第34話:【閑話】アスマ(厨学二年生リッチマン)
わしの名は、アスマ。
そう、黒衣のアスマと呼ばれる、リッチの中では割と顔な有名人。
いや、有名骨か?
そういえば、サトウに見せてもらった「
見てない人もおるかもしれぬから、内容は伏せておこう。
そう、わしはいまサトウなるゴブリンロードが納める、ゴブリンの集落に住んで居る。
サトウ……どうみても、人間じゃな。
本人はゴブリンロード(課長)と言い張っておったが。
もともとは、わしが間借りしておったダンジョンに来たゴブリン共。
ちょっと、おかしなゴブリン共。
ダンジョン散策をするゴブリンなど聞いたこともないわ。
しかも、強い。
オーガ並みの強さを誇るゴブリン。
まあ、それでも久しぶりに腕に覚えのあるものと戦えて、胸が躍った。
そやつらの主が、そのサトウ。
ゴブリンを強化するなどというふざけた能力を持った、ゴブリンロード。
戦闘中にオーガ程度のゴブリンが、ミノタウロスクラスの能力に変わったときはビビったわ。
ゴブリン風情が
サトウの国では、能ある鷹は爪を隠すなどと言う言葉があるらしいが、言い得て妙だと思った。
そして、わしに通ずるものがある。
まあ、事実は戦闘中にサトウがこやつらのピンチを感じ取って、強化したらしいが。
遠方から配下のゴブリンの様子を把握し、適宜強化するなど本当に戯けた
そのサトウに会いに、ここまで来たのじゃが。
なかなかに、面白い男じゃ。
出会った当初は、わしよりも弱いと感じておったが。
とりあえず、挑んみたのじゃが。
にべもなく断られてしもうた。
挑発にも乗ってこぬ。
つまらん。
そして黒狼のジャッキー様が来て後は、わしより強くなっておった。
自身の能力も強化できるらしく、しかもその強化の幅は相当にあるらしい。
まだまだいくらでも伸ばせると言っておった。
であれば、わしも手の内を見せるのは得策ではあるまい。
ちなみに、ジャッキー様。
あれはやばい。
魔王どころの比ではない。
あれは、神。
初めて見た瞬間に、全てを察した。
許可なく顔を上げて、対峙してはいけない存在。
だというのに、サトウがものすごく話しかけて来て、本当に困った。
隠す気もなく、全力でこっちに話題を振るなと睨みつけたのに。
全身で、わしに興味を持たせるなと訴えたのに。
わざとだろう?
本当に、殺そうかと思った。
そのジャッキー様じゃが。
ただいま、合コン13連敗じゃとサトウにこぼしておった。
合コンがどのような競技かは分からぬが、あのジャッキー様が勝てぬものがあるとは。
興味が湧いたのでサトウに聞いたが、笑ってごまかされた。
ちなみに余談じゃが、今世の魔王といまのわしだと、魔王の方が強い。
だが、いまわしが纏っているこの黒衣のローブ。
これを脱げば、歴代最強の魔王ですらわしの足元には及ばぬ。
このローブだが、装着者の魔力を抑え込む特性がある。
それこそ、最大で100分の1程度に。
もちろん、調節機能がついているから最小は半分ほどに抑えるくらい。
なぜ、そんなものを纏っているかというと、わしの魔力が強すぎるからじゃ。
加減が難しいのじゃよ。
それこそ、マッチに火を着けようとして辺り一面を焦土にするくらいには。
カッカッカ。
自慢ではないぞ?
「自慢だろ」
くっ。
サトウの奴がわしの日記を横から覗き込んで、溜息を吐いておる。
こやつの上司がジャッキー様でさえなければ。
それと、人の日記を勝手に見るんじゃない。
「骸骨が日記とか、なんか……」
サトウはエルダーリッチに幻想を追い求めすぎじゃと思う。
種族がエルダーリッチというだけで、日常の暮らしは人のそれと変わらん。
タンスの角に足の小指をぶつけて、悶絶したりすることもある。
「骸骨に、神経ないだろ」
……
幻肢痛というのに、似ておるかもしれん。
人であったころの記憶のせいか。
足の小指は何かにぶつけると、痛いのだ。
ええい、もういい!
我の部屋から出てけ!
「いや、お前が帰れよ! ここ、俺んちのリビング」
ケチ臭いやつめ。
「家建ててやったのに、ケチってことはないだろう! ケチってことは」
本当に、年寄りを労わるということを知らぬやつよ。
嘆かわしい。
「歳を重ねるほどに強くなる奴を、労わる必要なんかねーだろ」
ああ言えばこう言う。
素直になれ、素直に。
「だから、素直な感情だって」
そうではない。
素直に感情を出せって意味じゃなく、素直に言葉を受け止めろって意味じゃ!
はあ、疲れる。
とはいえ、根はかなりの善人。
虫すらも殺せぬ優しいやつでもある。
頼られれば、基本断るということをせぬし。
面倒見も良い。
口では嫌だと言いつつも、動いてくれる。
……こんな、わし相手でも。
ちなみに、ダンジョンに戻るつもりはない。
あっちの研究については、目途が立った。
こやつのお陰で。
ダンジョンについての研究を行っていたのだが。
人工的に作られたダンジョンと、自然にできたダンジョン。
さらには、ダンジョン内に魔物が現れる仕組み。
そして、その魔物の生体。
ダンジョン内の魔物は、基本的に子供を産むことができない。
自然界の魔物とは完全なる別物なのだ。
過去の研究者によるダンジョンコアなるものがあるという仮説もあったが、その存在も未だ確認されておらぬ。
ダンジョンコアを探しつつ、魔物がポップする瞬間の魔素の動きを調べたり。
色々と試したが、糸口すら見えなかった。
しかし、サトウが教えてくれたスマホとやらの仕組み。
なぜ繋がってもいない板で、離れた場所とやり取りできるのか。
また、インターネットとやらが出来るのか。
はたまた、映像や音楽を受け取れるのか。
なんでも地下や地上の光ケーブルを仲介して、各基地局に情報を送っているとのこと。
でスマホのある場所の最寄りの基地局から、その情報が電波で飛ばされるとのこと。
そうなのじゃ。
てっきりダンジョンコアや、何かしらの核でダンジョンは維持されていると思うておった。
だが、こう考えれば辻褄が合う。
地下深くを走る魔力の脈。
そう、この世界の龍脈やコアラインと呼ばれる、この星の持つ魔力の通り道から地上に魔素を吸い上げているとすれば。
であれば、その魔素を吸い上げる媒体を置けば、ダンジョンの元となるエネルギーを集めることができると。
そして、その周りに召喚陣と魔石を設置し。
魔石に魔力が溜まったら、自動で魔物が召喚される仕組みは出来上がる。
いや、魔石と魔法陣の組み合わせで、ダンジョンに関するあれこれが色々と解決してしまう。
簡単に壊れない壁や床のあるダンジョンでは、魔法陣によって強化がされているのかもしれない。
さらには、宝箱や道具が自然に補充されて現れるのも納得だ。
内部が明るいダンジョンも、壁や床が壊れても直るダンジョンも。
怪我が癒える部屋があるダンジョンも。
すべてが、龍脈と魔石、魔法陣の組み合わせでいける。
そう、龍脈が光ケーブル、魔石が基地局、魔法陣がスマホのアプリと考えれば。
過去類をみない、ダンジョンの仕組みの仮説が立ってしまった。
そして……なんとなく、正解のような気がする。
うん、不思議な自然発生のダンジョンと思われているものが、大半が人工物の可能性が出てきた。
そして、それを作ったのは古代人種か……はたまた、神か。
その目的は何かから避難する、シェルターのようなものだったのかもしれない。
発生する魔物も、必ず食用に向く魔物がいるダンジョンが多い。
そうじゃないダンジョンは防衛施設だったのだろう。
いわゆる、冒険者に優しい仕様ではなかったからな。
仕組みが分かってしまえば、興味も失せるというものだ。
それよりも興味深いものが、サトウの持つブルーレイとやらに沢山映っている。
だから、言葉の勉強も捗った。
言葉を覚えなければ、映像の内容が理解できぬからな。
……そのために渡されたペンと本。
もう、ここで心折れるかと思った。
ペンで文字をなぞると、サトウの国の言葉をペンが喋る。
そして意味も、サトウの国の言葉で教えてくれる。
ペンと本の仕組みが気になって仕方ない。
とにかく、わしより凄い人間がいっぱいいる世界だと知った。
だから、サトウに色々と質問した。
面倒くさそう。
さらに頑丈で立派な作りのペンと、文字と絵が多めの本を。
なぞると、詳細な説明を喋ってくれるペン。
サトウは、あまり賢くないらしい。
0と1しか言わない。
そんなバカな話があってたまるか。
***
……サトウの話は本当かもしれない。
窓リックスという映画を見た。
不思議な窓を通して世界を見ると0と1の羅列で見え、自分たちの世界が仮想空間であると気づいた人たちが、窓でロボットを倒していく物語だ。
そう、ロボットが世界を0と1で作っているのだ。
いや、そのロボットの方が気になる。
ゴーレムともホムンクルスとも違うようだが。
ロボット凄い。
変身したり、合体したり。
男のロマンがいっぱい詰まっている。
トランスフォーマンは、完成度が高すぎる。
あれが作り物の映像だとは。
いや、そもそもロボット自体が作り物なのだが。
ふむ……ロボット三原則か。
ゴーレムに組み込んでみてもいいかもしれない。
このように一つの研究に集中できないのは困った環境だが。
刺激が常にあって、楽しい場所だ。
ちなみに、今のサトウはローブを脱いだわしより強い。
わしが、手も触れずとも音が出せる太鼓を見せにいったときに、暇だからと自己強化しておった。
うん、ローブを脱いで、第二形態になっても勝てない。
第三形態には、憧れる。
よし、空いた時間で訓練するしかあるまい。
ちなみに太鼓を見せに行ったら、手を触れずとも演奏するピアノとやらの映像を見せられた。
こいつのこういうところは、本当に意地が悪いと思う。
フッ……やる気がみなぎる。
そんな風に、飽きない日々を過ごしていたら事件が起こった。
突如、この集落に巨大な火竜が……
集落の側に着地したそれは、隠す気もない怒気を放つ。
「我が、可愛い子分を殺してくれた奴はどいつだ?」
その場に駆け付けたわしは、思わずサトウの方を見る。
そして、わしは見た。
サトウがわしを指さして、全力で首を横に振るっているのを。
ぐぬぬ……こやつ……
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