第69話:最凶の魔王アリス

 突っ込まないわけには、いかないだろうか?

 このまま、スルーしてたら帰っていかないかな?


 ソファで仰向けに寝ている骸骨の胸に、顔を埋めて寝ている幼女を。

 肋骨は固いかもしれないけど、着ているローブは上質なものだしな。

 ゴブ美が掛けたのか、幼女の上からアスマさんに毛布が掛けられているし。


 ただ、上等なローブが涎で大変なことになっているけど、大丈夫かな?

 染み取りの魔法があるから、問題ないだろう。


 とりあえず、事情を知ってそうな人を捕まえる。

 うん、エルハザード。

 昼の部の鍛錬が終わって昼食をとりに戻ったところで、こっそりと隣の部屋に。


「なんだ?」

「アスマさんの上で寝ている子供は、誰だ?」


 俺の言葉に、エルハザードが腕を組んで難しい顔をする。


「俺の数世代前の魔王だ」

「てことは、元魔王か」

「ああ……数少ない、他種族の魔王だ」


 他種族の魔王?


「基本的に魔王になるのは魔族なのだが、まれに他の種族が王となることがある。竜だったり、悪魔だったり」


 へえ。

 それって、問題ないのかな?


「実力を示せばな。魔族が魔王だった場合、四天王や側近を倒さねば魔王には挑めん……が、魔族以外の魔王の場合は側近含めて、全ての魔族が下剋上を狙う」


 そういうものなのか?

 他種族が魔王だと、事前の手続きなしでいけるのか。


「ちなみに複数人で倒しても良いが、その程度の実力だと一瞬で代替わりをすることになる……それに、排除した元魔王から狙われることもあるしな」


 そう言って、豪快に笑っているけど。

 胡麻化そうとしてないか?

 俺は、あの子のことを聞いてるのだが?


「せっかちなやつめ……そんな中でも、あやつが最凶と呼ばれるのは……」

「呼ばれるのは?」

「あやつが元凶で、魔族が2つに割れそうになったからだな」


 どういうことだ?


「あれはヴァンパイアとサキュバスのハーフなのだが、ややこしいことに母方の祖先に様々な血が入っておる」


 うーん……


「サキュバスは人間どものイメージ程、尻が軽いわけではない。夢の中で遊ぶだけで、現実では割と身持ちは固いぞ?」


 まあいいや。

 続きを。


「それだけ優秀な淫魔の血を引いておるということだが……その祖先に混ぜるな危険な種族が混在しておって、割と出鱈目な能力になっててな。前任の魔王がワンパンでやられた」


 す……凄いな。


「いやノーダメージだったが、可愛くてやられたフリをしたらしく……まあ、当然他の魔族が集団で襲い掛かったが、そこから恐ろしいことが起こった」


 何があったんだ?


「最初はおどおどして、周りに味方を探しておったが誰も助けるものはおらず……声を出して助けを求めるが、無視されておった。ところが、あやつが「お兄ちゃん!」って叫んだ瞬間に……魔族同士の殴り合いが始まってしまった」


 日本人が転生したんじゃないだろうな?

 いや、周囲の魔族に元日本人がいたとか。

 まあ、エルハザードには分からないだろうから、黙って聞こう。


「私のために争わないでと言いだして、ようやく混乱が落ち着いたが。親衛隊もできたおかげで、80年くらいは魔王やってたな……唐突に飽きたといって、部下に押し付けて消えたのが400年前か」


 ロ……ロリババア。

 とりあえず、どういう存在かは分かった。

 寝ている子を起こすのも気がひけるし。

 うん、ありがとう。

 飯にしようか?


 それから、エルハザードとゴブ美とミレーネ達人間組と、あとなぜかキノコマルと昼食を。

 ただ、ガードとギイはゴブマルのところに行ってるらしい。

 なんの用事かは聞いていないが、仲がいいのは良いことだ。

 昼食も、一緒に食べるらしい。

 で、食事も終えて各々が自由な時間を。

 俺は、仕方なくアリスのことを聞きに。


「お前がサトウじゃな! わらわは、元魔王のアリスなのじゃ!」


 のじゃって……ロリババでのじゃロリか。

 属性が多すぎて強いな。

 ハザードがついてないけど、魔王だから名前にハザードがつくってわけじゃないのか。


「初めまして、サトウだ」

「おぬし、年上に対して態度がなってないのう」


 そんなこと言われても、リアルロリババアなんか見たことないしな。

 どう扱って良いか分からないし。


「まあ、わらわは寛大じゃから、許してやるのじゃ!」


 じゃあ、最初から言わないでほしい。

 余計な一言だと思うぞ?

 気を遣った方がいいのか、どうなのか。

 

「で、そのアリスはなんで、ここにいるんだ?」

「暇じゃったからじゃ! アスマのおんじと、エルハザードのおっちゃんがおるしな」

「おっちゃんって……お前の方が年上だろう。しかも、なんだその喋り方は? 前は、そんなんじゃなかっただろうに」


 おっちゃんと呼ばれたエルハザードが、呆れた様子で突っ込んでいるけど。


「ん? この喋り方が流行ってると、おんじに聞いたのじゃ!」


 おい、骸骨!

 余計なことを教えるんじゃない。

 この世界にその需要はないと思うぞ?


「ちなみにアスマさんとアリスだと?」

「ああ、アリスの出産に、わしが立ちあっての。彼女の祖父母の代からの交流があるが、アリスは割と難産でのう……母子ともに危険じゃったから、助けを求められての」

「そうなのじゃ! じい様やばあ様、てて様やはは様から何度も言われたのじゃ! おんじは、わらわとはは様の命の恩人なのじゃ!」


 その喋り方、気に入ってるのかな?

 堂に入っているというか、普通に使いこなしてるな。


「おんじは物知りじゃし、面白いこともいっぱい教えてくれるから大好きなのじゃ」

「うむうむ、わしもアリスが大好きじゃよ」

「じゃあ、結婚するか?」

「ふーむ……アリスがお嫁さんになれるくらいおっきくなるまで、わしは生きておるかのう」

「そんなこと言ったら嫌なのじゃ! おんじは、死なないのじゃ!」


 いや、まあ……はたから見たら、おじいちゃんと孫の会話かな?

 てか、数百歳でこれなんだよね?

 おっきくなること、あるのかな?

 あとリッチが生き死にの話をするの、毎回モヤっとするんだけど。

 流石に、もう突っ込む気も失せた。


 ところで、昼食の時からキノコマルもいるけど、なんでまだいるんだお前。


「ロードに報告っす」

「あっ、そう。いや、報告ならすぐ言えよ」

「ランスロットさんが、帰ってきたっすよ!」


 おまっ! 

 そういうことは、早く言え!


「ランスロットさんが帰ってきたっすよ!」


 違う、そうじゃない!

 いや、一繋ぎで早口でって意味じゃなくて。


「冗談っすよ! そんくらい、うちだって分かるっす! ロードって、ピュアというかなんというか」


 くそっ……お前が、そう思われるくらい馬鹿なのが悪いんだろうが!

 いや、いまはこいつに構ってる場合じゃない。

 てか、ランスロットさん早すぎだろう。

 イッヌの部下がここを出て、まだ一週間も経ってないけど。

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