第68話:見回り

 イッヌの送った騎士達が王都に着くまでに、早くても2週間はかかるらしい。

 意外と遠いことにびっくり。

 なんで、こんな辺境の地のゴブリンに興味をもったのだろうか?


 王都の冒険者ギルドに変わったゴブリンの報告があったと。

 王都本部のギルマスは笑って流そうとしたところ、その場に居合わせたミレーネが……

 なんで冒険者ギルドに出入りしていたかは聞かない。

 なんとなく、ミレーネの為人ひととなりを理解しているから。

 某、竜の冒険の第4作の姫様と同じ匂いがする。

 そう、お転婆てんばの匂い。


 あっ、一騎だけ先行して、早駆けさせていると。

 途中途中の町や村で、馬を乗り継いで。

 それとカマセ領から、直接王都にも兵を派遣しているとのこと。

 早まってランスロットさんが、処刑されないようにと。


 相当ランスロットさんには、恨まれてるだろうな。

 貴族専用の軟禁部屋に、閉じ込められているらしいから。

 牢獄じゃなくてよかったと思ってもらおう。


 ちなみに恨まれているのは、バハムルなんだろうけど。


 さてと……そうなると、うちで預かってるバハムルをはじめとした貴族たちの処遇が決まるのは、楽観的に見て4週間。

 裏どりやらなんやらを考えると、1~2ケ月はかかりそう。


 なので、のんびりと構えることに。


 ちなみにバハムルの連れてきた貴族の騎士たちは、おのおの好き勝手に過ごしている。

 といっても、村にとっては前向きな過ごし方。

 

 イッヌに続いて、ゴブリンとの恋に発展しそうな人もちらほらいるが。

 ちょっと、外から男性ばかり入ってきてるから、バランスが悪い。

 かといって、女性を攫ってくるわけにもいかない。

 そして、自発的にこんなところに女性が来るわけもない。


 リビングで、アスマさんが幼女を膝に乗せて映画鑑賞をしているけど。

 突っ込まない。

 ややこしい匂いがするから。


 だって、エルハザードがその幼女を見た時に、ビクッとなってたから。


「歴代最凶の魔王がなぜここに?」


 とつぶやいていたけど、聞こえなかったことにする。

 そもそも、女性ではなく幼女だから。

 その幼女も、ゴブ美に木木木永のビスケットをもらってご満悦そうだし。

 なによりも、アスマさんが楽しそう。


 他の貴族の子弟たちは、ゴブリンに混ざって農作業をしてるものもいる。

 アスマさんの勉強会や、エルハザードの鍛錬に参加したり。

 小物づくりやら、薬品づくりの手伝いをしてるものも。

 村の外にはまだ雪が積もっているけど、外に狩りにでているものもいる。

 ある程度の雪はアスマさんが、魔法でなんとかしてくれている。

 その道からそれると、ずっぽりはまるほど積もっているけど。


 だいぶ染まっているけど、大丈夫かな?


 とりあえず、問題なさそうなので村を見回る。


 ちょうど、エルハザードが剣の扱いを、子ゴブリン達に教えていた。

 今は、初級の部の時間か。


師匠せんせい!」

「なんだ、キット」

「どうやったら、キノコマルのおじちゃんを倒せますか?」


 それは、俺も気になる。

 まあ、かわせないくらいの広範囲に爆裂魔法でも撃ちこめば……事前に察知して、その範囲外に逃げそうだけど。


「うむ……それが分かれば、俺も武の頂に到達できていると思う」


 だよね。

 エルハザードの攻撃も、まだかすりもしてないもんね。


「チヨは、もう少し軽い剣の方がいいな……テリー! クイナをいじめるな!」

 

 ……

 この場にいる子供たちの名前を、全員分覚えているのかな?

 俺が名づけしてないゴブリン達って、普通の名前だから覚えにくいのに。

 そのうえ、見わけも難しいのだが……子供なら、なおさら。

 ちょっとあれな性格だと思ったけど、ちゃんと先生をやっていることに一安心。

 見直した。


「ん? サトウか。どうだ、お前も参加するか?」

「いや、いいよ。邪魔になるだろうし」

「強者の模擬戦を見るのもまた、子供たちの成長につながると思うが」

「俺は、強者じゃないからパスで」


 隙あらば、挑んでくるな。

 それさえなければ、もう少し扱い方を考えるのに。


 それから、長老たちのいる場所に。

 7賢人と称されるまでに賢くなっているが、あくまで村の中での話だ。

 しかも、人ですらない。

 

「何が失敗だったのだろうか?」

「ここの魔力回路が焼き切れておる。ここに、魔力が集中して過負荷になったのだろう」

「ここからここに至る魔力の流れと、こっちの回路の魔力の流れの速度が違うようだ」

「ああ、それで一度に複数方向からの、魔力がここの分岐点に集中したのだな」

「しかし、なぜそのようなことに」

「魔力の中継点の魔石が均一ではないからだろう。おそらくだが、この結果から魔力量ではなく魔石の大きさも魔力の流れに関係していると思われる」

「同じ魔力量でも、小さな魔石に込めた方が回路を流れる速度は速いみたいだな」

「ようやく、魔力で回転運動をする魔道具を生み出せると思ったのだがな……」

「羽を回すことに成功したからと、調子に乗りすぎた。まだ魔力による回転運動での発電関係は時間が掛かるか」

「各回路に転換器のように、回路の進行を分岐させる仕組みを入れてみてはどうだろうか?」


 ……

 何をやっているのか、分からないけど賢そうだ。

 ざっくりと、発電機でも作っているのかなと思ったけど。

 雷系統の魔石とかないのかな?


 とりあえず集会所をあとにして、村の見回りを再開。

 だいぶ、綺麗になっている。

 というか、普通に村だな。


 ゴブエモン達が素振りをしているのを横目に、村の中央にまで来る。

 特にやることはないので、ベンチに座ってゆっくりとゴブリン達の様子を眺めるとしよう。


 俺が見ているからか、皆どことなく凛々しい表情をしているけど。

 普通にしていいんだぞ。


 いや、気を抜いたフリをしろというわけじゃなく、自然体で。

 そんな、困ったような表情をされても、俺も困る。

 いまさら、俺が見てたからといって、緊張するような間柄でもないだろう?


 改めてジッと見られることがなかったから、一度意識したら普段の自分が思い出せなくなった。

 そうか……そういうこともあるかもしれない。


 諦めて、家に……それはダメなのか?

 見てもらいたい気持ちもあると。

 どうしたら……うん、そうだな。


 じゃあ、いま何をしてるのか教えてくれ。

 俺も一緒にやろう。


 何もしてません。

 ただ歩いているだけですと言われると、俺も困る。

 いや、じゃあ一緒に歩こうか。


 デートみたいですねと言われたけど、まあそうかもしれない。

 とりあえず、嬉しそうだからよしとしたいけど。

 あちこちからゴブリン達が集まって一緒に歩き出したから、デートっぽかったのは1分程度だけ。

 なんか、医療ドラマとかでみる総回診みたいになってしまった。


 いろいろな話が聞けたから、やっぱりよしとしておこう。

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