第6話:オークは食べ物ではありません

「サトウ様! ゴブゾウチームがオークを捕まえました」


 俺の元にイケゴブナイスミドル改め、ジソチがやってきた。

 一応個体名はすでに把握済みだが、こいつら顔が似たりよったりだから特徴のあるやつだけ名前を付けた。

 だいたいゴブリンの分際で、エドガーとかクリスティアーノとかエメルディアとかふざけた名前のやつばっかだったからな。


 ちなみにイケゴブがなぜジソチという名前になったかというと、次期村長候補だから。

 世襲制かどうかはしらないけど、表立って俺に付き従ってるということはそういうことだろう。

 実績を積むことと、俺の信用を得ることで周囲を抑えにかかっているというわけだ。

 父親のゲソチ(現村長)の入れ知恵か。

 ふふ……出会った当初はゲヒゲヒ言って、知性の欠片もなかったこいつらが知恵を使うようになるなんて。

 立派になったなぁ……

 

 ゴブゾウは……適当だな。

 他の個体より一回り大きく育ったから、とりあえず名前を付けて狩猟チームのリーダーに任命しておいた。

 こいつも、なぜか妙に頭いいし。

 頼りがいもありそうで、何より男らしくてかっこよく見えたりもする。

 不思議なことにここ数日で一気に成長して、みんなだいぶ見られるようになったし。

 会話もスムーズになって、良い事づくめだ。


「佐藤さんが、自分のために見た目と知能に重点的にステータスを振ったからでしょう。彼らも期待に沿えるように必死で努力してましたからね……それこそ、死に物狂いで」

「どわっ!」


 そんなことを考えていたら、いつのまにかジャッキーさんが目の前に居た。

 何事?


「差し入れですよ。それと、頼まれていたものを持ってきました」


 そうだった。

 前回の臨時ボーナスを使って、調味料と食材を用意してもらってたんだった。

 それと暇つぶしに本を数冊。


「ちょうどよかったですね。調味料が手に入って。大きい豚を捕まえたみたいですし」

「えっ? いや、食べないよ」

「ええ? オークですよ? 定番食品じゃないですか?」

「定番? オークがですか? いや、どこの野蛮人」

「豚みたいなもんじゃないですか……」

「豚じゃないですよね? 二足歩行ですよね? 知性もあるんじゃないですか?」

「それが?」

「えっ?」

「えっ?」


 まあ、ジャッキーさんは狼だからね。

 そりゃ、なんでも食うか。

 人でも食いそうだし。


「失礼な。基本的に、お店で売ってあるような普通の物や、外食で食べられるようなものしか食べませんよ」

「えっ?」

「えっ?」


 ジャッキーさんって、地球人枠だよね?

 狼が普通に買い物してたり、レストランにいたらびっくりするんだけど。

 てか、ニュースになるよね?


「地球神枠です。お間違えのないように」

「だから、地球人枠って言ってるじゃないですか」

「もう良いですよ。とりあえずお渡ししましたからね? 急がないと」

「お忙しいんですか?」

「ええ、合コンの予定が入ってまして……いや、部下から数合わせでどうしてもって言われて」

「えっ?」

「じゃあ、そういうことで!」


 あっ、消えた……

 まあ、狼の集団お見合いパーティなんか興味はないが、こっちはこんな退屈な世界に押し込められているのに、自分だけアフターファイブをエンジョイするつもりなのは腹が立つ。

 まあ、ひがんでも仕方ないか。


「帰られましたか?」


 ジャッキーさんが帰ったのを見計らって、家の外で待機していたジソチが入ってくる。

 あたかも邪魔しないようにって雰囲気出してたけど、お前普通にビビって逃げただけだろ?

 なんでもない風に、入ってくるな。


「痛い! ありがとうございます」


 ちょっとイラっとしたから、頭をはたいてしまった。

 ジャッキーさんにイラっとさせられてからの、このすっとぼけた態度だったから……半分は八つ当たりだな。

 なぜかこいつら叩くと、お礼を言ってくる。

 それは流石に違うと思うが、はたいた俺が言うのもおかしな話なので黙っておく。


「で、オークを捕まえたって?」

「はい!」


 Oh……生け捕り。


「これから、捌くところです! 新鮮な方が美味しいですしね」


 両足を縛られて、高い木の枝につるされた豚が何やら喚いている。


「やめて! やめてください!」


 ブヒブヒ言ってるんだけど、俺には無敵の全言語理解が。

 しかもこいつメスかよ。

 女性の声でそんな風に言われたら、殺し辛いというか。

 殺されるところを目の前で見るのが、つらい。

 殺されるのは豚なんだけどね。

 

 うん、素っ裸にされて足から吊るされてたら、ほぼほぼ豚だな。

 牙が生えてるから猪に近いけど、毛が一部にしか生えてないからな。

 豚と猪の中間くらいか。

 そんなことを考えていたら、首に石で作ったナイフがあてがわれていた。


「ひい、いや! いや、やめて! なんでもします! 許してください!」


 ……

 無理だ……

 せっかく捕まえてきたのに申し訳ない。

 声を聞いてしまったら、見過ごせなくなってしまった。

 どうせなら、殺してから持ってきてくれたらよかったのに。

 マグロの解体ショー的な感じだったのかな?


 そして、俺は気付いた。

 気付いてしまった。

 全言語理解の罠に。

 これ……鳥や、普通の豚とか牛でも俺には最後の言葉が、人の言葉のように理解できる状況で聞かせられることになるのかな?

 オークだから、仕方なし助けるかと思ったが。

 目の前で生き物が捌かれる系は、全部だめじゃん。

 マグロの解体ショーもむ……あれは、すでに殺して冷凍されてるから大丈夫か。

 安心。

 活け作りとかが、アウトだ。

 まあ、いいや。

 ここじゃ、楽しめないだろうし。


「とりあえず、離してやれ」

「ロード?」

「嫌がってるじゃないか」

「でも、こいつらだって私たちを殺して、食べたりしますよ?」


 うわぁ……そういうこともあるのね。

 でも、だったら余計になおさら……

 俺は無理だな。

 人を食った動物を食えるかって言われたら、ほとんどの人がノーと言うだろう。

 こいつらには、そういう感覚は無いのかもしれないが。


「お前、自分の仲間を食ったやつを食べるってことは、間接的にお前も仲間を食ってるってことになるんだぞ?」

「素晴らしいことです! こんな豚の生きる糧になるくらいなら、友のために役立ちたいと思うはずです」


 そっか……そういう考えもあるな。

 いやいや、俺が流されてどうする。


「まだ若いみたいだし」

「だから、美味しいんですよ? ぜひ、ロードに食していただきたく用意させていただきました」

「俺、オーク食わないから」

「えっ?」

「俺、オーク食わないから」


 俺の言葉に、ゴブリン達が絶望した表情を浮かべているけど。

 というか、お前らが獲ってきたものを一度も食べたことないだろう。

 そろそろ学習しろ。


「今度こそ召し上がっていただけると思ったのに」

 

 全員がガッカリしていたが、森に返してあげた。

 何度も振り返って、首を傾げていたけど。

 いいから、さっさと行け。

 他にも狩猟チームいるんだからな?


***

「うちの娘をよくも殺したな!」


 集落の外に、ごついオークを筆頭にオークの集団が。


「おーい、オク美さーん! 家族の方が迎えに来たみたいだよ」


 この間捕まえた雌オークに声を掛ける。

 結局森に逃がしたのはいいけど、他のチームに捕まえられてた。

 こいつらも、俺の目の前で解体ショーをしようとしたから、なんとか生きた状態で戻ってこられたけど。

 それから他のゴブリンにも通達して、森に送り出した。

 すぐに戻ってきた。

 帰り道が分からないのと、一人だと他の魔物に殺されかねないと。

 だから結局保護することに。

 そして数日後に、オークの集団が来たわけだ。


「お父さん!」

「ユリアン!」


 ……ユリアン?

 誰が?

 この豚が?


「お前ら、うちの娘に酷いことを「なんもしてないぞー! お前らが来るまで何もせずに、飯だけ食ってたぞー! 流石に迷惑だからとっとと連れて帰ってくれ」」


 こっちが捕まえたわけだから、酷い言いざまだとは思うが。

 正直、いろいろあってうんざりしてた。

 

「なぜ、オークの言葉が分かる!」

「いいから、その子連れて帰ってねー」

「ふんっ、丁度いいから手土産にお前らを皆殺しに「うっせぇ、とっとと帰れや!」」

「ブヒッ!」

「おとうさーん!」


 なんか物騒なことを言い始めたので、集落の外に出ておっさん口調の豚を思いっきり殴り飛ばす。

 すごい勢いで吹っ飛んで行って、木にぶつかってた。

 悲鳴がブヒッていうのが、微妙にツボった。

 笑える。


「族長!」

「覚えてやがれー!」


 族長だったのかそれ……

 てか、覚えてやがれときたか。

 おっさんオークを抱えて、集団が逃げ出そうとしたので先回り。


「弱いやつが食われるのがこの森のルールみたいだから、うちのもんがそこまで悪い事したとは思わないけどさ。一応は助けたわけさ」

「ひっ……」

「で、面倒も見てたんだからさ……それで掛けた迷惑をトントンにした方が良いんじゃないか?」


 そう言って、拾い上げた石を握って砕く。

 ちなみに土属性魔法で俺が作った見た目は固そうだけど、柔らかい石。

 俺のステータスは見た感じ、うちの成長したゴブリン共の全員が束になっても叶わないくらいの数字っぽいけど。

 もし砕けなかったら恥ずかしいし、てか魔法が使えなくても脅す方法はいくらでもあるし。


「分かった。今回のことは水に流す。族長にはお嬢の方から説明してもらう。お嬢もそれでいいですか?」

「……」

「お嬢?」

「かっこいい……」


 ……

 盛大に地雷を踏みぬいた気がした。

 

「お願い、さっさと2人とも連れて帰って」

「はいい!」


 俺が真剣にお願いしたら、おっさんオークを担いでたオークがすごい勢いで他のオークに指示してメスオークを担いで帰っていった。

 どうか、もう来ませんように。

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