第4話 好きな物に囲まれたい

 夕暮れが窓から差し込む教室。グランドからは部活動の声が聞こえ、廊下からは女子生徒の話し声。


 やっと、今日の授業がすべて終わった。凝り固まった体を伸ばしつつ、教科書を鞄に入れる。その時、微かに首と肩が痛みが……。

 最近、肩こりが酷いな。面白い小説を見つけてしまって、毎日数時間も読みふけってしまっているからかな。同じ体勢ではなく、足を組み直したり、腰を途中で伸ばしたりすれば大丈夫だろうか。


 そんなことを考えていると、後ろから大きな声で名前を呼ばれた。

 後ろからは、手をブンブンと振りながら近寄ってくる友人。


「さーくー。準備は出来たか? かえろーぜー」

「あぁ、準備は出来たよ。帰ろうか」


 友人に声を掛けられ、鞄を肩にかけ廊下に。女子生徒や部活動を行っている人達の間を抜け、校門に出る。


 空はまだ明るく、青空が広がっていた。空気も澄んでいて、気持ちがいい。このまま寄り道して帰ろうかな。

 …………いや、それはダメだ。俺の事を待っている新作の本が、部屋の机の上に居るんだ。寄り道をしてしまえば、その本と戯れる時間が無くなってしまう、素直に帰ろう。


「なぁ、この後暇だったら少し寄り道しないか? 俺、暇でさぁ」


 …………まさか、俺の心中を読んだのか? なぜ、このようなタイミングでわざわざ言ってくるんだ。


 さぁて、どうやって断ろうか。直球で言ってもこいつは引かないだろうし、他に何かいい方法。


 あ、そうだ。


「確かに、今日は寄り道には持ってこいな気温で、気持ちのいい青空だね」

「だよなだよな!! なら、この後どこか行こうぜ!!」

「別に構わないが、君は大丈夫なのかい?」

「え、何がだ?」

「確か、明日の数学、小テストがあると。今日先生が口を滑らせていなかったかい?」

「え」

「ん?」

「…………俺は、その小テストは捨てた」

「捨てるのは勝手だけれど、巻き込まれる俺の身にもなってほしいものだね。なぜか、君が赤点を取ると俺も怒られるんだよ。勉強を教えてあげなかったのかと、何故か怒られるんだよ。何故かね、なんでだろうね。ねぇ?? それでも、明日の小テストは、捨てるのかい?」

「スイマセンデシタ」

「今日は、帰って勉強するかい?」

「ハイ」


 やれやれ、これで一安心だ。


 この話は、脅しのために俺が今作った訳では無い。本当の話だ、ありえないだろう。

 俺が赤点を取っていなくても、友人が赤点を取ると「なぜ教えてあげないんだ。お前しか頼れる人はいないんだぞ」と怒られる。教師という立場をしっかりと頭で理解してから発言してほしいよ。

 こいつの頭が破壊的に悪いのは、俺も知っているけれども。


 あ、そうだ。次そんなことを言われたら、教師についてまとめた資料を無言で渡そうかな。五万文字以上で、教師という立場ややるべきことなどをまとめた資料。それを前もって作成しておこう。

 渡す際、何言われてもいいように録音もしておこうかな。


「にしても、なんでお前が怒られるんだ?」

「これは憶測だけど、単純に君と仲がいいからだからではないかな。おそらくだけどね」

「なるほどな、仲良くしておいてよかったわ!!」

「八倒すぞ」

「おい、怖いって。お前の低音でそんなこと言われたら、マジで怖いって」

「怒らせないようにした方がいいんじゃないかい?」

「ごめんなさい」


 まぁ、今は怒っていないけれど、牽制出来たからいいか。


 ……………………ん? あ、あれって!!


「ん? さく? 何いきなり立ち止まってんだよ。早く帰ろうぜ?」

「…………今日は俺、ここに寄らなければならなくなってしまったようだよ」

「え?」

「君はどちらでもいいよ。帰ってもいいし、俺に付き合ってくれてもいい。俺は、絶対にここに寄るけどね」

「…………ここって、和菓子屋?」


 俺の目の前に広がるのは、和風テイストの小さな和菓子屋。俺のお気に入りのお店で、小さい頃からお世話になっている。

 そんなお店の出入り口に看板が立てられており、そこには桃色で桜がちりばめられている丸い食べ物が美味しそうに描かれている。

 そう、俺の大好物である、イチゴ大福が今日、半額!!! 


 これは、俺に買えと言っている。買わなければならない。ここの大福は本当においしい、絶対に買う。


「お前、本当にイチゴ大福に目がないよな」

「イチゴ大福で365日生きていけると思うんだけど、どうかな」

「体壊すからやめろ。そこで馬鹿になるな」

「君に馬鹿と言われてしまったか。ひとまず、俺は入るよ。イチゴ大福が俺を待っている」

「あ、俺も行くって、置いて行くなよ!!」


 中に入り、カウンターへと向かう。受付に立っている女性が俺の顔を見て、店員スマイルを向けてくれた。いつも思うけれど、素敵な笑顔だよなぁ。


 こんな素敵な笑顔に勝てはしないけど、俺も出来る限りの笑みを浮かべて頭を下げる。すると、隣に立っている友人が苦い顔浮かべ、俺を見てきた。何、その顔。


「お前、そういう所だぞ」

「何が?」

「なんでもない。はぁ、何でこうもお前はたらしなんだ。笑顔を振りまくな!!」

「いひゃいいひゃい」


 何で俺は今、友人に頬を掴まれたのかわからない。地味に痛いのだが…………。


「早く、イチゴ大福を頼んで帰るぞ」

「そうだね。イチゴ大福を買って、家にある本を読もう」

「ほーい。んじゃ、俺はイチゴ大福一つと、草餅二つお願いします」


 あ、友人に先越されてしまった。


 店員さんが少し、赤く染めている頬を抑えながらも受け答えをしていた。

 あれ、先ほどまであんなに赤かったかな、風邪ひかないように気を付けてほしいね。


 友人が頼んだイチゴ大福達を受け取り、俺の番。よし、頼むぞ。俺のイチゴ大福。


「すいません。イチゴ大福を──うーん。お店にあるすべてお願いします」

「おい!? だから毎度言っているだろ!! 頼む時は最高十個までにしろぉぉお!!!!」


 友人に怒られたので、俺は渋々十個にとどめました。頭に出来たたんこぶが痛い、悲しい。


 家に帰って、俺を待っている本に囲まれながらこの哀しい気持ちを洗い流そう。



 ………………………………次は、友人がいない時に来ようかな。

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