第37話:魔王グランハザード
「狭いところですが」
「本当に狭いな」
仕方ないので、魔王を家に案内する。
イグニは家に入れないので、窓から中を覗いている。
いやいや、お前が入れるような家なんか、普通の人なら不便で仕方ないだろう。
そしてジニーが慌てた様子で、ミレーネを連れて避難していくのが見えた。
流石のジニーも、魔王は知っているのかな?
イグニの方を見てるから、火竜の方か。
意外と、魔王ってのも大したことないのかな?
その魔王が、落ち着かない様子でキョロキョロしている。
そして、ジャッキーさんが困り顔だ。
「私はどうすれば?」
いや、どうすればも何も帰っていいと思うけど。
椅子の上にお座りしているのは可愛いと思うけど。
でアスマさんは、なぜか床に座っている。
「同じ席につくなど、恐れ多い」
「気にしなくて、いいんですけどね」
平伏しながら、そんなことを言ってるけど。
ジャッキーさんは、全く気にした様子が無い。
そのアスマさんが床に座っているからか、魔王も床に座ろうとしている。
「いやいや、魔王さんはお客さんだから。普通に椅子に座ってよ」
「えっ? あっ、いや」
椅子に座るように勧めると、困った表情。
アスマさんが気にせず座るように、魔王に目で訴えているけど。
そのアスマさんを見る魔王の目は、完全に助けを求めているように見える。
気のせいかな?
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
ゴブ美が茶を持ってきたので、俺が受け取って皆に配る。
「こ、これはご丁寧に」
魔王が両手で受け取っているけど。
カップがカチャカチャとソーサの上で音を立てている。
緊張しているのかな?
「いや、有難いんですけど……なんか、屈辱的ですね」
ジャッキーさんの前には平皿に入れられたお茶。
そう思うなら、人型になればいいのに。
なれるなれるって言う割には、その姿を見たことが無い。
部屋を出ていったゴブ美のお尻を見ているけど。
節操ないよね。
なんでもいいのかな?
いやまあ、曾祖父さん牡馬でも狼でも蛇でもなんでもいける人だったもんね。
ジャッキーさんも、そうなっててもおかしくないか。
「いや、ひいおじいさまと一緒にされるのは、なんかもやっとします」
それから先にお茶を一口飲んでから、全員に勧める。
一応、アスマさんには座布団も用意したけど。
骸骨が座布団に座って、お茶を飲んでるのを見るとなんかしっくりくる。
湯呑で出した方が良かったかな?
「あっ、美味しい」
魔王さんが、ようやく人心地つけたような表情。
ちなみにバフォンさんと、タキシードの紳士……ランドスチュアートのセバスさんは魔王さんの後ろに立っている。
彼らにもお茶を勧めたが、断られてしまった。
「わ……我にはないのか?」
「ん? 大きな平皿が無いからな」
外でイグニが何か言ってるが。
お前こそ、ここにいる必要はないと思うんだけど。
「というか、人型になれたりしないのか?」
「な……なれなくもないが、得意じゃない。驚いたりすると、すぐにこの姿になってしまうのだが……それでも良ければ、人型になって中に入るが」
「……そこで」
「……むぅ」
驚いたら竜に戻るとか。
確実に家が滅茶苦茶になる未来しか見えない。
「で、ここに来た目的は?」
「だから、給与明細を」
「いや、そういうお約束はいいんで」
魔王さんに質問したのに、ジャッキーさんが答えた。
表情から、分かって言ってるのが分かった。
「なんか、こちらの方が緊張してるみたいで」
「そうですね」
魔王さんが落ち着かない様子でソワソワしている。
できれば、アスマさんの横に座りたいと、顔に書いてあるけど。
アスマさんは……完全に他人事とばかりにお茶を飲んでボヤっとしている。
その姿は、確かに歳相応の……この人、何歳だ?
「で、ここには何をしに」
「いや……あっ、えっと……」
魔王さんが困った表情で、バフォンさんに目配せしているが。
当のバフォンさんは、この部屋の中にあるものが気になるのか、全然魔王さんの視線に気づいていない。
セバスさんも、目を瞑って堂々とした姿で立っている。
誰も助けてくれないみたいだけど?
「優れた魔力を持つ魔物の気配がしたので知恵あるものならスカウトに、そうでないなら、支配下に置こうと思ったのですが」
「ですが?」
「ちょっと想定外といいますか」
そう言いながら、冷や汗を垂らしながらアスマさんの方を見ている。
そういえば、アスマさんを家来にしようとして、返り討ちに会ったんだっけ?
なんだろう。
向こう見ずなところのある人なのかな?
そうじゃないなら、軽率な人なのかも。
そんな人が、魔王で大丈夫なのかな。
そもそも、魔王ってなんだ?
「そうなんですね……ちなみに、魔王さんの魔王の職業ってなんなのですか?」
俺のこの発言に、セバスさんが目を見開いてこっちを二度見してたけど。
動じない人だと思ったんだけど。
いや、動じない人が動じるほどの発言だったのかな?
「あー、魔族と魔物の王ですけど……正直、魔物の王と言う役割に関しては飼育員とか、飼い主といった感じでしょうか?」
「そうなんですね。魔族の王ってことは、全ての魔族の王になるのですか?」
「ええ、まあ」
そうか。
魔族の人って数が少ないのかな?
世界中の魔族の王ってことだろうし。
世界中の人の王なんて、聞いたことないしな。
「とりあえず、どのような方がいらっしゃるのかと思ったのですが」
それにしても、魔王さんは誰に遠慮してるんだろう?
アスマさんかな?
ジャッキーさんかな?
「あー……一応、佐藤さんは私の上司でもあるマジーンの部下ですから。この世界の誰かの下に着くということはありえませんよ?」
「あ……あの、先ほどから気になってたのですが。こちらの方は?」
あー……ジャッキーさんのことも、気になってたのね。
あー……あーって、ジャッキーさんの口癖が移ってしまった。
ジャッキーさん、いっつも喋る前にあーって言いながら考えをまとめる時間稼ぎしてるもんな。
「私の世話係兼、直属の上司です」
「な……なるほど」
それから世間話程度に魔族のこととかを教えてもらって、お引き取り頂いた。
というか、凄く帰りたそうだったから。
お茶を5回もおかわりしてたから、気に入ったのかと思ってお土産に渡したけど。
「いや、緊張で口が乾いて」
緊張するような面子でもないと思うんだけどな。
外に見送りに出たら、イグニが寝てたので強めに蹴っておいた。
でかい図体のわりに、大げさに痛がる。
「お前は、自分のステータスをもっと理解しろ! アスマ殿のおっしゃられたことがよく理解できた! 貴様の手加減は、手加減ですらない!」
「手加減って……そんなでかい図体で、大げさすぎるだろう」
「でかければ、固いわけじゃないんだぞ! 鱗が砕けてるだろう!」
「おお、追加素材ゲット」
「ぐぬぬ」
本当に痛かったのかもしれない。
少し悪いことをしたかなと思って魔王さんの方を見たら、顔が引き攣ってた。
「また、いつでも来てくださいね」
「は……はい」
ようやく、ゴブリン以外のまともな知人ができそうな予感。
さてと……
「ジャッキーさん、いつまで横に?」
「あー……今日は、泊まって帰ろうかなと」
意味が分からない。
視察だろうか?
「何事?」
「前回の合コンで知り合ったその、個性的な女性に付きまとわれてて」
「どうぞ、お引き取りください」
俺の言葉に、ジャッキーさんが悲痛な表情を浮かべていたけど。
あれだけ合コンでうまいこといってないのに、相手から寄ってきたら逃げるとか。
選り好みしてる場合なのかな?
「さ……流石に、髪の毛が蛇の女性はちょっと」
「あー……」
なんかやらかしたら、石にされそうな相手だな。
うん、今日だけですからね。
ジャッキーさんに客間を用意したら、アスマさんがそそくさと自分の家に帰っていってた。
そんなに気を使わなくても。
ジニーなんか、今日はジャッキーさんと寝るとかって言いだしてるし。
やめときなさい。
ただの、エロ親父だから。
「神の中では、若い方です」
ただのエロガキだから。
「言い方!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます