第19話:ほらーホラー

「ファイア~ボ~ル」


 魔法の言葉を口にすると、俺の手からヘロヘロと火の玉が放たれる。

 ユラユラノロノロと不安定な動きをするそれは、目標に着弾すると同時に大きな音を立てて爆発した。

 ふふ……楽しい。

 

 ちなみに魔法名を言っているのは、気分の問題。

 無詠唱でも使える。

 ボーナスポイントで無詠唱のスキル獲ったから。

 だからこんなこともできる。


「ファイア~ボ~ル」


 魔法名はファイアーボールだが、手から出てきたのは水の玉。

 そして、着弾すると水の竜巻を巻き起こす。

 その様子を横目で見ていたゴブリンが、ビクッとしてたのが笑えた。

 魔力は多めに伸ばしているから、いくらでも使える感じ。

 だと思う。

 

 威力も出鱈目。

 もちろん込める魔力量で、調整は出来るけど。

 その辺りのスキルもぬかりなくとってる。

 

 だからこんなことも!

 無詠唱で、超巨大な火球を放つ。

 轟音と地響きがして、巨大な爆発が起こる。

 ちょっとやりすぎた。

 ゴブリン達が、少し迷惑そうだ。

 だが、これは言っておきたい。


「今のは、戦術級爆炎魔法ではない。余の初級火魔法だ」


 ……まあ、莫大な魔力を消費してるから、あれだけど。

 嘘はついてない。

 

 なんでこんなことをしてるかって?


 いや、レベル上げに魔物を狩りに行ってみようかなと思ったり。

 思っただけで、具体的な予定は立てていない。

 いくら目的があるとはいえ、どうも生き物を殺すことには抵抗がある。

 虫とかならともかく、動物ともなると。

 虫も蚊とかゴキブリならって感じだ。

 蛾や蜘蛛とかは、あっちでも捕まえて逃がすか放置していた。

 蜂やカメムシなんかも、極力逃がす方向。


 だからか、なかなか覚悟がつかない。

 蚊やゴキブリを殺してレベルが上がれば良いけど。


 ゴブリンが動物を殺したりしても、特に気にはしないけど。

 別に農家が肉を売るために、屠殺することに関して悪感情は抱かない。

 自らの手を汚さなければそれでいい……


 次は剣の練習。

 といっても、木の棒を削って作った木剣だけど。

 いや鉄の剣とかは、あるにはあるけど。

 怪我とか怖いし。


 ダンジョンから持ち帰った武具が少々。

 一応これは、集落内の共有財産とした。

 といっても。所有権は俺にあるが。

 外に出るゴブリン達に、持たせるよう。


 結構な数のゴブリンが、ダンジョンと集落を行き来している。

 レベル上げもあるが、ここには鍛冶師もいなければ鍛冶場もないので作れないのだ。

 たたら場もなければ、溶鉱炉なんてのもない。

 ダンジョンなら、定期的にそういったものが宝箱に入っていたり。

 あとはダンジョン半ばで力尽きた冒険者の遺品だったり。

 流石に遺品の所有権は、俺にしてほしくないなー。

 死体漁りがどうとかじゃなくて、死んだ人が持ってたものを渡されても。

 ダンジョンの宝箱の中身も、実はそうなのかもしれないけど。


「それではロード、よろしくお願いいたします」


 ちなみに付き合ってくれるのは、ゴブエモン。

 ゴブリン侍だから、剣の使い方は上手だ。

 素手が主体だったのに、なんで侍に進化したのかはいまだに謎だ。

 そもそもが武器を持たせるという発想が無かったというか。

 うーん……自分がねっからの日本人だなと、改めて実感。

 いやいや、危険な場所に行くときは、多少の武装はするだろうけど。

 

「くっ!」

「やっぱり、だめかー」


 とはいえ、ゴブエモンでは相手にならない。

 技術や経験をもってしても埋められない、ステータスの差のせいで。

 俺にはゴブエモンの動きがはっきりと見える。

 考えて対処しても間に合うくらいの動きに。

 ところがゴブエモンは、俺の動きを目で追うのが厳しいレベルらしい。

 ステータス、残酷だな。


 筋トレとかでもステータスは伸びるし、そうやって伸ばしてからレベルを上げた方がいいことを知った。

 基礎ステータスが高い方が、レベルアップ時の恩恵が大きいらしい。


「もういいぞー!」


 とりあえず、いい汗を掻いたのでゴブエモンに礼を言って別れる。

 それから身体を拭いてお風呂に。

 お風呂も、ちょっとずつよくなっている。

 最初は土魔法のみで作った、無機質な浴室だったけど。

 色々と建材を買って、コーキングもしてそれなりの内装に。

 灯りは電池式のLED電球。

 いつかレクセルやホウモツスタンダードの内装を仕入れてもらいたい。

 値段が……


 しかし、ここはどういう世界なんだろうな。

 日中はまあまあ暑い日もあるけど、夜は結構冷える。

 嬉しいけど。

 寒いのは布団でどうにかできる。

 暑いのは、エアコンが無いと流石に厳しい。


 と思ってた時期がありました。

 氷凄い。

 バケツいっぱいの氷を部屋のあちこちに置いてたら、日中の特に暑い日でも室内は快適だった。

 季節があるかどうかは分からないけど、夏があるならでかい円形の部屋を作ろうと思う。

 魔法で巨大な氷柱を真ん中に作れば、室内が涼しく保てる気がする。

 ついでに、風魔法とかも駆使すれば万全だろう。


 魔法って凄いなー。


 ちなみに風呂に入るために家に帰った時のことだけど、チラリとリビングを見たらエルダーリッチのアスマが一生懸命映画を見ていた。

 このおっさん、普通にうちに上がり込んで来やがった。

 俺以外、誰もいなくなったのをいいことに。


 風呂からあがったら、まだ見てたので声を掛ける。


「面白いか?」

「ふむ、確かにこれは怖いな……わしが生きてた頃に、こんなのに襲われたらと思うゾッとするな」


 何が彼の琴線に触れたのかは分からないけど、邦画から洋画までジャンル問わず見ている。

 いま彼が見ているのはビオハザードという、薬や遺伝子組み換えに寄らない自然のゾンビと戦う映画だ。

 

「特にこの女が使う、筒状の武器……音が鳴ったと思ったら着弾しておる。どういう原理かは分からぬが、こんなものがある世界など、人の戦いの規模が変わるだろうな。魔法なんぞ、なんの役にも立たぬな」


 そっちか。

 まさかのゾンビ目線で見ていたとは。

 最初の頃は、和製ホラーでややビビッてたくせに。

 作り物を冷静な視点で見るのは、面白くないと思うぞ?

 それこそ、ゾッとしない話になるだろう。


 ちなみにエルダーリッチとかいう大仰な名前の骸骨お化けのくせして、驚かす系のシーンでは必ずビクッとしてた。

 しかもお約束の定番系の構成で。


 例えば、静かで暗い不気味な音楽に合わせて、恐る恐る部屋を空けたけど何もおらず。

 ホッとした状態からの、部屋から出るために振り返った瞬間に大きな音とともに上からドーンとか。

 かなりビクッとしてたな、アスマさん。


 他には普通にそれまで何もなくただの病院のシーンだったのに、人が歩いて横切った直後に大きな音が鳴って後ろを鎌を持ったローブの幽霊が追いかけるように横切るシーンとか。

 あとは男性がコーヒーを飲んるシーン、女性が話してるシーン、男性の最初の構図に戻った時に大きな音が鳴って背後に幽霊のシーンとか。

 

 そう、骸骨お化けの癖に大きな音プラス不意打ち登場のお約束に、毎回ビクッとなるのはどうかと思うぞ?

 凶悪な面の骸骨男がビクッとなると、こっちまでビクッとなるのだが?

 それで、持ってた飲み物をぶちまけて、床を拭いてるのはどうなんだ?

 エルダーリッチを知ってる人が見たら、泣くんじゃないのか?

 いや、だからと言って拭かなくていいとは言わない。

 

 ただ、油断しちゃうような日常シーンこそ、飲み物を置け。

 今が飲むチャンスじゃないぞ?

 おかしいと思わないか?

 骸骨のくせに、飲んでも肋骨の隙間からこぼれたりしないくせに、びっくりして毎回こぼすのは……流石に学習しよう。

 

 全然関係ない話だがアスマさんも、日本語の習得は早かった。

 現在、英語にも挑戦中。

 洋画を吹き替えじゃなくて、字幕で見たいらしいけど。

 ちなみにそれ、ドイツ語の映画だけどな。

 最終的には字幕も無くしたいらしい。


 そんなことよりも、研究はいいのかな?

 最後に見掛けた研究は、カーペットにこぼしたコーヒーの染みを抜く魔法の研究だったけど。

 いや、凄い有意義な研究だと思うぞ?

 思うけど、もっと他にもあるだろう。

 いや、良い研究なんだけど。

 なんか、違うというかイメージと違ったというか。

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