。

でも私がやらないと多くの人が命を落とすことがあるかも、

国の存亡が、とまで言われたらどうします?

ペリさんはどうしますか。」


空中からふわりとペリが姿を現した。


「ボクはどうもしないよ。精霊だもん。

いくつもの国が亡びるのを見たよ。」

「仲良しの人が死にそうでも?」


ペリが首をかしげる。


「助言ぐらいはするかもしれないネ。

でも結局はニンゲンってすぐ死んでしまうもの。

ボクは残されるだけ。」


感情の無い彼の澄んだ金の瞳が事も無げに言う。


「じゃあどうしてペリさんはヒナトリさんといるの?」

「うーん、ヒナトリには助けてもらったし、

それにボクはヒナトリは結構好きなの。

空木チャンも好きだよ。いい匂いがする。」


ペリには特に他意は無いのだろう。

人と精霊とでは感じ方も時間の感覚も違うからだ。


「空木チャン、もしそれが本気ならヒナトリに直接言ってネ。

ボクはもう伝言ゲームはしないよ。」


それだけ言うとペリは姿を消した。



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