第27話:未知との遭遇
ゴブリン達の朝は早い。
前日に仕掛けた罠の確認に向かう部隊。
畑作業に向かう部隊。
美を追求する部隊。
有事に備えて、特訓をする部隊。
皆、忙しなく働いている。
ゴブリンスミス達は、少し遅い。
夕方まで作業をして、そこから酒を飲んで寝るから。
なんだか、てやんでいな感じになってきているが。
俺の前では礼儀正しい。
お酒も、ここで作るようにしてる。
ジャッキーさんに買ってきてもらうのは、主に俺が飲むよう。
「ミレーネは何が得意なんだ?」
「剣?」
俺の質問に対して、首を傾げながら答えてきたが。
自分のことなら、自分がよく知ってるだろう。
「あれを見たら、剣が得意だとか恥ずかしくて言えん」
ミレーネが指さした先では、キノコマルがゴブエモンにしごかれていた。
怒涛の連撃を、気持ち悪い動きですべてかわすキノコマル。
そういうことするから、相手がムキになって余計に攻撃が鋭くなるんだぞ?
「ちょっ、それ! 当たったら死ぬっす! 木の剣でも、当たったら死ぬっすよ!」
「
「いやぁ、ちょっと女性陣にお酌されて、おだてられて調子に乗っちゃっただけっすよー」
ちなみに、キノコマルもゴブリンⅩに進化している。
ハッピーゴブリンとかっていう、訳のわからないユニーク種に進化したけど。
動きもコミカルだし、軽快にあらゆる攻撃を回避している。
そして、スキルが反則。
【致命傷回避】
【即死回避】
【超速再生】
【刹那の見切り】
【軟体】
【関節無視】
【起死回生】
【生存フラグ】
8個のユニークスキル持ち。
このジョブ、攻撃スキルが一切ない。
いや、かろうじて起死回生が上手く作用すれば、決定打が打てるかもしれないが。
元から持ってた、命中補正とかはともかく……絶対に死なないであろうスキルの数々。
ホラーやスリラーでも、最後にちゃっかり生きてましたとかってポジション。
どんな攻撃も、気持ち悪いくらいにクネクネしなが避ける役回り。
そして、仮にボコボコにされて血まみれで白目を剥いてたとしても、次のコマや次のシーンでは無傷で登場。
そんな役回りのジョブなのだろう。
「痛いっすー」
埒があかないし、よけ続けたらゴブエモンの怒りが増すと判断したのだろう。
キノコマルが連撃を全て浴びて、宙を踊るように舞う。
「ぐえ」
そして頭から落下しで、首がグキってなってた。
「おい、大丈夫か?」
「だ……大丈夫じゃないっす」
「すまん、やりすぎた! すぐに回復魔法が得意な奴を呼んでくる!」
ゴブエモンが焦った様子で、救護班を呼びにいったけど。
「さて、いまのうちに逃げるっすよー!」
キノコマルがすぐに起き上がって、首を2~3回横に振ってその場から逃げ出そうとする。
「あっ!」
そして、俺と目が合う。
思わず、溜息が出てしまった。
大人しく、回復されるまで怪我したふりしておけばいいものを。
「内緒っすよー!」
ぴょんとジャンプして口に人差し指を当ててから、足を凄い勢いで回転させながらピューっと音を立てて消えていった。
横でミレーネが口をパクパクさせてる。
どうした?
「あ……あれだけの攻撃を喰らって、無傷だと? うちの騎士団の連中でも、鎧もつけずにあんなの喰らったら死ぬぞ?」
あいつは、そういう生き物だから。
「いや、どういう生き物だよ! どっから、どう見てもゴブリンではないか!」
まあ、この集落はジニーとアスマさんと、カマセ子爵の息子以外は全員ゴブリンだからな。
当たり前のことを、言わないでほしい。
「そうではない! そういうことを言ってるんじゃない! ゴブリンって……ゴブリンって……」
「あっ、ロード! ちょっと見てもらいたいものがあるのですが」
そんなことを思っていたら、美容担当ゴブリンの一人が俺に話しかけてくる。
おっ、今日はなりきリメイクバージョンか。
首まで肌色だけど、そっから下が緑色なんだよな。
ヤマムラのタートルのニット着てるから、分からないけど。
ちなみに、こいつもゴブリンⅩになって進化した。
ゴブリンビューティに。
いやいや……まあ、綺麗にはなったけど。
髪の毛と眉毛っぽいのが生えてきた、待望の進化個体。
つっても、伸ばしてるさなか。
ようやく、髪が五分刈り程度には伸びてきている。
そうゴブリンの五分刈り……ゴブリンの五分いや、なんでもない。
無理して笑わないでくれ。
心が……
美容担当のゴブリン達はメンズのファッション雑誌も読んでるから、五分刈りの意味は知ってる。
あと、そこは思い至らなかったけど、睫毛も生えてきてて本当に可愛くなってる。
緑色だけど。
「なあ……あれも、ゴブリンだよな?」
「そうだぞ?」
美容ゴブリンの見てもらいたいものとやらを見に行くために、案内に従ってついていってたら横からミレーネに話しかけられた。
確かに少し毛並みは違うけど、ゴブリンだ。
毛が生えてるだけに毛並みが……なんでもない。
むしろ笑ってやってくれ……阿呆なことばかり考えてる俺を。
疲れが溜まってるのかな?
「ちょっと、綺麗すぎやしないか? あれだけの器量ともなると、男どもも放ってはおかないだろう」
「ほぼ、詐欺メイクだけどな」
「け……化粧でどうこうできるレベルを超えているぞ?」
スッピンも可愛いけどね。
ただ、化粧の技術が日々進化してるから。
「こちらです」
「これ?」
「はい」
美容ゴブリンが見せてくれたのは、数着の服。
普段使いできそうなものから、フォーマルなものまで。
「ロードに頂いた布と、道具で作りました」
へえ、立派なものだ。
なかなかセンスも良いし、お店で買うものと比べても遜色ない。
布や道具の値段を考えると、安い量産店で買った方が遥かに安く済むけど。
セレクトショップに並んでても、違和感のない出来。
「人の町では見られぬ形の服だが……」
ミレーネの言葉に、ゴブリン達が首を傾げる。
そして、側に置いてあった雑誌を開いて見せる。
「人が着ている服なのですが?」
「な! なんだ、この本は! 見たこともない品質の紙に、本物と見紛うばかりの精巧なる絵は!」
そっちに、驚いてしまったようだ。
この世界、写真なんてないみたいだからな。
映像記録の水晶はあるみたいだけど、古代の遺跡とかから稀に見つかるとか。
「そんなことより「そ……そんなこと……、なあサトウ殿……ゴブリンというのは、みなここまで進んでいるものなのか? この集落で触れるもの全てが、私が知っているものよりも遥かに上等なものばかりなのだが」」
俺が先に行こうと促そうとしたら、襟首を掴まれてまた揺すられた。
いやいや、この集落どころか、この世界の物ですらないけど。
「ア……アスマ殿は何を」
「ふむ、映画鑑賞じゃ」
家に戻ると、音楽が流れていることにミレーネが驚いていた。
そういえば、前にアスマが映画見てた時は、もう寝てたからね。
そして、音のなる方へと向かったミレーネが、小さな画面で映画を見ているアスマを見て目が泳いでいた。
「映画?」
「ふむ、演劇を記録して、再生できるようにしたものじゃよ」
「そ……それは、アスマ殿が?」
「いや、サトウが用意してくれた」
あっ、ミレーネがフラフラとどっかに歩いて行った。
お風呂か……
疲れたんだろうな。
ミレーネの後に、ジニーがお湯を借りに来た。
で風呂に入って、悲鳴を上げていた。
どうやら、水風呂だったらしい。
頭でも冷やしてたのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます