第7話:給与明細

「どうもー! 元気ですか?」


 珍しい。

 ジャッキーさんが呼んでもないのに、来た。

 仰々しい炎を纏って。

 しかも、ややテンション高め。


「こんにちわ。今日はどういったご用件で?}

「はい、給与明細をお届けにあがりました! 明日が給料日ですので!」


 狼の口から給与明細とか、違和感しかない。

 思わず給与明細の意味が分からなくなって、ポカンとしてしまった。


「狼差別ですか?」

「えっ?」

「違うならいいですよー! なんか、変なこと考えてそうだなぁって。そういうわけでもなさそうなんで、なんでもないです」


 ちょっと、鋭いところがあるのは狼だからかな?

 そんなことよりも、地味にテンション高いのがうざい。

 給与明細で、そんなにテンション上がるのか。


「……給与は普通に出るんですね。てか、月給制なんですね。なんか、冒険者追い払ったらお金貰えたんで、成果報酬かと思ってました。」

「もちろんですとも! うちは、月給制で基本口座振り込みですよ!」

「へえ……口座振り込み……使えねー」

「えっ?」

「いや、なんでもないです。それより、ジャッキーさんって立場は何になるんですか? 私の秘書的な立場とはお伺いしてますが」

「私ですか? 一応本社の取締役部長ですよ。総務部長と兼任ですが」


 なんだろう……狼が総務部長とか。

 ふざけた会社だ。

 てかゴブリンロード(課長)の俺からしたら、上司じゃん。

 思ったより見た目も役職も強くて、いまさらながらこれまでの態度をちょっと後悔。


「ちなみに、私はどこの部署の課長なんですか?」

「バランス調整事業部第3規模世界魔物保護課ですよ」

「よくわかりません」

「まあ、世界規模によって第1~第5まであって、地球はちなみに第2規模世界ですね。ここは地球より少し小さい感じです。で、そこで人種が度を越した環境破壊を進め、世界を崩壊に導く可能性が出てきたときに対人間種族側のバランサーとして調整するのが主な業務です! ちなみに~……」


 結構一生懸命説明してもらってなんだけど、そっかそっか。

 聞いても意味が分からないことが、よく分かった。

 だから、どうでもよくなったけど。

 これ、ここでゴブリンと過ごしてて、話してる相手が地球じゃありえないサイズの凶悪な風貌の狼だから真面目に聞けるけど、あっちの世界で専務がこんな説明をし始めたら病院をお勧めするわって内容だった。


「とりあえず、こちらが給与明細です」

 

 話し終えて満足したのか、ジャッキーさんが満面の笑みで封筒を渡してくれた。

 中身を確認。

 思わず、二度見してしまった。


「すごっ……結構もらえるんですね」

「はい、世界外手当が美味しいですよね?」


 海外赴任手当ならぬ、世界外手当か。


「振り込みは毎月1日ですので、それまでに欲しいものがあれば天引きしてお届けしますよ」

「はあ」


 ってことは、今日が月末のなのか。

 日にちの感覚も、曜日の感覚もだいぶ薄れてきてるわ。

 とりあえず給与明細の内訳を再度確認したが、基本給22万というのは少ない気がするが、世界外手当が40万、役職手当が8万、危険手当が10万。


「賞与とかもあるんですか?」

「ありますよ」


 ということは、年収が額面で1000万くらいか。

 手取りで、800万弱。

 加えて、成果報酬的なものも貰えるっぽいし。

 おお……収入が倍以上になる。

 使い道がないのがあれだけど。

 ついでに前回貰った商品リストから、目をつけていたものをリクエスト。


「家具類が欲しいです。ソファとかベッドとか。あとは窓とかドアになりそうなのとか……てか家具備え付けってって聞いてんですけど、これらもお金取るんですか?」

「あー……急遽、出向先に変更がありましたからね。当初の出向先は人間側での役割で、町に家も用意してあったみたいですけど……行先変わっちゃいましたし……何より、見た目は変わってないですけど扱いとしてはゴブリンですし……フフ」


 いま、この人笑わなかったか?

 人じゃないけど。

 真面目に話してたけど、俺の境遇を思い出して思わず堪え切れずって感じで笑ったよね?


「窓はサッシをそのまま持ってくるので、土魔法で枠をどうにかすればつけられると思いますよ。ドアも枠ごと持ってきたらいいですね。家具はベッドとソファ、単身用のダイニングセットに食器棚と箪笥くらいでしょうか?」


 ちょいちょい鋭く人の思考に突っ込んでくるくせに、普通にスルーして真面目な顔して備品の話に戻ったよこの人。

 人じゃないけど。

 人じゃないよね?


「家電類とかは……」

「ここで、使えると思います?」


 うわぁ……最悪じゃん。

 なんか、納得の給料って感じだな。


「とりあえず希望は分かりました。窓はどうします? 中連と掃き出しがありますが」

「掃き出し2つと、中連窓をとりあえず2つで」

「ドアは引き戸と開き戸、どちらがいいですか?」

「うーん……開き戸かな?」

「電気がないので、電子錠は電池タイプでいいですか?」

「なんかここが襲われたら壊されそうだから、安いので。てか電子錠前提じゃなくていいですよ? この世界的には普通のシリンダー錠でも十分ですよね?」

「適当に見繕って、あとで持ってきますね」


 いや、またスルー?

 なんだろう、建具にはこだわりがある人なのかな?

 それだけいうと、ジャッキーさんは慌ただしく消えていった。


 とりあえず欲しい物の大半が、家電なんだよなー。

 うーん……発電機とゲームのセットとかでもいいけど。

 ゲームの充電くらいなら簡単だろうし、据え置き機となると話は変わってくるけど。

 据え置き機となったらモニターいるよな。

 テレビは映らないだろうか、ただのモニターでいいけど。

 あとはプレーヤーとブルーレイがあればいいかな?

 サブスクは無理だろうし。

 他には、あっちで地上波をHDDに撮り貯めてもってきてくれないかな?

 まあ、ジャッキーさんが次来た時か呼んだときについでに聞こう。

 そうだ、全録のデッキを2つ買って定期的に交換してもらえばいいのか。

 お金払えば、やってくれるだろうし。


***

「まだまだ、先は長いか……どうやったら、お前ら毛が生えるんだろうな?」

「ええ、まあ種族としてこういう形ですので」


 相変わらず、毛が無いのが辛い。

 肌にハリが出てきているから、余計に。

 かつらを買ってきてもらって、かぶせているし。

 アイブロウとかで眉毛は書いているから、かなり俺の精神衛生上の改善に繋がったが。

 肌が緑色という点をのぞいて。

 別に毛がないのが嫌なんじゃない、視界に入る人型の生き物全てが毛が無いのが嫌なんだ。

 飼い猫だって長毛種や短毛種の中にスフィンクスとかの毛のない種類がいても、愛でられる。

 けど、全部が毛のない猫だったら……好きな人はいいかもしれないけど、想像したら俺は嫌だ。

 

 ゴブリンⅢ~Ⅴまでが、マチマチだ。

 火特化や、水特化、土特化の属性ゴブリンを育てていおかげで、インフラ整備は捗っている。

 あとは超絶肉体労働向けの、力と体力特化のゴブリンとか。

 ちなみにゴブリンⅤまでくると、少しだけ見た目に変化が。

 火特化のゴブリンは、肌が茶色っぽくなってきた。

 土特化のゴブリンは、より濃い茶色っぽく。

 水特化のゴブリンは、濃い緑に。

 ……水特化以外は、見た目的にもかなりマシになったと思う。

 力と体力特化のゴブリンは、もうあれだな。

 こいつらはかつらは無しだ。

 スキンヘッド、イケメン、ゴリマッチョだ。

 緑色だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る