◇黒い卵◇  (3)



「大丈夫かしらね。」


白川しろかわが部屋を覗き込んだ。


そこは半日前には黒い卵があった部屋だ。

今はもうそれは無くいつもの部屋の様子だ。

だが、そこには若葉を出した枝が何かを覆いつくすように丸く生えていた。

その中心にはソファーがありヒナトリと空木うつぎがいるのだろうが

外からは全く見えなかった。

そのソファーは空木が初めてここに来た時に寝かせられていたものだ。


「多分大丈夫だと思うけどネ。あの葉の塊は嫌な感じはしないよ。

黒い卵も少しづつ薄くなって消えたし。」

「あれ、気色悪かったわね。

あたしは家にいたけど突然の気配でびっくりしたわよ。

見える人には分かったんじゃないかしら。

この原因はここだってすぐ分かったぐらいだもの。」

「でも白川サン、来た時は凄かったよ。」

「だって!!」


白川が身震いをする。

彼女は異変があってしばらくするとここに現れた。

だが建物に入った途端に皮膚に鱗が出て蛇化したのだ。


「すぐに収まったけど、

あんな邪悪なものに長い間触れたらこちらも染まってしまう。

あのまま蛇に戻ってしまって本性むき出しになるわ。

でもさすがにペリは染まらなかったのね。」

「いや……。」


ペリが髪の毛を見せる。


「毛先が染まっちゃったよ。毒気を髪に流したんダ。」


ペリの金髪の先が焦げたように薄黒くなっていた。


その時、店の入り口に何かの気配が現れた。

瞬間にペリが姿を消す。


「おや、ペリじゃないかね。」


玄関にいたのは痩せてひげを生やした年寄だった。


素鼠老すねろうサン。」


穏やかな顔立ちの老人だ。


「何やら大変なことが起きてるみたいだから来てみたんじゃが……。」

「そうなんだよ。」


ペリが老人を部屋に招く。


「おっと、白川嬢もおいでか。まあ、今日はお手柔らかにの。」

「あらまあ、おじいちゃん、今日も可愛いわね。」


素鼠老すねろうは名の通り鼠の物の怪だ。


「おお、これは……。」

「おじいちゃん、分かル?」

「うーむ、穂積ほずみから言われていたんじゃがな。」

「穂積師から?」


老人は腕組みをする。


「少し前にな、ある術式を組むがどのように現れるか分からんから、

何かあったら頼むと言われていた。

で、ここ数日おかしな気配があったから気を付けていたら

つきみや殿から連絡があったので来たのじゃ。」

「大きい黒い卵みたいなのが現れて、先に空木チャンが飲まれて

次にヒナトリが吸い込まれたんだよ。

ボクもこんなものは見た事が無いし、触れないし……。

何時間かしたらどんどん卵が薄くなってこの樹が出て来たんだ。」


素鼠老はうなずく。


「黒い卵はお前は触ってはいかん。わしらでも危険なものだ。

だがこの樹の塊は……。」


彼は目を細めた。


「嫌な感じは全然せんな。

このままほっておいて良いじゃろう。

わしも初めて見たわ。多分中に二人がいると思う。

そうじゃな、ペリ君、お茶でも入れてもらおうか。

どうやら時間がかかりそうじゃ、気長に待つとしよう。」



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