第4話 回想



「ジャミル…貴様! 何故ついてくる!」


「…」


「おい!」


「今の君には僕が必要な筈だ…それに…」


「それになんだ!」


「君はまだ事情を知らないだろう…」


「話したいなら勝手に話せ…」


ジャミルはポツリポツリと話し始めた。


聞きたくも無い話を...


◆◆回想◆◆


「リリナ…今帰ったよ、ほらお土産のクッキーだよ」


可笑しいな…なんで部屋の電気がついてないんだ?


「リリナぁ~隠れているのかな?」


こんな夜に何処かに出掛けるなんて考えられない。


可笑しいな…何かあったのかな?


しかし、リリナがこんな夜遅くに家に居ないなんて今までなかった。


何か事件に巻き込まれて無いと良いけど…


何か事件に巻き込まれていると大変だ…僕は家を飛び出し、妹を探しに行った。


居ない…可笑しい何処にも居ない。


今日は無理だ、明日『騎士』に動いて貰うしか無いな。


リリナ、何処に行ったんだよ…


探しつかれて宿に帰ると…


『誰かが居る』


「早い帰りで…」


美味く擬態をしているが、俺の目は誤魔化せない。


此奴は魔族…敵だ。


「お前は魔族だな…死ね」


僕は杖を構えると…何故だ、何故此奴は『笑っている』


「殺したければ殺すが良い…だが俺を殺せばもう、お前は妹に会えない」


まさか…


「まさか…妹を攫ったのか?」


「まぁな、俺が戻らなければ、拷問の上に殺す事になっている」


「お前…何が目的だ!」


「俺達にとって目障りな『3つの希望』そのうち誰か一人で良い…戦えない様にして差し出せ…妹と交換だ」


この時の僕は妹リリナで頭が一杯で何も考える事が出来なかったんだ….


どちらか1人…リヒトは恐らく無理だ。


つけ入る隙があるとすればミルカだ。


彼奴ならどうにか…


◆◆◆


すーはーすーはー


「ミルカ、悪いがすぐに来てくれるか?」


「何があったのよ! もし大規模な討伐ならリヒトにも連絡しないと…」


普通はそうなるな…だが


「すぐ近くの村なんだが、討伐相手は残り僅かなんだ…だが怪我人が多く出ていて一刻を争う状態の怪我人が多数いる…悪いがそんな暇はない」


これで良い…これで大丈夫な筈だ。


「そう、それじゃ直ぐに行くしか無いわね…そこの子供冒険者、悪いけど手紙をお願いして良い」


「毎度」


ミルカは手紙を書いて子供冒険者に渡していた。


くそ…だがこれはどうしようもないな…


「それじゃミルカ…これをやるから飲んでくれ」


「これはなに?」


「魔力回復と疲れを回復する薬だ…休むことが出来ないから飲んでくれ」


「解ったわ」


ミルカはぐぃっと回復薬を飲んだ。


「それじゃ行くよ」


俺はミルカの前を走った。


後からミルカがついてくる…これで良い。


さっき渡したのは回復薬じゃない…遅効性の睡眠薬だ。



しかもオークすら眠らせる強力な奴だ…


「あれ…ジャミル、ごめん…少しだけ…」


効いたようだ、すぐ後ろでミルカは片言で話すと、気を失うように倒れた。


『ごめんよミルカ…妹にはかえられない』


無力化…


俺はこれで人類を裏切る事になる。


「ううっごめんよ…」


俺はウインドカッターの呪文を唱えミルカの右手を切断した。


しっかり握られていた杖も手と一緒に茂みに放り投げた。


この眠り薬は強力だ…此処迄しても起きない。


「どうせ居るんだろう?」


「良く解るな…」


「ほら、約束の3つの希望のうちのミルカだ、手を切断し杖も無いから無効化も終わっている…さぁ約束だ、妹を返せ…」


「此処に連れてくるわけないだろう? 妹を渡した途端に殺されるのが解っているのに…」


「それじゃミルカは渡せない」


「ああっ、だが困るのはアンタじゃねーか? 手の無い此奴を連れ帰って大丈夫なのか?」


クソ…もう僕は後戻り出来ない。


「解った…連れて行けよ…妹は必ず返せよ…」


「2~3日中には必ず返す…」


だが…魔族は僕との約束を守ることは無かった。


「妹を返して欲しくば英雄リヒトも連れて来い」


「約束通り俺は聖女ミルカを引き渡した、そちらも約束を守れ」


「お前の妹は俺達が握っている事を忘れるな」


それだけ言うと、言い争う気は無いとばかりに魔族の男は去っていった。



◆◆◆


「う~ん…此処は何処?」


「ようこそ、3つの希望のミルカ…いや元と言った方が良いかな」


此処は何処?


体が重くて右手が痛い…周りは暗いわね。


嘘…あそこに転がっているのは少女の死体。


「お前は魔族…人を殺すなんて…殺…」


私の右手…右手が無い…


「あはははっ手が無いお前に何が出来る! 馬鹿な奴だ」


右手が無い、杖も無い…それになんで私は吊るされているの?


「何故、私がこんな事に…ぐふぁぁぁ」


嘘でしょう、いきなりナイフで刺すなんて…


「楽に殺して貰えると思うなよ…この小さいナイフを使って腹を裂くとな…痛いけどすぐには死ねねーんだよ」


「ぐふっ…何故私がこんな事に…」


「馬鹿な女だ…ジャミルに裏切られたんだよ」


「嘘つくなー-っぐふっああっ痛い! ジャミルは仲間をぐはっ裏切らないわ」


「それが裏切るんだな…そこに転がっている死体があるだろう? そいつは彼奴の妹だ…返して欲しければ3つの希望のうちの誰かを差し出せ…そう言ったら、簡単だったぜ…ご丁寧に右手迄切断してな」


そうか…ジャミルは妹を盾にされたのね…馬鹿ね…魔族が約束を守る訳ないわ…その証拠に妹…死んで居るわよ。


「そう..ぐはぁゴホッゴホッ仕方ないわゴホッ…人はそういう…生き物だから…魔族はゴミ、ゴホゴホッ…恨んでやるー―――っ死ね、魔族は全部地獄…」


「恨まれても怖くねーな」


「…」


もう声も出ない…


ジャミル…あんたは馬鹿だわ…魔族が約束なんて守るわけが無い。


リヒト…逢いたかったな。


最後に一度だけでも…逢いたかった…ごめんねリヒト…


そしてさようなら…


私はもう終わり…


「ようやく、くたばったか…」


魔族のあざ笑う声が聞こえてきた。





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