◇清伯木◇  (3)



「普通は清伯木せいはくぼくは能力を使った後は全く身動きが取れなくなる。

なぜなら浄化したものが体内にたまり満ち満ちてしまうからじゃ。

そして清伯木はたいてい何日もかけて自然の中でその力を放出する。」


ペリは空木うつぎを見た。


「空木チャン、清伯木って知ってる?」

「名前は聞いたことがありますが……。

浄化するものですよね。」

「それが空木チャンなんだよ、知ってた?」


彼女の顔が驚きに変わった。


「めったに現れないもの、ですよね、まさか、でも……。

私はしろぐらいしか力はないと言われてましたよ。」

「その力があるからこそ、他の能力は現れにくいのかもしれん。

穂積ほずみから聞いてなかったのか?」

「聞いていませんでした。」

「なぜ話さなかったのかそれはわしにも分からんが、何か訳があったのかもな。

それで清伯木の空木殿がなぜ今すぐに動けるか、

むしろ調子が良いのかはヒナトリの存在じゃ。」

「俺?」


ヒナトリがきょとんとした顔をする。


「空木殿の中に貯まったをお前が吸い取ったのじゃ。

ヒナトリ、お前は他者に与え続ける癒しのたちだ。

でも吸われ続けては元々頑強だが限界がある。

そうなるとさすがに調子が悪くなるだろう。」

「まあそうだ。」


彼はここ数日それを感じていた。

昔からたまに起きてしばらく休めば治る。

だからその出来事にはすっかり慣れていたのだ。


「今日はどうだ。」

「すこぶる調子が良い。」

「要するにお前たちはほれ、

今で言う『ういんういんのかんけい』と言う奴だ。」


清伯木と言う存在をヒナトリは聞いた事はあった。

だがそれが目の前の小柄な女性であるとは思いも寄らなかった。

彼女本人が言う通りのただの依り代だと、

それだけだと。


「多分ある程度貯水槽に邪なものが溜まったらここに流れ込むように

この家や家具が変化しているのだろうよ。

それも含めて穂積は仕掛けを施したのだろう。

そしてそれを空木殿が受け浄化し、

ヒナトリが吸い上げて空木殿の体調を戻し、その力を癒しと変える。

その流れを穂積が作ったと思われるな。

ここは大自然の中ではない。

今まで言われているようなやり方では

膨れ上がる力を流せないと言う事じゃろうな。」


空木は言葉もなく呆然とした顔をしていた。

自分が清伯木であった事もだが、

なぜ父である穂積師が何一つ告げずこのような宿命に自分を落としたのだろう。

自分はもう子どもではない、話をすれば理解したかもしれない。


それなのに……。

それに一体その父はどこにいるのか。

気配すら感じない。

恨み事一つも言う事が出来ない。


ヒナトリが腕組みをして難しい顔をする。


「その仕組みは分かるがどうして俺なんだ、

第一その流れだと俺もこの街から離れられないって事だろう。

勝手に決めるな。


俺にだって選ぶ権利がある。」


ヒナトリが怒ったように言った。

はっとしたように空木が顔を上げ、ヒナトリと目が合う。

その途端、ヒナトリはいきなり決まりが悪くなった。

空木の顔がみるみる能面のように無表情になったからだ。




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