第56話:凄い骸骨と、偉い王族

「なあ、お前らって優秀な弟とかいたりする?」


 俺の家のリビングで、美味しそうにラーメンをすすっているバハムルとミレーネに聞く。

 2人が首を傾げる。

 似たような顔で似たような仕草をする2人を見て、改めて兄妹なんだなと実感。


「ああ、目に入れても痛くないほど可愛い弟がいるぞ?」

「うむ、あれはまさに天使だな」


 そういうことを聞いているわけじゃない。

 こいつら、王族の割には兄弟仲がいい。

 もっとこう権力争いで、ドロドロとしてるかと思ったけど。

 知り合いや、身近なところに王族がいないから勝手な思い込み。


「優秀なのか?」

「おお、それはもう。魔法も武器も勉強も、全てにおいて天才だ!」

「この間なんか、8歳にしてすでに火の魔法を使っていた」


 そうか。

 8歳なのか。

 8歳で魔法を使えるって、優秀なのかな?


「王族のように恵まれた教育環境であれば、多少早い程度だな。大国であれば、普通だ」


 アスマさんの言葉に、やはりただの兄馬鹿、姉馬鹿かと話半分で聞くことに。

 いや、なんでこんなことを聞いたかというと。

 ちょっと、嫌な予感がしたからだ。

 もし、こいつらにスペアがいるなら、送り返した騎士たちは帰ってこないかもしれないと。

 なんせ残念プリンセスに、王族史上まれにみるアホ王子。

 王様が退位できずに、ズルズルと歳を重ねる羽目になるレベルの。


 ……ランスロットさん、帰ってくるかな?


「食ったけど、帰らないの?」

「うむ、今日はアスマ殿と映画鑑賞だ」

「やることがないからな」


 なんでバハムルがいるのかと思ったら、アスマさんが呼んだのか。

 さっきからポンポン、ポンポンうるさいなと思って音のなるほうを見たけど。

 アスマさんが離れた場所で左手の手の平から火をだしながら、右手でアルミホイルの蓋のついたアルミホイルでできたフライパンみたいなのを振ってた。

 ポップコーンを作ってたのね。

 準備万端だな。

 この辺りの手間をゴブ美に任せずに自分でやるのは、やはりおもてなしの気持ちでも芽生えているのかもしれない。

 ちなみに、ここ俺の家な?


 アスマさんが招待して、その客をアスマさんがもてなすのは何か違う気がする。


「なんじゃ、誘われてないから面白くないのか?」


 いや、そういうわけじゃない。

 俺は、夜はちゃんと寝る派だ。

 だから、映画を見たりゲームをして夜更かしをしたりはしない。


 仕事で残業による徹夜は何度かあったけど。

 あとは断れないお誘いでの飲みや、麻雀も……


「あまり騒がしくするなよ」

「今日は、ホラーじゃから大丈夫じゃよ」


 うん、騒がしい未来しか想像できない。

 主にアスマさんが。

 ミレーネや、バハムルまで合わさって悲鳴を上げだしたらどうしよう。


 ……


「部屋の扉に防音の魔法を掛けておくから、心配はいらんて」


 うるさい自覚はあったようだ。

 明日の朝、起こしに来たゴブ美が困る様子が目に浮かぶ。

 しょうがない、自力で起きよう。


***

 扉に防音の魔法は掛かっていたが、壁には掛かっていなかった。

 窓にも。

 だから、それなりにうるさかった。

 いつの間にか寝ていたけど。


 詰めが甘いなー。

 まあ、楽しそうだったからクレームを入れて、水を差すようなことはしない。

 次の機会で、きっちり部屋全部に魔法を掛けるように伝えるのを、忘れないように心に刻む。


 ちょっと寝不足ながらも、リビングに。

 3人ともソファに寝ていた。

 それぞれ別々の。

 3人掛けが2つしかなかったので、アスマさんは一人用の椅子に座って寝ていた。

 完全に白骨死体だな。

 椅子にもたれかかって、俯いている骸骨って。

 サスペンスとか、ホラーで見たことある。


 よだれとか垂れてないと思うけど、この骸骨は謎だからな。

 よだれも出るかもしれない。


「サ……サトウ」


 王族らしからぬ格好で寝ていたミレーネが、俺の気配に気づいて起きた。

 というのに、あとの2人は。

 特に骸骨。

 本当に、お前は凄いやつなのだろうか?


 というかだ……王族や伝説のエルダーリッチがこんなことでいいのかな?

 片膝立てて腹に毛布を掛けてソファに寝そべる、飲み会から帰ってそのまま寝ちゃったお父さんみたいな王子様。

 死体と区別のつかない、俯いている口が半開きの骸骨。

 左足はソファの下に落ちてて、手をお腹の上に置いてて寝ているお姫様。

 しかも腹は出してるし、ズボンの裾は片方だけ上がってる。

 毛布も足元に蹴りだされているし。

 

 油断しすぎだろう。

 とてもロイヤルファミリーの寝姿だとは思えない。


「あまり見つめないでくれ。恥ずかしいではないか」


 そうか?

 とりあえず寝ぐせと、よだれの跡をなんとかしてこい。

 珍しいものが見れたから、つい見入ってしまったが。

 落ち着いてみると、割とあれだぞ?


「わぁー」


 ミレーネが慌てて、洗面所へと駆けっていったけど。

 とりあえず、床に転がっている缶を拾ってゴミ袋に。

 盛大に散らかしてるな。

 酒まで飲んでたのか。

 少しは人の家だと思って、遠慮してもらいたい。


「ロード、そのようなことは私が」

「あー、ゴブ美は朝食の準備を。なるべく、胃に優しい物を用意してあげて」

 

 さて、ジニー達が起きてくる前に、こいつらの体裁を……調える必要もないか。

 早いとこ、現実を見てもらった方がいいだろうし。

 

 しかしバハムル……腹立つ寝顔だな。

 幸せそうなのが、特に。

 

 馴染むの早すぎるだろう。

 王族がそうなのか、この世界の人間がそうなのか。

 とりあえず、ミスト王国はゴブリンと友好的になってくれそうな人が、多そうだな。


「うう、頭痛い」

「飲みすぎだ!」

「割れる、割れる。頼むから、大きな声を出さないでくれ」


 人の家で好き勝手しておいて、この言い様。

 思わず、バハムルの耳に向かって、大声でワー! と叫んでやった。

 凄く迷惑そう。


 ははは、迷惑なのは俺の方だ。

 少しは、遠慮をしてもらいたい。


 アスマさん?

 アスマさんは変な格好で寝たから、腰やらなんやらあちこち痛いといって客室に入っていった。

 ベッドで寝なおすらしい。


 いやいや、エルダーリッチって寝相で身体が痛くなったりするのか?

 というか、神経ないだろう。


「痛いものは痛いのだ。お主も、一度なってみればいい」


 いや、一度なったら元に戻れないだろうし。

 丁重にお断りします。


 とりあえず、アスマさんの朝食は冷蔵庫にしまっておいて。

 ゴブ美にお願いして、あとで温めなおしてもらうことに。

 本当に、世話が焼けるおじいちゃんだ。

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