第20話:猫まっしぐらなアレ
「こんにちわー」
ジャッキーさんが来た。
黒い炎纏って。
その演出って必要なのかな?
「まあ、気分の問題でしょうか? 一応、登場の合図みたいなものです」
「じゃあ、普通にアナウンスとかじゃだめなんですか?」
「……」
無言でしばらくジッとこっちを見たあと、ジャッキーさんがフワッと消えていった。
少しして、空からピンポンパンポーンという音が降ってくる。
『まもなく、ジャッキーが登場します』
機械的な女性の声が聞こえたかと思うと、ポンっという音が聞こえそうな感じでジャッキーさんが登場した。
なんだろう……なんか、違う。
「おかしいでしょう?」
「ごめんなさい」
素直に謝る。
今日ジャッキーさんが来たのは、給与明細だろう。
中を開けてみると、30万くらい天引きされてた。
色々と買ったからなー。
まあ、必要なものだから良いんだけど。
ゴブリン達にバーベキューで、ちょっといい肉を振舞ったりもしたしなー。
あれだけで、6万くらい飛んでったし。
あれからゴブリン達が、狩ってきた獲物の肉を見て溜息を吐くようになってる。
大物を狩っても、あまりうれしそうじゃない。
「こいつら、筋が固いんだよなー」
「脂身も少ないし……しかも臭みも」
出会った当初のお前らの体臭よりもよっぽどマシだぞー。
ジンギスカンと似たようなもんじゃないか。
タレつけたら、普通にうまいと思うぞー。
「では、ロードも一緒に食べますか?」
食べないけどな。
得体のしれない肉なんか食わなくても、魔法のクーラーボックスに肉ならいくらでも入ってるし。
無言でタレだけ渡して、逃げた。
上の味を知ってしまったのは可哀そうだけど、我慢しろ。
昔に比べたらそれだって、ごちそうだろ?
脱線した。
「それと、頼まれていた物も持ってきましたよ」
追加で色々とお願いした。
映画関連のBDも。
大型のソーラー発電機も追加購入。
アスマさんが、ポータブルBDプレイヤーにどっぷりハマってしまった。
充電が切れると、うるさいうるさい。
なぜか、これから盛り上がる瞬間とか、クライマックスの瞬間に電池に斜めの線が入る確率が高い。
食料関係も補充。
あれ?
頼んでないものも入ってる。
「色々と、私からの差し入れも入れてますから」
優しい。
田舎のおかんが送ってくる小包みたいで、ジャッキーさんの差し入れを確認するのが楽しい。
食べるオリーブオイルシリーズのナッツソースとか、狼が買うのが想像できないものも入ってるけど。
意外とセンスが良くて、びっくり。
「あと、これはどうされるんですか?」
ジャッキーさんが手渡してきたのは、俺が頼んだチール。
猫が大好きなあれ。
ずっと、ペロペロするやつ。
「いや、いつもお世話になってるんで、感謝の気持ちです」
「馬鹿にしてます?」
なにっ?
いやでも、犬も夢中になってペロペロしてる動画もあったし。
「狼なんですけどね。しかも、神の末裔なのですが?」
「いや、初耳ですそれ。自己紹介の時に言ってくださいよ」
「食べ物は普通の物が好きだって話、しませんでしたっけ?」
「あっ……」
聞いてた。
「悪気はないみたいなので良いですけど。かなり、失礼ですよ」
「本当に、申し訳ありません」
「まあ、気持ち自体は嬉しいですし、私に対する変な忌避感もないようですね。見た目で結構怖がられることが多いので、こうも遠慮のない反応は新鮮で悪い気分ではないですよ」
本当によくできた狼さんだ。
人格者?
狼格者?
良い人が、サポーターについてくれてよかった。
「ただ、お礼をしたいのは本心なので、何か欲しい物とかあったりしますか?」
「うーん……業務なので気にされなくてもいいのですが」
「いや、アイスの差し入れとか、今回だって色々とお勧め商品持ってきてくれてるじゃないですか」
そんなビジネスライクな付き合いじゃないと思うのだけど。
俺の、一人よがりかな?
「デスクワークが増えて、肩こりが酷いのでマッサージチェアの購入を検討してますが、会社で使えるような小さな肩こり対策グッズとかあれば嬉しいですね」
「えっ?」
「ああ、社内では一応人型で過ごしてますよ? ただ基本四足歩行なので、人型になるとこう首の重みをじかに感じてしまって」
……本当に、神の末裔なのかな?
そうか、だったらネックピローだな。
あれなら作れそうな気がする……うちのゴブリンに。
「わかりました。次、会う時までに用意しておきますね」
それから、現在の状況を色々と報告してから、お別れを。
この間、用事があったのに残業させたことを謝ったら、なんかどんよりしてた。
「サトウさんが頑張ってるのに、罰が当たったんでしょうね。はずれでした」
「……」
合コンか?
また合コンに行ったのか?
そんなことを理由に、終業前に帰り支度をしようとしてたのか?
ちなみに、映画を一本見終わった様子のアスマさんが部屋の前を横切ったけど、ジャッキーさんを見てホラー映画で驚いた時と同じリアクション取ってた。
少し、癒された。
***
「しかし、この円盤は凄いのう」
アスマさんがブルーレイディスクを手にもって、感嘆の溜息をもらしていた。
本当に凄いと思う。
映像や音を切り取って、記憶できるのだから。
意味が分からない世界だ。
「これを再現できれば、記録関連の魔道具に革命が起こるぞ」
そうだろうね。
「お主、仕組みを知らぬのか?」
「知るわけないだろう。どっかの天才が考えたんだよ」
「……わしも、天才と呼ばれておったのだが……ちなみにそのものは人か?」
「そうだよ! ただの人だよ」
「悠久を生きるわしですら思いつかぬことを、たかだか60年で生を終える人が作り出すとは」
いや、その人が一人で作ったわけじゃないだろうし。
もとは、0と1の組み合わせで色々と出来るようにした人が、凄いんだと思う。
「その映像もその記録も、0と1の数字で作られてるらしいいぞ?」
俺が与えられるヒントはそこまでだ。
おれだって、それしか知らないんだ。
「あとは、2進法だか10進法だかがうんたらどうたらってことしか分からん」
「肝心なことが、何も分かっておらぬではないか!」
なんか叫んでいたが、俺には関係ない話だ。
後日、長老会のゴブリンをアスマの助手にしておいた。
あまり肉体労働をさせるのもあれな面子なので、知性に全振りして送り出す。
「知性があっても、知識が無い……そこを教えるところからか」
何やらぼやいていたけど、楽しそうだった。
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