第57話:迷惑な客
「ついに見つけたぞー」
大きな声が上空から。
そして、村全体に振動が。
慌てて外に出たら、アスマさんの張った結界に穴が空いていた。
そこから見えるのは、小さな人の姿。
遠いからかな?
しかし、何を見つけたのだろうか?
「結界なんぞはって、小癪な! この辺りまでは気配をたどってきたのだが、雪が降ってきたと思ったら気配が消えて焦ったぞ」
上空から降りてきたそれは、身長2mくらいの男性。
角と翼が生えているけど。
「えっと、どちら様ですか?」
「ん? 誰じゃ、お主は」
俺が声を掛けたら、訝し気な表情をされた。
うーん……まあ、名前を尋ねるときは自分からか。
「私は、こういうものですが」
「ん?」
とりあえず、ジャッキーさんに用意してもらった名刺を渡す。
男は首を傾げているが。
読めないのだろうか。
「サトウというのか。しかし、このゴブリンロード(課長)というのは、なんだ?」
「なんだと言われましても、私の役職ですが?」
不思議そうだが、仕方ない。
俺の仕事だし。
「ロ……ロード! そのものから、お離れください!」
「くっ、お前ら! 出遅れた! すぐにロードを救出に」
「誰か、先生を呼んできてくれ」
先生を呼んできてくれってセリフ、なんだろう?
言い得て妙というか、
確かに今のアスマさんの立ち位置は、この村の先生ではあるけれど。
この場合は、
「慌てるな。我は、ここに人を探しに来ただけだ」
人?
人って言ったら、ミレーネとかバハムルとかジニーやガード……
うん、だいぶ増えた。
エルフも含まれるのかな?
オットーとか、ミーシャとか。
「あ……あれは、何者だ」
人連中も集まってきて、少し緊張した様子。
もしかして、ヤバめの人なのかな?
「とりあえず、結界に穴が開いてて隙間風で寒いのですが?」
「ん? その程度のこと、気にするな」
この人偉そうだな。
なんだろう。
こっちのこと、見下しているような印象も受けるし。
「というかだ、こっちが名乗ったんだ。そっちも、名乗ったらどうだ?」
余所行きの態度は改めて、普通に話しかける。
「なんだお前。生意気な口を利く」
いやいや、初対面だし。
そっちが失礼な態度でいるから、合わせてあげてるんだけど?
「気に入った。我にそのような口を利くとは」
気に入られた。
でも知ってる。
こういうのって、そのあとに暴力的な言葉が続くんだよね?
お前から殺してやろうとか。
まずは、身の程を教えてやろうとか。
もしくは、俺の部下にならんか? とかかな?
「我はエルハザード! 4代前の魔王だ」
まさかのハザードさん。
グランハザードさんの血縁者とかかな?
そして、普通に名乗ってくれた。
「馬鹿な! 歴代最強の魔王……」
「まだ、生きていたのか」
ありがとう、補足説明。
周りの人達や遅れて出てきたエルフの人達が、口々にエルハザードさん情報を教えてくれる。
独り言で。
漫画みたいだな。
「それはどうも。で、そのエルなんたらさんは、なんでここに?」
「人を探しておると言ったであろう? お主、馬鹿なのか?」
そういう意味じゃない。
質問の意図も理解できない、お馬鹿なのかな?
いや、馬鹿っぽいとは思ってけど。
そしてこんなのが元魔王って、やっぱり魔族って脳筋なんじゃないかな?
「誰を?」
「アスマという男じゃ。知らんか?」
アスマさんのお客さんか。
いま、ゴブリン達が呼びに行ってるけど、なかなか来ないな。
「誰じゃ、わしの結界に穴を開けたのは」
と思ったら、杖の差してある方角から飛んできた。
上を見ると、穴が塞がってる。
直してからきてくれたのか。
じゃあ、遅かったと責めることはできないか。
「遅かったな。我が来たことはすぐにわかったであろうに」
だというのに、このおっさんは。
少しイラッとしたので、思わず手に力が入る。
「グランハザード、お前か! 穴を開けたのは! 周りに迷惑をかけるな!」
あっ、アスマさんがいきなりエルハザードの頭を掴んで、地面にたたきつけていた。
のっけからキレてるなー。
ちょっと、短気すぎないかな?
「いや、サトウが手を出しそうじゃったから、わしが殴っただけじゃ。お主は手加減が下手じゃからのう」
それ、この間も聞いた。
確かにアスマさんに遅かったなとエルハザードが言った瞬間に、思わず後頭部を
俺の代わりをアスマさんがやってくれるとか。
アスマさんって、手加減を間違えて国を一つ滅ぼすような人だよね?
この人、大丈夫かな?
「だから、あれから色々と練習も重ねて、このローブも開発したのじゃ」
それがないと、満足に手加減できないくせに。
あと俺はこの間、手加減覚えたから。
割合変動スキルで、自由自在だから。
「お前だってスキル頼みではないか!」
でも、アスマさんと違って、身一つで手加減できるし。
ちょっと鼻で笑ってみた。
「ぐぬぬ!」
アスマさんが悔しがっているのを見て、少し落ち着く。
「我を無視するなー!」
「黙れ!」
「帰れ!」
ほぼノーダメージっぽい感じでエルハザードが起き上がったけど、ついイラっとして殴ってしまった。
同時にアスマさんも殴ってたけど。
錐揉み状態になって、結構な距離を飛んで行ったけど。
あれ? 歴代最強魔王?
「あんなのでもな。まあ、わしも強くなっておるし。この姿なら負けるが、ローブを脱いだらいい勝負じゃ」
「じゃあ、第二形態なら?」
「まず、負けん」
「第三形態なら?」
「話にならん」
そっか……
本当に、なんなんだろうこの骸骨は。
とりあえず、エルハザードは気絶している間に穴掘って埋めておいた。
首から上だけ出して。
アスマさんがなんか首飾り掛けてたけど。
魔法を封じる首飾りらしい。
簡単に着けたり外したりできるみたいだけど、首から下は埋まってるから自分じゃ取れないよね。
これで魔法による土操作や筋力操作での脱出は無理だろうと。
本人が落ち着いて話が出来るようになれば出してやると言って、アスマさんが歩き始める。
俺の家に向かって。
いや、たまには自分の家に帰れよ。
そして、タイミング悪く2回目の来訪のグランハザードさんが、首から上だけのエルハザードさんを見てビクッとなってた。
顔見知りか聞いたら、微妙な顔をされた。
「魔族の英雄の一人です」
ふーん……
英雄かぁ……
すぐに気が付いて、さっきまで脱出しようと顔を赤くしてたけど、すぐに諦めて寝てるんだけどね。
こんなのが、英雄なのか。
「で、なんの用事で?」
「あー、えっと魔物達を匿ってもらっていることのお礼と、そのお茶を買い求めることができたらなと」
ああ、この間渡したお茶が無くなったのか。
それと、魔物の王でもあるから、一応は感謝の言葉を伝えに来てくれたのか。
律儀だなー。
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