第70話:ランスロット帰還
とりあえず着いて来たがったアリスを、アスマさんに押し付けてランスロットさんのいる場所に。
かなり待たせたけど大丈夫かな?
「お待たせしました」
「いえ、なんのなんの」
そこまで気にした様子はなさそうだった。
とりあえず、大丈夫かどうか確認。
「王都では色々と大変そうだったみたいですが、大丈夫ですか?」
「ふむ、問題ないですな。むしろ、いまは晴れやかな気分です」
何があったのだろうか?
とりあえず、家に招いて詳細を。
途中でエルハザードを見て固まっていたが、首を横に振って着いて来た。
「まあ、アスマ殿がくつろいでいるような村ですしな」
リビングでアスマの膝でテレビを見ているアリスを見て、また一瞬固まったが。
乾いた笑い声で、椅子に座ってくれた。
「で、何があったのですか?」
詳しく話を聞くと、どうやら彼が不在の間に敵対派閥が動いたみたいだった。
そういうことが、あるのか。
バハムルを亡き者にするため、彼が手を下したのではないかと。
それをゴブリンに押し付けたという疑惑だった。
そもそもが、ゴブリンごときに騎士が負けるわけがないと……
まあ、普通はそう思うかもしれない。
で、軟禁状態だったと思うのですが?
「見張りの兵を殴り飛ばして、扉を殴り壊して、装備を回収して陛下を……いや、ウィルソンをぶん殴って、ここまで一騎駆けで戻ってまいりました」
ウィルソンさんって誰、あっ、王様?
そうですか……
えっと、それって大問題じゃ……
「特に、問題はありませんな。私はもう、王国の貴族ではありませんので」
「問題しかないと思うんですけど」
「見限りました。流石に、陛下があそこまで馬鹿だとは……」
大丈夫なのかな?
大丈夫じゃないと思う。
家族とか……連座で。
「はっはっは、ウィルソンにそこまでの度胸はありませんよ。いまごろ、妻にものすごく怒られていると思いますよ」
えー……言ってる意味が分からない。
「私の妻はウィルソンの姉ですから。ですので、バハムルもミレーネも私の甥と姪にあたります」
ランスロットさんは、かなりの大物だった。
いや、だったら猶更。
こんどは、お城の方が大変な騒ぎじゃ。
「そうでしょうな……侯爵家の、いや妻を娶って公爵家となった家の当主を軟禁したあげく、取り逃がしたのですから。不信は募ったと思いますよ」
笑い話じゃなさそうだけど、ランスロットさんが豪快に笑う。
「というわけであのバカ二人に対しても、もはや臣下でもなんでもありません。ただの伯父として接することにしますし、伯父としてサトウ殿に多大なご迷惑をお掛けしたことを謝罪いたします」
いや、こっちは大丈夫だけど。
「で、なんで戻ってきたんですか?」
「それはもう、独立するためですよ。ここゴブリンの村をミスト王国の領地ではなく、一つの国として興しましょう」
何言ってるか分からない。
「大丈夫ですよ、私も手伝います」
あっ、ずっとニコニコしてて、たまに声出して笑ってたけど。
これ、めちゃくちゃ怒ってる。
ミレーネもバハムルも一度扉を開けて中を覗いたあと、部屋に戻ってここに近づこうとしてこないし。
「とりあえず義弟がうるさかったですが、お前の娘と同じことをしただけだと言って黙らせました。それと、子供たちの教育の失敗を人のせいにするなとも……他には……」
結構好き勝手言いたい放題したあげく、ぶん殴ったのか。
自国の王を。
しかし、姉の旦那が相手じゃ……
強いなー、はっちゃけたランスロットさん。
色々と。
確かにミレーネも、護衛を殴って壁を突き破ってみたいな話を聞いたし。
伯父、姪だな。
もしかしたら、ランスロットさんの奥さんがそうなのかもしれないけど。
「でも、独立というか国として宣言するには小さすぎるし、戦争になったりとか」
「なるわけないですよ」
ん?
「なるわけがない」
えらく、はっきりと言い切る。
どこからそんな自信が。
「ふふ、便利な人質が大量にいるではないですか」
そう言って悪い笑みを浮かべるランスロットさんに、ちょっと引いてしまった。
怒らせちゃダメな人、怒らせたんだなー。
「幸い、ここには優秀な回復魔法の使い手も多くいますし……指に、耳、鼻に、目、手や、足……ちょっとずつ切って送れば、十数人の人質でも長く使えますし。ましてや、王子と王女までいるんですから」
うわぁ……
扉の向こうから、ガタガタ音が聞こえた。
部屋に戻ったふりをして音を立てずに戻ってきて、盗み聞きしてたな。
「まあ、そもそもアスマ殿がいる時点で、戦争にはなりませんがね。国滅の名はかなり有効です。なぜか、暴力と無邪気もいますしね」
暴力と無邪気?
「最強と最凶の魔王のことですよ」
国滅に比べて、なんか残念な二つ名だな。
「残念かもしれませんが、凶悪ですよ」
そうは見えないけどな。
暴力馬鹿は納得だが。
「馬鹿とまでは言ってませんが、まあ世間からはそう思われてるでしょうね。さて……と」
そこまで話したところで、ランスロットさんが立ち上がる。
それから扉の方までゆっくりと歩いていくと、一気に開く。
「バハムル、ミレーネ……さぞや、楽しかっただろうな? この休暇は」
急に扉が開いたことで、部屋に雪崩れ込んできた2人をランスロットさんが腕を組んで見下ろしている。
「ラ……ランスロット」
「じ……じい?」
2人が恐る恐る声を掛けているが。
「ん? 先ほど王国から亡命したから、俺はもうお前らの家臣でも教育係でもないぞ?」
「お……伯父上」
「お……伯父様」
2人の言葉に、ようやくランスロットさんが笑みを浮かべて頷く。
「そうだ、お前らの伯父だ……さて、分かっておるな?」
あっ、だめだ……この人、怒ると笑う人だ。
特大の雷が落とされて、2人が慌てて帰る準備をさせられることになっていた。
さっき、人質にするって言ってた気がしたけど。
「まあ、これでも可愛い甥と、姪ですからね。だからこそ、甥を殺すような男だと思われたことが腹立たしい……」
なんで、信じちゃったんだろうな。
その敵対派閥の人達の言葉を。
ウィルソンは。
馬鹿じゃないかな?
結果、虎の尾を踏んだっぽいけど。
「で、サトウ殿には、是非手伝ってもらいたいことが」
うーん、笑顔でのお願いだけど。
断るのが怖い。
聞いたら断れなくなりそうだから、聞きたくないけど。
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