第31話:ホーンテッドダンジョン

 今日はあまり乗り気ではないが、またダンジョンに来ることに。

 アスマさんがいた、あのアンデッドだらけのダンジョン。

 ゴブエモンとゴブオに、どうしてもと言われてしまっては断れなかった。

 もう、レベル上げは当分いいかなと思っていたのに。

 だって、レベル1つ上がっただけで、結構なボーナスポイント貰えたし。

 かといって、そのポイントはほとんど手付かず。

 最初のポイントもまだ残っている状態。

 そこまでレベル上げの必要性を感じていない。


「きっと、満足いただけるかと」


 ゴブオの言葉だが、少し理解に苦しむ。

 ダンジョンで満足の意味が分からない。

 もしかして、大量のレイスでもいるのかな?

 それは、それで嫌なんだけど。


 心なしか、アスマさんがワクワクしているのも気になる。


「……」


 入り口から少しびっくり。

 ダンジョンの入り口が、改造されていた。

 人間の文字で、ここに入るもの一切の希望を捨てよと書かれている。

 横にはホーンテッドダンジョンの看板が。

 思わずアスマさんを二度見してしまった。


「うむ」


 すでに満足している人が横にいた。

 人じゃないけど。

 とりあえず、あてにならないことはよく分かった。

  

 入り口の横の立て看板に書かれた注意書きを読んだあと、その横にある松明を一本取ってからゆっくりと歩を進める。

 


「へえ、綺麗になってる。それに、風が」


 中に入るとひんやりしてて気持ちいい。

 壁やら床がしっかりしてた。

 土属性魔法を色々と駆使したみたいだけど、ちょっとした建物みたいだ。

 前回みたいに床がゴツゴツしてないので、歩きやすい。


「ぬわっ!」


 入り口から入って暗くなったあたりで、横からプシューっという音とともに風が。

 まさか、毒ガス?

 ではなさそうだ。

 普通の風。

 アスマさんが、びっくりしてたけど。

 ダンジョン名からそんな気がしていたので、俺は特に驚くことはなかった。 

 いや、驚いた方が良かったのかな?

 ゴブオが視界の端で少しガッカリしているのが見えた。


 少し進むと、看板が。


『迷える魂の慟哭に、恐怖するがよい』


 うーん……なんだろう、急に安っぽいアミューズメントの匂いがしてきた。

 大丈夫だろうか?

 もしかして、接待した方がいいのかな?


 水がしたたる音が聞こえてきたけど、恐怖心を煽る演出かな?

 個人的にはちょっと暗すぎる気がするから、ライトの魔法が使いたいけど。

 最初の看板に、中では松明以外の灯りを灯さないようにと書かれていた。

 一応、ルールを守って楽しむことに。


「ふうぁっ」


 今度は何かを打ち鳴らす音がして、前から人魂っぽい何かが。

 アスマさんの口から変な声が出てるけど、無視。

 これが、レイスって呼ばれてる魔物なのかな?

 とりあえず、浄化したらいいのかな?


「はっ!」


 無詠唱でホーリーレイを放ってみる。

 あー……普通に消えた。

 そこは、断末魔の叫び声でも上げてもらった方が、雰囲気出そうだけど。

 流石にダンジョンの魔物に、芸を仕込むのは無理だったかな。

 ちょっと、楽しかったけど。

 

 ……レベルが上がってない。

 チラリとゴブオを見る。

 苦笑いしている。

 作り物らしい。

 

「わひっ」


 ……次に出てきたのはグール。

 これは本物。

 この流れならいけると思ったのだろうか?

 見た目が不衛生だから、近づきたくない。

 遠くからホーリーレイを放って浄化。

 おお! 

 倒したら、横から風が吹いてきた。

 しかも洗浄魔法の効果を乗せて。

 少しだけ、気分がマシになった気がする。 

 そして、レベルが3に。


「ひゃあ」


 アスマさんが、足首を掴まれたらしい。

 俺も掴まれたが、振り払って思い切り踏んづけたあとで少し後悔。

 感触が生々しい。

 

 こてもアンデッド系の魔物。

 デビルハンドと呼ばれる魔物だと、出た後で教えてもらった。

 

「むほっ!」


 壁が崩れて、中に赤い光に照らされた女性のゾンビ。

 ゾンビも少し迷惑そう。

 面倒だし、近づきたくもないので無視して進む。


「うわっは!」


 その先には錆びた鉄格子に入った女性のゴースト。

 青白い顔に、何もない眼窩が特徴。

 口が裂けて、怪しい笑みを浮かべている。

 うーん……


「はっ!」


 とりあえず、ホーリーレイを放つ。

 レベルが上がったけど、鉄格子はどうやって準備したのだろう?

 もしかして、鉄の加工ができるように……これ、鉄じゃないな。


 ゴーストを倒した後で、格子部分を触ってみたが。

 赤茶色の木を上手に加工して、光の当て方でそう見せていたのか。

 なかなかクオリティが高い。

 あと、アスマさんがうるさい。


 この人、ここに住んでたんだよね?


 その後も、深さ20cmで大きさが足一本が入る程度の泥か何かの入っている落とし穴に、アスマさんがハマって変な声をまた出していた。

 俺は罠探知のスキルがあるから、ハマったりしない。

 ゴブオの顔を見て、ハマった方が良かったかな? とも思ったけど、汚れるのが嫌だから遠慮しよう。


 首筋に紐につるされた、柔らかくて生暖かい何かが触れたり。

 こんにゃくはないと思うから、何かしらの何かだろう。

 スライムとかかな?

 迷惑だろうから、やめてあげなさい。


 途中曲がり角で、グールにぶつかるハプニングも。

 食パンは咥えてなかったから、セーフだ。

 いろいろな液体がついて、帰りたくなった。

 ゴブオとゴブエモンが、悲痛な表情を浮かべていたので踏みとどまる。

 ここを造ったあとで、リポップした個体だったのだろう。

 その辺の詰めが甘いが、まあダンジョンを完璧にどうこうしようというのは流石に無理があるのだろう。

 ここまで作り上げただけでも、十分に凄いと思うぞ?

 だから、ゴブエモン。

 必要以上にそのグールに攻撃を加えるのをやめなさい。

 なんとか、我慢して先に進むから。

 洗浄魔法を使ったけど、それでもお風呂に入りたい。

 綺麗になってるけど、綺麗になった気がしない。


 そうだな、セーフエリアにお風呂を用意してくれるといいかもしれない。

 なんだかんだで、リッチのいるボス部屋まで来ることができた。

 ちなみに、レベルは4で止まっている。

 アトラクションの一環だと思うと、別に無理に倒す必要も感じなかったのもある。

 再度準備するのも大変だろうし。


「フハハハハ! 愚か者どもめ! 我が傀儡として永劫の苦痛を与えてやろう!」


 何か言ってるけど、上位互換のアスマさんが横にいるからか、特に思うことはない。

 アスマさんの方を見ると、微妙な表情を浮かべていた。

 ボス部屋を改装するのは無理だったのかな?

 今までと比べて、なんというか。

 ここだけむき出しの岩肌っぽい部屋。

 ここまで壁や天井、床がしっかりしていただけに落差が酷い。

 急に立地が……リッチが可哀そうに思えてきた。

 しょーもないことを考えるくらいには、心にゆとりが。

 口には出さない。

 学習した……愛想笑いのクオリティが上がっているが、ゴブリン達に揃ってミュージカルみたいな笑い方をされると。

 思い出し悶えのダメージが相対的に上がる。

 しかし、本当に残念だな。

 ボス部屋。

 まだ女ゴーストがいた、牢屋っぽい場所の方が整っていた。


「リッチなのに、全然リッチじゃない!」


 薄汚れたローブを纏ったリッチを見たら、部屋の残念さも相まって我慢できなかった。

 ゴブエモンとゴブオが、高らかな良い声で笑い出す。


「何をいう! 我はリッチだ! リッチだ……」


 バカにされたと思ったのか、リッチの顔が真っ赤。

 いや、薄汚れて煤けたベージュだけど


「何をいう! 我はリッチだ!」

「めっちゃ貧相。部屋もみすぼらしいし……というか、洞窟暮らしとか、どっからどうみてもホームレス」

「そ……そんな名前ではない!」


 少し哀れに思っていたら、横から黒い球が飛んで行った。

 どうやら、アスマさんが我慢できなかったらしい。


「我の下位種族とはいえ、ここまで情けない姿をさらされるのは辛抱ならん」


 ゴブエモンとゴブオがあちゃーって顔してた。

 俺に倒させたかったのかもしれないけど、会話が成立する相手を問答無用で倒すのはどうも。

 向こうが襲い掛かってきたならともかく、普通に普通の会話の範疇だったし。

 

***

「楽しかった。見慣れた者どもだと思っておったが、演出でこうも変わるとは」


 アスマさんが少し興奮気味だ。

 まあ、俺も楽しめたのは間違いない。

 間違いないが、横で俺よりもはしゃいでる人がいると、相対的に俺は落ち着いてきてしまった。

 同行者が悪かったな。

 言葉には出さないけど。


「惜しむらくは、もう少し小道具や演出にひねりが欲しいところじゃな。手術部屋とかあってもよかったかもしれぬ」


 いや、この世界に手術部屋はあるかもしれないが、映画に出てくるような手術道具とか変な機械類とか存在しないよね?

 似たような器具はあるのかな?

 あと、小道具って何に持たせるつもりなんだ。


「ダンジョン内の魔物は、思い通りに動きませんので」

 

 ダンジョン外の魔物も、そうなんじゃないかなー?


「だったら、我が手伝おう。アンデッドの意識を操るなど造作もない」

「本当ですか?」


 ゴブオが目を輝かせている。

 それから2人で俺とゴブエモンそっちのけで、何やら打ち合わせを始めて盛り上がっている。


「登場したあとで、目の前で苦しみながら片腕を落としたりもできるぞ」

「素晴らしい! そうなれば、生々しくて恐怖を煽ることになるかと」


 いや、腕落としたら戦闘力も一緒に落ちないか?

 ダンジョンの魔物の目的は驚かすことじゃなくて、侵入者の排除とかもしくは殺して何かを得るとかじゃないのなか?


「あとは、ゾンビの目玉を落としたり……他には、苦悶の表情を浮かべて身体を燃え上がらせて焼きただれながら消えたり」

「身体をですか?」

「うむ。ゴーストなら難なくできよう。なるべく、人と同じ見た目の者の方がよかろう」


 目玉を落としたら、もはや敵を認識できないよね? 

 落とした目玉を踏みつぶされたら、詰むんじゃないかな?

 あと、出て来ていきなり燃えて消えるゴーストとか。

 なんのために、出てきたんだってならないかな?

 ならないのかな?

 ならないんだろうな。


「とりあえず、リッチがリポップしたらわしが改良して、このダンジョンの魔物を細かく操れるようにしようと思う」

「頼もしい限りです」


 まあ、2人が楽しそうだからよしとしよう。

 しかし、元気だねゴブオは。

 俺の屋敷の改装と、来賓館の建築で、てっきり大変だと思ったのに。

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