第32話:領土拡大
領土拡大。
この言葉が正しいのかどうかは、分からない。
ここが誰の領地だとか分かってない。
それ以前に、ゴブリンに人が決めた領土の区分けなんか関係ないだろうし。
「ここは、ミスト王国の土地だぞ」
俺の配下になったもとからここにいる、土着のゴブリンの氏族の領地だな。
うん、他のゴブリン達はいないし。
「ベンゲル伯爵領だぞ!」
とりあえず、現状俺たちの土地だと思って良いだろう。
あとさっきから、ミレーネが何か言っているが。
何を言ってるのか、よく分からない。
「急に馬鹿になるな! 言葉の意味くらい分かるだろう」
「オレゴブリン、ニンゲンノコトバワカラナイ」
「それが、人の言葉だ!」
とりあえずミレーネを無視して、問題を認識。
一つ目。
土地が手狭になってきた。
ゴブリン達の住居を改築しまくったせい。
しかも所帯持ちになったことで、一件当たりの土地使用量が増えてしまった。
次に、畑を始めたこと。
最初は家庭菜園規模だったが、一部のゴブリン達が農業にはまってしまった。
ゴブリンファーマーを目指すと、意気込んでいる。
だからついつい、広めに土地を用意した。
作付けする野菜の苗や種は、ジャッキーさんに頼んだ。
あっちの世界のホームセンターで、買ってきてもらっている。
ゴブリンファーマー見習いたちには、土属性の魔法に特化させているが。
植物の生長促進の魔法のお陰で、元から生育の早い野菜はすでに一回目の収穫を終えた。
ただ、この魔法を使ったところで、土壌に栄養が無ければ途中で成長が止まる。
鶏糞やら、肥料やらを大量にジャッキーさんに追加で頼んでおいた。
堆肥に人糞ならぬゴブリン糞は、ちょっと嫌だなと。
だから、骨灰やら腐葉土やらも使わせている。
とりあえず、土地を確保したい。
しかし、いまある集落は周囲を壁に囲まれている。
門の部分を動かすのは面倒なので、それ以外の部分を広げることに。
集落の外を開拓して、その周りをぐるっと壁で囲む。
そして、中の壁を崩す。
うん、この方法で行こう。
「よし、じゃあまずは木を切るぞ!」
俺が斧を肩に担いで、ゴブリン達に指示を出す。
風魔法で切れなくもないだろうが、やはりたまには健康な汗を掻くのも悪くない。
嫌な汗や、暑くて出る汗と違う。
労働の汗だ。
「……」
思いっきり斧を振るったら、一発で木がえぐれて折れた。
そして、斧の刃が少し欠けている。
せっかくジャッキーさんに用意してもらったのに。
そして、木が一直線に隣で作業をしていたゴブリンの方に向かって倒れていく。
間一髪で、避けていたが。
危なかった。
「さ……流石、ロードです」
木材やら薪を集める部隊の隊長のゴブサクが、一生懸命褒めてくれているが。
気まずい。
俺のイメージでは、何回も斧で叩いて切るはずだった。
カーン、カーンと子気味良い音を森に響かせて。
「さっ、どんどん進めていこう」
斧はゴブサクの部隊の者に渡して、俺は鉈で切った木の枝を落としていく作業に。
これはイメージ通りにできた。
少し離れた場所から、木を切る音が聞こえてくる。
頬を撫でる風が心地よく、一定間隔で聞こえる音も相まってだんだん眠気が……
「ロード!」
「あ? ああ、すまんすまん。寝るところだった」
「いや、そうじゃなくて指」
よく見たら、鉈が枝を切り落として俺の指に当たっていた。
しかしながら、俺の指には傷一つついていない。
「ちょうど当たるときに意識が落ちて力も抜けたのかな? 運が良かったみたいだ」
「そ……そうですか」
その後も、何度かウトウトしながら作業していたら、鉈も没収された。
「心臓に悪いので」
「大げさだなー」
仕方なく切株に腰掛けて、ゴブリン達の作業を見学。
そうだな……切株、邪魔だな。
うん、こっちの処理をしようか。
切株の側面の土を少し掘る。
そして、そこに太い木の棒を差し込んで、梃子の原理で。
「あれ?」
少し力を入れてみる。
「くそっ、上手くいかないなー。確か、テレビかなんかでやってるのみたんだけど」
グラグラはしてるんだけどなー。
しょうがない、もう少し力を入れるか。
「あっ」
木の棒の方が折れてしまった。
割と、頑丈そうな棒を選んだはずなのだが。
そして折れた先が、ゴブサクに向かっていく。
「ロード……」
「すまん」
とりあえず、ゴブサクに謝って作業の続きを……
「あの……」
一生懸命木を差し込んでいる俺に、一匹のゴブリンが声を掛けてきた。
「どうした?」
返事をして振り返ると、そこには綺麗に抜かれた切り株が。
声を掛けたゴブリンが、何やら気まずそうな申し訳なさそうな表情。
ふーん……そう……凄いねー。
上手だねー。
「ふんがあっ!」
「流石です!」
悔しかったので切株の下に直接手を差し込んで、ちゃぶ台返しの要領でひっくり返した。
こっちを面目なさげに見ていたゴブリンが、目を輝かせて褒めてくれた。
フフン!
俺もやるもんだろ?
ちなみに……ちなみにだが、聞いておこう。
うん、俺も簡単にできるけど、一応ね。
……どうやったの、それ?
土魔法かー。
目の前で実践してくれたけど。
彼が手を翳すと、地面がモコモコと盛り上がる。
うん、土操作ね。
それにともなって切株も全体が地表に押し出され、その後土の部分だけが下がっていく。
見事に切株だけになってるし、地面も綺麗にならされている。
それなら、俺も出来るな。
そっちの方が簡単だよな。
申し訳なさそうに、こっちを見ているが。
……
「ふんがあっ!」
「やはり、ロードは素晴らしいです! 私なんかとは、作業速度が違いますね!」
切株を抜いた跡は汚いけどな。
ゴブリンより脳筋なことをしてしまった自覚はある。
あと、大人げないと、少し反省。
その後は素直に、彼と一緒に土操作魔法で切株を処理していく。
「凄い! 一度に、こんな広範囲を!」
「ふははは! もっと、褒めていいんだぞ!」
魔力量にものを言わせて、辺り一帯の地面を一気に押し上げて切株を処理。
一緒に作業をしているゴブリンも、大興奮だ。
すごく、気分が良い。
「うわああ!」
「危ない!」
うっかり範囲を間違えてしまい、切ってない木まで押し上げてしまった。
そして、横で作業をしていたゴブサク達の方に倒れていった。
なんで、ピンポイントにそっちに倒れるかな。
「す……すまん」
ゴブサクに、数人分の仕事が今ので片付いたので、ゆっくりしててくださいと言われた。
ササっと切株を椅子に加工して、そこで座って見ててくれるだけでいいとも……
うん、邪魔だから、黙って見てろってことね。
しかし、何か手伝えることはないかな。
せっかく、ここまで来たんだし。
よし、やっぱり手伝おう。
「いま、ゴブエにお茶を頼みましたので、座って待ってください」
腰を浮かせたタイミングで、ゴブサクに声を掛けられた。
彼の奥さんが、お茶を用意してくれると。
ふふ……
寂しい。
しょうがない。
それなら、ばれないように手助けを。
この場にいるゴブリン達に、筋力強化のバフを掛ける。
「うわっ、急に力が!」
「あぶないっ!」
ちょうど斧を振るったタイミングてバフが掛かったらしく、また間の悪いことに木を倒す切れ込みの最後の一撃だったこともあり、勢い余って木をへし折っていた。
しかも木が折れたことで斧がそのまま振りぬかれたうえに、抵抗が無くなったことで手からすっぽ抜けたらしく。
なぜか、やはりゴブサクに向かって、斧が回転しながら飛んで行っていた。
すごい勢いで回転しながら飛んできた斧の柄をパシッとキャッチしたゴブサクに、言うことを聞かない立場が上の人の子供を見るような表情で見つめられてしまった。
すいません。
もう、何もしません……
黙って見学します。
あっ、お茶美味しいです。
ありがとうございます。
ゴブエの淹れてくれたお茶を飲みながら、思わずため息が漏れた。
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