第36話:千客万来
集落のゴブリン達は本当に進化したと思う。
毛の生えた者も、ようやくチラホラと。
そうなってくると、見られる者も多くなってきた。
「本当に、矜持を傷つけられる」
ミレーネがなりきリメイクのゴブリンビューティ達を見て、苦笑いをしている。
ジニーは、そのゴブリンビューティに化粧を施してもらって、おおはしゃぎしているが。
「これが、私?」
うんうん、可愛い可愛い。
ゴブリン達と、集落内であれこれと作業をする。
俺の屋敷がいよいよ完成間近となり、部屋に置く家具とかを作ることに。
大事なものはジャッキーさんに買ってきてもらうけど。
といっても、俺の作業はあれこれ注文するだけ。
実際の作業はゴブサクや、ゴブオ達がやってくれる。
雑誌や本であれこれと勉強しているからか、それなりにクオリティは高い。
ステータスの器用を伸ばしたことも、大きく影響しているかもしれない。
そんな風に、充実していた日々を送っていたら、ついに火竜がやってきた。
背中に小さなおっさんを2人乗せて。
「ふむ、こやつらがお主らにあれこれ教えてくれる者たちだ」
火竜が紹介してくれたのは、ドワーフのエドとシド。
エドは主に採掘と、鉱物の見分け方を。
シドは金属加工を教えてくれるらしい。
2人ともなぜか不機嫌。
「なぜ、ゴブリンがわしらより背が高いのじゃ!」
「そもそも、金属に触ったことない奴らがスミスを名乗るなど!」
いろいろな言い分はあるだろうが、少し落ち着いてほしい。
まだ、初対面だから。
まあ、職人気質っぽい印象を受けたので、頭を下げてお願いする。
俺に習って、ゴブリンスミス達も頭を下げている。
対価は竜の鱗1枚で十分らしい。
「これはお近づきのしるしに」
それとは別に、お酒を。
ジャッキーさんに買ってきてもらった泡盛と、ウォッカ。
「これは素晴らしい!」
「このようなものが頂けるなら、早く言ってくれ」
鱗よりも喜ばれた。
見るからに、機嫌が良くなってる。
火竜が情けない顔をしているが、ドワーフはやっぱり酒が一番らしい。
もしかして、ジャッキーさんにお願いしたらバッカスの酒とかもらえないかな?
でもバッカスってワイン専門だったっけ?
なら、やっぱり日本酒とかの方が喜ばれそうだ。
俺が個人的に飲みたいけど。
「ロード、何ら外に怪しい集団が」
とりあえず自己紹介を済ませて、雑談をしていたらゲソチが報告に来た。
来客だろうか?
特に慌てた様子もないところから、敵襲ではないようだ。
いまは、ジソチが相手をしているらしい。
「なんか、困り事みたいだから、ちょっと行ってくる」
この場をゴブオとゴブサクに任せて、外の客の方に。
門を出ると、角の生えた初老のイケオジが立ってた。
山羊の骸骨っぽい顔した、人型の生き物と。
それから、タキシードのイケオジと一緒に。
一瞬コスプレかと思ったが、自前のようにも見える。
とりあえず、ただ者ではなさそうだ。
「余は第92代魔王、グランハザードだ!」
「はあ」
なんか、いきなり魔王とかって名乗ってるけど。
そういえば、アスマさんが魔王のことを、少し口にしてた気がする。
その魔王……なのかな?
「貴様、気の抜けた返事をするな! 無礼であろう!」
山羊の骸骨が何か言ってるけど。
ちょっと、状況がよく分からない。
ジソチに説明を求めたけど、困った顔で首を横に振られた。
「その魔王様が、こんなところに何用で?」
「頭が高い!」
いや、頭が高いとか言われても。
なんだろう?
平伏とかした方がいいのかな?
「よせ、バフォン! いきなり押しかけて済まぬな。ここに、何やら異様な魔力を感じてな。確認に来たわけだが……」
魔王が俺をじっくりと観察している。
不躾な視線に、少し困惑。
あまり、良い気もしないし。
どうしよう……魔王が、どんな存在かも分からないし。
「どうした、サトウ! 困り事か?」
そうこうしていたら、火竜が顔を出してきた。
「ぬっ? イグニか?」
そして魔王が火竜を見て、少し驚いた表情。
知り合いなのかな?
「えっ? 魔王さん?」
魔王さんて……
顔見知りというか、ちょっと親しそうな感じだけど。
「あー……父の知り合いで」
「アグニ殿は元気かな?」
火竜が俺に説明をしようとしたら、被せ気味に魔王が火竜に話しかけていた。
魔王もあっと思ったようだ。
少し、面目なさげ。
ちょっと、気まずい沈黙が。
「その方の父とは、久しく会ってないが息災かな?」
何事もなかったかのように、やり直している。
流石魔王だ。
「ええ、元気すぎて困ってます」
火竜が苦笑いしながら、答えている。
火竜の言葉遣いからして、この魔王は火竜よりも強いのかな?
「祖父と、ガチで殴り合って引き分けてます」
お前の祖父が、いかほどの者か分からないんだけど?
「火竜の長で、火竜の中でも最強です」
へえ……意外と、由緒正しいドラゴンだったんだな。
てことは、竜の中でもトップクラスか?
「あー……古竜を除けば最強の一角です。古竜は別名神龍と呼ばれる種族でして……」
なんだか強いんだか弱いんだか、ハッキリしないなー。
俺の視線に、火竜が困ったように笑ってるけど。
「して、イグニはこの御仁とどういう知り合いなのだ?」
魔王がズケズケと踏み込んでくるが、この火竜……イグニか、イグニと俺はなんて言ったらいいんだ?
顔見知り以上、知人未満か?
なんとも、説明に困る。
「あー、色々とあって、今は私が(ドワーフの)世話をしてます」
物は言いようだな。
無難な答えだと思うけど。
「おい、サトウ。誰が来たんじゃ?」
そんなことを考えていたら、アスマさんがこっちに来て話しかけてきた。
「こ……国滅のアスマ……」
今度は魔王さんが、何やら緊張した様子。
あっ、バフォンと呼ばれた山羊の骸骨と、タキシードの紳士が後ろに下がった。
「なんじゃ、グランハザードか」
「ア……アスマ殿がなぜここに?」
「いや、それはわしのセリフじゃが」
本当にこの骸骨って有名人なんだな。
というか、この2人も顔見知りとか。
この世界って狭いのかな?
「なんと、お主が魔王じゃと? わしが、ダンジョンに籠っておる間に代替わりがあったのか」
「え、ええ……30年ほど前に」
どうやら、アスマさんは魔王が交代したことを知らなかったらしい。
ちなみに、この魔王。
以前、アスマさんを部下にしようとして、返り討ちにあったことがあるとか。
どんだけ強いんだ、この骸骨。
そんなことを思っていたら、急に空から威風堂々が流れ始める。
「なんだ、この音は!」
「なんとも、風格のある力強い音楽」
「一体、どこから」
魔王とイグニとアスマさんがキョロキョロと周囲を見回しているが。
俺は嫌な予感しかしない。
思わず、頭を押さえる。
そんな俺の心情などお構いなしに、荘厳な音楽に合わせて辺りに光が降り注ぐ。
そして、地面から黒い2筋の炎が絡まり合って、中から大きな黒い狼が。
またややこしいのが、面倒なタイミングで。
「どうですか佐藤さん! この間の佐藤さんの言葉を受けて、先にBGMでお知らせしてみようかと! アナウンスよりは、良いと思いませんか?」
プロレスの入場の音楽じゃないんだから。
「ア……アスマ殿?」
魔王の横で、アスマさんが平伏してる。
まだ、慣れないのか。
それを見てイグニも、慌てて、頭を下げている。
取り残された魔王が周りをキョロキョロして、困っている。
「魔王様、威厳を保ちください」
バフォンが、魔王に注意している。
注意しているけど、その本人が五体投地をしているのはどういうことなのだろうか?
タキシードの紳士も、片膝を付いて
「あー、えっと……」
魔王が、どうするべきか焦っているのがちょっと面白い。
「給与明細、お届けにあがりましたよ!」
そんな魔王を無視して、ジャッキーさんが俺に封筒を手渡してきた。
敢えてこのタイミングで来たのかと思ったけど、手元の時計のカレンダーを見て納得。
いっつも、給与明細を届けてくれる日だった。
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