第28話:ギャル男オカミかチャラ男オカミか

 最近、ジャッキーさんが全然来なかった。

 呼んでもきてくれない。

 何かあったのだろうか?


 本当に、何かあったのかと不安になったころにやっときた。 

 すごくご機嫌な格好で、大量の荷物を持って。


「どうもー」


 いやいや「どうもー」じゃないんだけど?

 聞きたいことがあって、何回も呼んだんだけど。


「聞きたいこと? あっ、バレちゃいました? 結構、日焼けしちゃいましたしね。真っ黒でしょ? ちょっと、チャラく見られそうですが見た目だけですよ?」


 何を言ってるのだろうか、この狼は。

 日焼けって、毛に覆われてる狼なのに?

 毛の色も変わってないから、日焼けとか言われても困る。

 そもそも貴方は、元から黒いでしょう。

 突っ込み待ちか?

 それと割と元から軽いとは、思ってた。

 とりあえず頭だけ金髪に染め直して、出直してこい。


 あと、俺が聞きたいことはたぶん、それじゃないと思う。

 

「どこに行ってたか、気になるんですよね?」


 いや、違う。

 それは、興味ない。

 そもそも聞かなくてもサングラス掛けて、中折れストローハットのアロハシャツ狼見たら色々と察する。


「なんと、夏季休暇を利用して、ハワイに行ってきました! ということで、これお土産です」


 だから、別に良いって言ってるのに。

 こっちが、休みなしで過ごしてるのに、バカンスに行ってきたのね。

 見たら、分かる。


 黙ってたらバレないのに。


 ……いや、黙ってても分かるけど。

 見た目とテンションで。

 この人、秘密を抱えられないタイプだな。

 うん、絶対にプライベートを相談したら、だめな相手だと認識。


 あと、ハワイ土産いらない。

 お菓子系はのきなみ美味しくないし、民芸品はさして興味ないし。

 お菓子って最初だけ物珍しくて食べるけど結局ゴロゴロして、最終的に忘れて思い出したころに賞味期限大丈夫か不安になりながら消化してく結末しか見えない。 

 

「マカダミアンナッツの入ったチョコに~」


 人の話をまったく聞いてくれない。

 それとテンションが高すぎて、ちょっとキツイ。


 目の前に、定番のお菓子が並べられていく。

 こういうのって、土産物じゃなくて嫌げ物っていうんだよ? 

 知ってた?

 大箱に入った、大味なお菓子ばかり大量に。

 俺、一人なんだけど……

 まあ、人が4人いるっちゃいるから、そいつらに配ってもいいけど。

 いっそ、ゴブリンにばらまいてもいいか。


「照りつける太陽が、まぶしくってですね……それ以上に、浜辺で戯れる水着の……」


 しばらく、どうでも良い自慢話に付き合う。

 諦めた。

 気が済むまで、話してもらった方が良いと判断。

 しかし、内容にまったく興味が湧かない。

 浜辺の水着姿の狼とか。

 苦行かな?


「ちゃんとした、人ですよ!」

 

 相変わらず、俗っぽい狼だ。

 色欲に忠実すぎる。


「曾祖父譲りですかね?」

「曾祖父?」

「祖父がフェンリルで、曾祖父がロキです」


 割と、由緒正しい血統だった。

 けど、色々と性格に難のある2人だね。

 曾祖父さんに至っては、性癖にまで難がある人だよね?

 まあ、父親があれだったら、その子供たちがグレちゃうのは仕方ないと思う。

 そしてジャッキーさんが、俗っぽい理由も納得。

 だから、もう良いかな?


「そうだ、ヤシの実のジュース飲みません? これ、いいでしょう」


 まだ、続くのか。

 今度は、ヤシの実をそのままだしてきたけど。

 どうやって割るんだろう。

 あっ、牙で噛んで穴をあけるのね。

 ……俺には牙が、無いんだけど?

 

「佐藤さんのステータスなら、指で剝けません?」

「おお!」


 一個貰ったので、親指で抑えてみたら簡単に割れて穴が空いた。

 ちょっと、感動。

 そうじゃない。

 ジャッキーさんのペースに引き込まれるところだった。

 違う違う。


「ゴブリン達の進化について、聞きたかったんですけど」

「えっと、なんでしょう?」


 思わず、声が一オクターブ低くなってしまった。

 ジャッキーさんが、慌てて帽子とサングラス取ってたけど。

 アロハは脱がないのね。


「まず、思ってたんと違う。なんか、就職決まりました! みたいな感じに進化した奴ばっかりなんだけど?」


 アロハの狼に敬語を使うのも癪なので、雑な言葉遣いになってる自覚はある。

 あと、こっちに働かせてバカンスに行くような、上司兼世話役に気を遣う必要も無いと思うし。


「役割を与えて、そこに特化したスキル割りとステ振りしてますからね」

「そうじゃない。俺の思う進化ってホブゴブリンとかになって、人に近くなるのかなと」

「あー、あれは身体が大きくなるだけですし」


 そうなのか。

 じゃあ、見た目はやっぱりステ振りで改善してくしかないか。


「あと、うちのゴブリンがこの世界の人と比べて強い気がするんだけど。ゴブリンって雑魚の代名詞かと思ってました」

「ステータスのある世界ですからね。ステータスを伸ばせば、それは強くなります。そして、強くなったらより強い敵を倒せるので、レベルも上がりますしね」

「そのレベル上げに、魔物を倒さないといけないという不毛のシステム。敵は、人じゃないの?」

「人を殺してもレベルは上がりますよ?」


 そうなのか……物語のゴブリンとか、結構人を殺したりしてるイメージあるけど。

 そうなると、今度は物語のゴブリンが弱すぎる気がする。


「ゴブリンが殺すのは、そもそもが自分たちより弱い人間ばかりですから。ベテラン冒険者をゴブリンが単体で殺せば、一気にレベルが上がったりすると思いますが」


 そういうものなのか。

 とりあえず、まともに毛が生えるのはいつになることやら。


「毛は生えなくてもよくないですか?」

「モフモフ代表が言う言葉じゃないと思います。ジャッキーさん、尻尾なんかフサフサじゃないですか」

「まあ、確かに。このやり取り自体が、不毛な気がしますが」

「本当に、不毛で困りますね」


 しょうもないことを言い出したから、感情を消して棒読みで返しておいた。

 ジャッキーさんが少し小さくなってて、ややスッとした。


「とりあえずこれ」

「いつものですね」

「はい、今回は一応軍を相手に、追い払ったのでいつもより多いですよ」


 中身を確認。

 40万円も入ってた。

 ここじゃ、使えないけど。


 適当に集落に必要そうなものを買ってきてもらうことに。

 大工道具とか。

 メイク道具とか。

 日用品とか。

 あとは、作物の種を各種色々と。


「なんだかおかしなことになってますが、大丈夫ですか?」

「何が正解が分かりませんが、皆楽しそうだからいいんじゃないですか?」


 集落のゴブリン達を見て、ジャッキーさんが困り顔だ。

 それも踏まえて、相談したんだけど?

 就活終えたゴブリンが、沢山いるって伝えたはずなのに。

 当初の予定すらも分からないけど、順当に生存能力は伸びていってる気がする。

 力も増してるし、使える魔法やらスキルも増えてるし。

 

「また、Ⅹまで進化したら、今度こそ大きく変わるんじゃないですかね?」

「かもしれませんね」

「それはそうと、アスマさんはどうされるおつもりですか? 一応、社長の許可は得られましたが」

「本人が土壇場でビビってるので、また本決まりになったら報告します」


 社長って魔神のマジーンさんのことね。

 そうそう、アスマさんって現状ただの居候なんだよね。

 部下になったら云々の話は、アスマさんがジャッキーさんにビビッて有耶無耶になっちゃったし。

 覚えてたんだ。


「佐藤さんのレベルの伸びも、気になりますが……なんで、まだ2なんですか?」

「無益な殺生は、しませんから」

「自分が食べる分だと思って、倒せばいいじゃないですか」

「こっちの肉はまだちょっと、食べる勇気が……」

「ステータス上、腐ったものを食べても食中毒の心配はないくらいに、頑丈ですけど?」

「気分の問題です」


 無理矢理はだめだぞ?

 それは、間違いなくパワハラだからな!

 なんか、不穏な空気を感じたので釘をさす。


「差し入れのお肉にこっそり混ぜたら、コンプラ違反で出るとこ出ますからね?」

「それは困るので、やりませんよ」


 たぶん、大丈夫だと思いたい。

 押すな、押すなじゃないからな?

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