◇すれ違い◇  (1)





「ねえ、ヒナトリ、どうするの。」


ペリがうんざりしたように言った。

空木うつぎ清伯木せいはくぼくとしての働きをあらわした日から数日経った頃だ。


「どうもこうも知らねえよ、あっちが口をきかないんだから。」


ヒナトリが怒ったように言った。


あれからあの部屋はすっかり姿を変えて柔らかな葉が壁の至る所から出て、

中心には樹で出来た玉座のようにソファーは姿を変え、

まるで小さな森のようになっていた。

そこにヒナトリはどっかりと座っている。


あの日から空木は仕事はちゃんとやるが

ヒナトリと一切話をしなくなってしまった。


「口をきかない、ってそりゃ自分が悪いんでしョ。」


ペリの姿は無い。

ソファーから生えた樹の中から聞こえて来る。


「俺のどこが悪いんだ。勝手に色々決められて不愉快なんだよ。」

「それは空木チャンも一緒だよ、

あっちも勝手に決めるなと思ってるんじゃないの。」

「それならあいつもお山に帰ればいいんだよ。」


ペリはため息をつく。


「そう言う話じゃないでしょ、それを言ったら身も蓋もないヨ。

それに二人は契約の刀を持ってるじゃん。」

「それはそうだがここまで束縛されるとは思わなかったんだよ。

それにいきなり刀を送り付けてだまし打ちじゃねえか。

身動きできないようにして仕方なく言う事を聞かせようという魂胆こんたんだろ?」

「それはボクもなんだかなと思うけどさ……。」


ペリはため息をついた。


「空木チャンが怒っているのはそんな事じゃないと思うよ。」

「じゃあなんだよ。」

「自分で考えれば良いんじゃない。

あ、空木チャン。」


廊下から空木がペリを手招きする。

その眼はヒナトリを見ていない。

ペリが姿を現して空木に寄って行った。

彼の髪は以前より短い。


「……。」


ヒナトリの胸がぐっと重くなる。


確かにあの時自分はまずい事を言ったのだろう。

だが、勝手に自分の運命を決められては愉快な話ではない。

それは空木も同じはずだ。

なのに今の態度はどうだろう。


「ヒナトリ、お客様だって。」

「分かった。」


直接俺に言え、と思ったが接客商売だ。

しっかりと切り替えなくてはいけない。

ヒナトリはネクタイを締めなおした。



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