◇清伯木◇ (1)
「おや
すでに街は真夜中だ。
「お仕事があるので帰りますと言ってたヨ。」
白川は少し前に出て行った。
『どうもあのおじいちゃんの前だとおかしな気分になるのよね。
すごく食べてしまいたくなるけど長老だからダメだし。
仕事もあるから帰るわ。』
「なんじゃ、食べても良いのにのう。」
ペリは苦笑いする。
実際食べたらとてつもない
ペリは香りの良い抹茶とかりんとうを老人の前に出した。
「かりんとう、お好きでしョ。」
素鼠老がにんまりと笑う。
白く大きな歳に合わない歯がちらりと見えた。
「わしは硬いものが好きだからのう。
覚えていてくれてありがとう。」
「いいえ、ボクもおじいちゃんが来てくれて助かったヨ。」
ペリも彼が来たおかげで落ち着いたのだ。
「ところでな、」
素鼠老が抹茶をすすりながら言う。
「
「何だか朝からパッとしないと言ってたよ。
それで夕方になったら口がきけなくなって倒れた。
ヒナトリも調子が悪かったし。何か関係があるの?」
老人は腕組みをして一考する。
「……、さっきわしが
最近出来た巨大貯水槽と関係があるのは知っとるか?」
「うん、知ってるよ、最初空木チャンは真っ黒に汚れてここに来たんだ。
穂積師と一緒に術をかけていたって。
自分は
「依り代か……。」
素鼠老がずずと音を立てて抹茶を飲む。
「あの子は依り代ではない。
「セイハクボク?」
「全てを清らかに変える者、清浄を司る者じゃ。」
初めて聞く言葉だ。
空木がそれであれば彼女はペリ達に知らせたはずだが話してはいない。
「それってそういう能力があって自分の意思で使うの?」
「いや、自分の意思にかかわらずそう言う役目を生まれつき持っておる。
だから今回選ばれたのじゃろうな。」
「ねえ、おじいちゃん……。」
ペリが真剣な顔で聞く。
「あの貯水槽って結局なんなの?
水害対策でスゴク重要なものなのは分かるけど。」
「あれはな、」
素鼠老はかりかりと良い音を立ててかりんとうを食べた。
「この国の
人で言ったら腰のようなところでしかも気が
ここに物理的に暗く深い穴を作る。
確かに水が溜まって街を助けるか知らんが、
それと一緒に闇や悪も溜まりやすくなる。」
「それってそんなに怖い事なの?」
「ここは巨大な街というのを忘れるなよ。
ここは人の欲が渦巻く所じゃ、しかも大地の気が
そんなものが溜まってみろ、どんな作用がするか想像がつかん。」
「じゃあどうしてそこにそんな物作ったんだヨ。」
老人はため息をつく。
「そう言うものはな、今の時代は
それにここが出来ることで誰が利益を得るか、
そこからもう欲が渦巻いておる。」
「……、お金?」
「出来てしまったものは仕方ない、
それならその闇を打ち消す何かを仕掛けようとしたのが
手の内に清伯木を持っていた穂積じゃ。」
「空木チャンか……。
穂積師はこの街から出られなくなると言っていたらしいよ。」
「そうなのだ。ここで気が溜まる以上はあの子が浄化しなければ
いずれ何かが起こる。
犯罪みたいな悪い事はともかく、大地の
天変地異も起こる可能性もある。
ここは大都市だ。国の行く先を左右する可能性もあるのじゃ。」
地球レベルの何かが起こるかも、と素鼠老は言う。
大げさかもしれないが人の欲もかかわっているのだ、
天変地異だけでなく戦争のような恐ろしい事にも影響するかもしれない。
「一人一人の欲や闇は小さな事かもしれん。
だがそれが積み重なるとどうなるのかは想像がつくだろう。
そしてそれを未然に浄化することがどれほど大事か分かるな。
それを穂積とあの子はやるのじゃ。
多分自分の生命が尽きるまでな。」
いつの間にか外には雨が降り出していた。
ぱさりぱさりと微かな音がする。
雨はこの街に降り注ぐ。
地面に染みて流れていく。
行く先はどこなのか、その流れとともに人々が垂れ流した闇も
一緒に流れていく。
「空木チャンは知ってるのかな、
清伯木の話なんて一言もなかったよ。」
「うむ、話さなかったのは本当に知らなかったのかもしれぬな。
確かに清伯木は人に利用されることが多い。
だが、空木殿はもう大人だ。どうして穂積がちゃんと話さなかったのは
わしも少し疑問だ。」
その時だ、空木とヒナトリがいる部屋で何かの気配がする。
「おお、何か動きがあったな、行ってみようか。」
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