第71話:ゴブリン王国建国……するわけがない
「国を興すという話ですが、悪くないと思いませんか?」
机に両肘をついて、手を組んでこっちに微笑みかけるちょい悪親父。
うん、ランスロットさん。
出会った当初の聡明さや紳士さが鳴りを潜め、絶賛悪役っぽい感じ。
悪の組織の大幹部的な。
というか、トップっぽい雰囲気。
思わず息を吞んでしまった。
「あまり揉め事は起こしたくないかなーっと」
「なるほど、穏便な感じに……いや圧倒的戦力差で、一方的に要求を呑ませ心を折るということですか。フフッ、なるほどなるほど。あなたとは、気が合いそうだ」
いやいや、勝手に話を飛躍させないでほしい。
さっきの言葉のどこを切り取ったら、そんな発想に。
そうだった。
笑ってるうちは、怒り継続中だったんだ。
「ランスロットさんの復讐に、私たちを使わないでほしい……かな?」
「サトウ殿も……いや、敢えてこう呼ばせてもらいましょう。サトウ様も、あの連中には色々と思うところがあるのでは? お互いの利害は一致していると思いますが」
飛びすぎだろう。
利害は一致しているかもしれないが、温度差が凄い。
「とまあ、ここまでは冗談です」
分かりにくい。
不機嫌っぽいし、纏ってるオーラが物騒だから文字通りに言葉が受け入れられない。
「とりあえず村内の戦力を見た限り、ミスト王国相手にへりくだる必要はありません。私クラスのゴブリンが数匹いるだけでも、ある程度の抑止力になりますし。先ほど言った、アスマ殿の力が借りられたら相手にすらなりませんよ」
その、アスマさんに対する絶大な信頼はなんなのだろう?
俺の前で、そんな恐れ多い姿を見せてもらったことが無い。
「なので、強気の交渉でいきましょう」
元から、割と強気だったと思うんだけど?
「もっと強気に自治区だとか言わずに、ミスト王国内治外領域としてこの森全体を含め認めさせましょう。その上で近隣の町や村を取り込むのがいいかと思います」
独立と何が違うのだろうか?
「ミスト王国の法や権力は及びませんが、保護する義務は発生します。一応、ミスト王国という区分にはなりますので」
凄いなー。
なんて嫌な領域なんだろう。
好き放題やるけど、何かあったらよろしくねって。
「後ろ盾や、災害救援、食料飢饉に対する物資提供、その他いろいろとありますよ?」
魅力的なような、そうでもないような。
とりあえず、ゆっくり考える時間が欲しいかな。
「そうですよね。別に認めさせなくとも、自由にできるだけの軍事力はありますし。まあ、保険のようなものと気楽に考えてください」
あっさりと引き下がってくれたからよかったけど、ニヤリと笑ったのを見逃さなかった。
別に認められなくても、自由にできると思ったのだろう。
ただ、まだランスロットさんを受け入れると決めたわけじゃ……
「とりあえず、バハムルはともかくミレーネは確実にここに戻ってきますよ」
そうだった。
2人を一度、王都に送り返すって話だった。
「私と同じ方法で」
それは、兵を殴り飛ばして、扉を殴り壊してってことかな?
ついでに、王様を殴ったりしなければいいけど。
「ウィルソン次第ですな。彼の接し方次第では、その限りではありません」
あー……王様でも変なことをすれば、ミレーネに殴られるのか。
話をいったん保留にできただけでも、よしとしよう。
それからランスロットさんが、バハムルとミレーネに声を掛けている。
「お前らは捕虜だからな? 馬で帰ろうだなんて、甘えたことをぬかすな! 徒歩で帰れ! 徒歩で!」
厳しいな。
2人が泣きそうになってるけど、取り付く島もなさそうだ。
家族水入らずで、しっかりと話し合ってほしい。
とりあえず、家の空気が悪いので外に逃げる。
一瞬、ランスロットさんと目が合ったけど、顔をそらして出てきた。
まだまだ寒いけど天気がいいので、外をブラブラと歩く。
たまには、外で食事を取るのも悪くないな。
いや外食という意味じゃなくて。
飲食店なんかないから。
外で調理して食べるという意味。
バーベキューとか、野外炊飯とか。
野外炊飯……懐かしいな。
習い事の関係で、高校2年生くらいまでは毎年のようにしてた。
大学生になっても。
カレーばっかりだったけど。
鉄板で焼きそばを作ったりも。
そうだな、焼きそばは悪くないな。
ついでに、その横で焼き鳥を焼いてもいいかもしれない。
あー……倉庫部屋に繋がってる鞄は、家に置いてある。
そして、ジャッキーさんに貰ったクーラーボックスも。
鶏肉……
この世界の鳥を食べるのは、まだちょっと勇気が足りない。
だから、ストックの鶏肉を串に刺すのが、一番なんだけど。
ジャッキーさんを呼んで用意してもらおうかな?
でも、こんなことのためだけに呼んだら、怒られそうな気がする。
相談する相手もいないし……一回目ということで、大目に見てくれたりしないかな?
今後のこともあるし、相談を兼ねてという形で。
相談するまでもなく、駄目なことは分かっている。
最低でも絶対に小言を言われるレベル、酷ければ怒鳴られるレベルの相談だということも。
ただの口実だし、怒られることが確定事項なら心を無にすれば問題ない。
開き直りだ。
叱られようが怒られようが、時間は戻らない。
それに、怒られることが予想出来ている時点で、何が悪かったのかは理解している。
自省もしているから、怒られること自体が無意味で無価値だと思えば何も考えずに聞き流せる。
まあ、怒られそうだと分かっててこれから行動するから、ちょっと違うパターンだけど。
予想できているからな。
ダメージはない。
ジャッキーさんに迷惑?
ふふ……俺よりも合コンに熱意を注ぐような上司に迷惑を掛けたところで、なんとも思わない。
実の無い合コンよりも、よほど生産的だ。
ということで、ジャッキーさーん!
「はいはーい!」
いや、かといって嬉しそうに来られたら、ちょっとまた話が変わってくる。
そのテンションで来られると、流石に少し後ろめたい。
「ちょっと家に戻りづらくて、外で焼き鳥や焼きそばをしようと思ったのですが食材が」
「はっ?」
あっ、怒るとか叱るとか以前に、キョトンとされてしまった。
これ、徐々に理解して、怒りが湧いてくるパターンかな?
「食材を用意してもらえたら、ご一緒にどうかなと」
「そういうことなら! バーベキューみたいなものですよね? まだ昼休憩も取ってないんでいいですよ」
とっさに誘ってしまったが、無邪気に嬉しそうにされると少し申し訳なく感じた。
全力で接待するか。
「鶏肉と、串と、焼きそばセットですね」
ジャッキーさんがすぐに取りに行って、15分ほどで戻ってきた。
鶏肉、野菜、豚肉、やきそばの麺、串、それ以外にもフランクフルトやら卵やら。
なぜか、ビールまで。
「飲むんですか?」
「もちのろんです!」
もちのろんて……
中年狼め……
明らかに2人前じゃない材料の数々に、これはゴブリンの参加も期待しているなと。
雌ゴブリン達を集める。
調理自体は俺がやるから、にぎやかしだな。
ジャッキーさんの機嫌がよくなったのが、はっきりと分かる。
まあ、こういう人だから、逆に救われるというか。
人じゃないけど。
どんどん人が集まってきて、それぞれが色々な食材を持ってきてくれる。
ちょっと待て。
その肉は、こっちの肉に混ぜないように。
俺は食べないから。
捕虜となった貴族の連中も集まってきた。
ゴブリンと一緒に仕事してるから当然か。
もういいや、なるようになれ。
「お酒、追加で取ってきまーす!」
この中で一番立場が上のジャッキーさんが、こまめにせっせと動いているのがなんとも微妙な気持ちにさせられた。
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