第33話:ゴブリン狩りとアスマさんの発明

 ゴブゾウと、ゴブマルに他のゴブリンを探してもらうようにお願いした。

 五人一組のチームで。

 目的は、この集落への移住の勧誘

 受け入れてもらえるかは分からない。


 一応、ゴブリンであれば、俺の支配下に置くことに許可は必要ないらしい。

 といっても、基本的にゴブリンロードに逆らえるゴブリンはいないはずとのこと。

 ジャッキーさんが教えてくれた。

 いないはずという部分に、なんともそこはかとない不安を感じるが。


 なぜそんなことを思い立ったかと言うと、現状を見た限りではここのゴブリンが増えるのに時間が掛かりすぎると考えたからだ。

 それと戦力は分散させるより、集中させるべきだとも考えた。

 この集落のゴブリンだけを救えばいいという訳ではないだろうし。


 もちろん、出産で数は増えるだろう。

 ただそれでは、一気に人口を増やすことは難しい。

 

 1週間後に、まずゴブマル達が帰ってきた。

 10匹のゴブリンを連れて。

 とある氏族の代表と、その供のものとのこと。

 ほかにも、まだまだいるとは言っていた。


 目の前のゴブリン達を見る。

 懐かしい。

 この気持ち悪い見た目。

 ゲソチ達に初めて会った時のことを思い出す。

 

 ……臭いがあの時ほどひどくないな。

 ゴブマルが気を利かせて、先に身だしなみを整えさせたのかもしれない。


 しかし、それでも緑色の猿。

 うちのゴブリンを数えるときは、一人二人と数えるけど。

 やっぱり、この見た目だと一匹二匹だよなー。


「ロ……ロードにおかれましては、大変ご機嫌麗しく……」


 何やら、立派な挨拶だ。

 もっと、片言な感じだと思ったけど。

 少し驚いた。

 後ろにいるゴブマルの方を気にしているから、ここに連れてくるまでに挨拶を叩き込まれたのかな?

 まあ、厳密にはグギャグギャという鳴き声だけど。


 それよりも、気になることが。


「なんで、そんなにボロボロなんだお前ら」


 俺の言葉に、目の前で平伏していたいかにもなゴブリンが気まずそうにチラリとゴブマルの方を見る。

 すぐに慌てた様子で、頭を下げてたけど。

 明らかに怯えていた。

 俺も、ついゴブマルに視線を送る。


「立場を優しく教えただけです」


 ゴブマルが誇らしげに、堂々と答えを教えてくれた。

 そうか……

 俺の思う優しさと、ゴブマルの考える優しさは違うのかな?

 ゴブマルの優しさは、怪我を伴うものらしい。


「身の程を弁えずロードを愚弄いたしましたので。この程度で済んだことで、涙ながらに私に感謝しておりました」


 ……そうか。

 大変だったな。

 どっちがかとは言わない。

 曖昧に微笑んで、ゴブマルの発言をスルーした。


***

 既視感デジャビュ


「ロードにおかれましては、大変ご機嫌麗しく……」


 ゴブゾウの方を見る。

 満足げに笑みを浮かべて、頷いていた。

 うん……


 ゴブゾウが連れてきたゴブリン達も、傷だらけ。

 なんだろう……一度ゴブゾウとゴブマルとは、しっかりと話をした方が良いかもしれない。

 俺は希望者がいれば、移住を勧めてくれと言ったはず。

 どうみても、強制的に連れてきているような気がしてならない。


「建設的な話し合い殴り合いの結果、快諾していただきました」


 

 ……あとで、連れられてきたゴブリン達のケアをしておこう。


***


 そんなことがあってから、一週間。

 ゴブリン達は、それなりに馴染んできている。

 まあ、見られなくもないレベルには成長もした。

 それでも最初に配下になったゴブリンに比べると、やはり醜い。

 ゴブマル達によって、レベリングも行われた。

 で得られたポイントを、器量に大量に消費したわけだけど。

 まだまだ、満足には程遠い。

 

 ゴブマルとゴブゾウが連れてきた2つの氏族は合わせて、90匹ほど。

 一気にこの集落の人口が倍に。

 同じ生物かな? ってほどに、見た目が違うけど。

 あと、最初はやっぱり不衛生の塊だった。

 

 とりあえずこの集落から少し離れた場所に、集落を突貫で作らせたけど。

 ゴブリンスミス達が手伝ったから、今までよりは良い家になったと喜んでいた。

 知性も上げていってるが、まだまだ物足りない。

 

 ステータスも上がって、獲物を狩ることもできるようになったけど。

 周辺の魔物は、ゴブエモン達が狩りつくしている。

 だから、どうしても行動範囲が広くなる。

 

 ちょいちょい、ステータスを見たらピンチになってる個体がいるのが、面倒くさい。

 いっつも毒キノコの毒にやられてる個体もいるけど。

 キノコマルみたいなやつなのかな?


 ちなみに俺のレベルが4に上がったことで、新たに得た権限がある。

 それはゴブリンのさらなる強化。

 といっても、俺の周りにいるゴブリンだけ。

 物理的な距離の話。

 具体的には半径10mから。

 俺に近くなるほど強くなる。

 うん、俺を守るための措置らしい。

 しかも俺の生命的危機に対して、比例的にさらに強化値が増えるらしい。

 俺が外敵によって死にそうなときに、すぐそばにいるゴブリンは相当に強くなると。

 そうならないように気を付けよう。


*** 

「サトウ、ついにできたぞ」

「何が?」


 ポイントが使いきれないほどあるので適当に自分のステータスを大幅に伸ばしていたら、アスマさんが嬉しそうに声を掛けてきた。

 アスマさんが取り出したのは、皮が張られた箱。

 なんとなく、太鼓っぽい見た目だけど。


 アスマさんが手を翳すと、その箱から音が流れる。

 その箱がいっぱいある。

 それらを組み合わせて、音楽が奏でられる。

 

 なんだろう?

 不思議な楽器かな?


「ふむ、魔力を音にする実験だ。ゆくゆくは一つの箱で色々な音が出せるようにするつもりなのだが。まずは、単音でも触れずに音が出せるものができた」


 箱の中には小さな風の魔石が入っていて、それらが魔力を受け取り空気に振動を伝える。

 その振動が表面に張られた皮にぶつかって、音となって発生する仕組みとのこと。

 なんだか、地味な発明品だけど。

 本人が凄くテンションが高いから、別に良いけど。


「ポータブルBDプレイヤーの仕組みは分からぬが、まずはスピーカーとやらを作ろうと思ってな」


 そっか。

 凄いことなんだろうけど、エルダーリッチがやることなのかな?


「わしが見る映画に出てくる、小さな板で会話が出来る発明品。スマートフォンとやら。あれをここで作ることができれば、歴史に名を残すこともできるはずじゃ」


 あー……それは無理じゃないかな?

 大がかりな、インフラの整備が必要になるんだけど?

 そもそも電波を信号として通信する仕組み自体を、この世界に知ってる人がいないんだけど?

 俺も当然知らない。


 結局携帯電話も、基地局が必要なわけで。

 基地局からケーブルを通して音を伝えて、そのケーブルの先の基地局から携帯に電波で飛ばしているわけで。

 まあ、まずは0と1を組み合わせた信号で色々なことが出来る部分を、解明するのが先なんじゃないかな?

 本当に摩訶不思議な世界の話だけど。


 あと言いにくいけど、ステータスをいじってるときに念話というスキルがあるのも発見した。

 俺はそっちの方が、凄いと思うんだけど。


「念話は便利じゃが、使えるものが限られておる。スマートフォンがあれば魔力も才能もない者でも、遠くの者と会話が出来るようになるのじゃぞ? 夢のような道具ではないか!」


 うん、そうかもしれないけど。

 まずは、普通の電話から始めたらどうかな?


「なっ! これは」

「電話のオリジナルといってもいい物じゃないかな? その前段階に伝声管とかってのもあるけど」


 俺が用意したのは糸電話。

 振動が糸を通して、相手に伝わるやつ。

 目から鱗みたいなことを言っていたけど。

 目無いよね?

 骸骨の眼窩から、鱗がポロポロ落ちてきたら恐怖しかない。


 しばらくアスマさんの家から、変な音の音楽が流れてたけど。

 あれはあれで、ハマったらしい。


 あとものすごく長い糸電話を用意して俺の家と繋ごうとしていたから、その糸を真ん中からプッツリと切ってやった。

 顎が外れそうな顔をしてたけど。

 何が悲しくて野郎でしかも骸骨と、糸電話で四六時中繋がらないといけないんだ。


 ちなみに、後日カワハのディスクラビオというピアノの映像を見せたら、凄く呆れた表情をされた。


「お主、嫌な奴じゃのう」


 うん、カワハが出してた、自動演奏ピアノ。

 鍵盤が動くタイプの……流石に、300万を嫌がらせのために使うのはあれだったけど。

 映像だけで、満足してもらえてよかった。

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