◇築ノ宮◇
「長年に渡る計画の後、ついに完成いたしました巨大貯水槽ですが……。」
真新しい遊具やまだ小さく細い樹木が
ぱらぱらと植えられている巨大な公園だ。
芝生だけがひどく目立つ。
あの巨大貯水槽の完成式典だ。
今日はそれに合わせてイベントも行われていて市民がたくさん集まっていた。
白いテントで誰かがスピーチをしているがごく一部の人が聞いているだけで、
家族連れが多くほとんどは遊んでいる。
「綺麗な公園になりましたね。」
一月ほど前にこの真下で壮絶な経験をしたのは忘れてはいないが、
この公園の広々とした様子は気持ち良かった。
「まあこの街中でこれぐらい広い場所があると言うのは良いもしれんな。
ところでお前、その服は一人で買いに行ったのか?」
先日センスがあまりにもひどいと言われた空木だが、
今日は水色のシンプルなワンピースを着ていた。
自分のセンスもひどくてペリに選んでもらっているくせにと
空木は思ったが、
「
「そうか、それが正しいな。」
その時だ。
「空木様、ヒナトリ殿、よくお越し頂きました。」
後ろから声がかかる。
二人は振り向いた。
「
空木様にはその節は大変にお世話になりました。
かなりご苦労されたようですね。」
微笑みながら話しかけるすっきりとした顔立ちの若い男性だ。
「
空木が呼びかけ頭を下げた。
「確かに大変でしたが無事終わりましたし、
このように綺麗な公園が出来て私もうれしいです。」
彼女がにこりと笑う。
それを築ノ宮が細くなった目の奥から見る。
その瞳には感情が見えない。
「
ヒナトリが築ノ宮を呼んだ。
様付けではあるがどことなくぶっきらぼうな言い方だ。
「あの刀と鞘は宮様が送ったのか?」
築ノ宮がほほと品良く笑う。
「築ノ宮の契約の刀と鞘ですね、
そうですよ、お役に立つと思って。
ヒナトリがぼりぼり頭を掻く。
「いやー、いきなり送られてもこちらも困るのですよ。
せめてこちらの意思も確かめていただかないと。
なあ、空木。」
突然話が振られて彼女はどう答えて良いのか分からず
何も言えなかった。
第一、ヒナトリや空木の世界では「築ノ宮家」と言ったら
それなのにこのような開けた場所で話をして、
その上こんな砕けた調子で話をするとは。
ヒナトリのこの態度は空木にとっては青天の
「ほらほら、彼女が困っているではありませんか。
仕方ありませんよ、それしか方法が無かったのですから。
でもいずれお二人はこの選択に感謝すると思いますよ。
特にヒナトリ殿は。」
そんなヒナトリの態度に怒りもせず
アルカイックスマイルを浮かべたまま彼は言った。
「お、俺が?」
「私はヒナトリ殿の全てを知っていますが、
空木様には彼を任せても良いと思っています。
これからもご苦労を掛けると思いますが、
多分彼といれば大丈夫でしょう。
ヒナトリ殿をよろしくお願いいたしますね。」
彼が空木に近づき手を握る。
そして今までの取りすましたような笑顔でなくにやりとヒナトリを見た。
「てめぇ……。」
「おや、そろそろ行かなくては。
空木様、これからもご懇意に。」
彼の後ろに背広を着た体格の良い付き人が現れた。
いわゆるシークレットサービスのようだ。
それを見ても築ノ宮という人物が重要人物であることが分かる。
空木はあっけにとられ、ヒナトリは苦々しい顔で見送っていたが、
少し離れたところで築ノ宮が振り向き、
一瞬いきなり子どもがするように舌を出した。
空木は彼とはあの術をかける前に穂積師とちらりと会っただけだったが、
位の高い人であると言うだけで相当緊張したのだ。
だが、今の築ノ宮はこっそりと悪戯をする子どもの様だ。
あまりにも可笑しく空木は吹き出した。
「すかした野郎だろ。あいつ昔からそうなんだ。
何かあれば俺の全てを知ってるとか言いやがって、くそっ!
良い所の坊ちゃんじゃなければボコボコにしてやるのに。」
涙が出る程空木は笑った後、
「昔からのお知り合いなんですか?
私は一度しか会っていませんがあのようなお茶目な方とは思いませんでした。」
「何がお茶目だ、穂積師の所にいた時に一緒だったんだよ。
あの時にやれば良かった。」
「でもヒナトリさんが実際そんなことをしたら
あの方死んでしまいますよ。」
大柄のがっちり体型のヒナトリだ。
「死なねぇよ。きっと全力で式神を寄越して俺が返り討ちに遭うからな。
ちっ、面白くねぇ。」
ヒナトリは腕組みをして怒っている。
「ところでヒナトリさん、俺の全てって何ですか?」
「お前には関係ない話だよ。」
空木はいまだに笑っているが、ヒナトリは全く面白くはなかった。
だが今日のその感情はいつもの彼に対する腹立ちとは少し違う。
それが何なのかヒナトリには分からなかった。
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