第3話 もう一つの死体
ミルカ…
何でだよ…
俺はこれからどうすれば良いんだ…
何時か…一緒に…それが俺の夢だった…
ミルカ…お前が居ないなら…俺はなんの為に剣を振るえば良い…
人々を救う?
魔王を倒し世界を平和にする?
それに何の意味があるんだ…
ミルカが居ない未来の為に俺は剣なんて振れない…
ミルカ…
俺が英雄で無かったら、お前が最強のヒーラーで無かったら…多分とっくに結婚していたよな…
畑を耕すのも良い。
冒険者になって一緒に狩をするんのも良い…
柄にもないがお店で何か売る生活でも良い…
どんな生活でも『ミルカが居る』その生活の方が遥かに良い。
それが何でだよ…
「ミルカー――っ、なんで、なんで死んでしまったんだよ…愛していたんだ、本当に…なぁ、なんで俺に声を掛けてくれなかったううっ…」
服が汚れるのも構わず俺はミルカを抱きしめた。
涙はどんどん溢れてきて止まらない。
泣いても泣いても涙は止まらない。
「ひぐっ…なぁ頼むよ…傍に居てくれよ…1人にしないでくれ…ミルカ…ひぐっ」
どの位泣いていたのか解らない。
自分の中では…泣き尽くした…そう思える位の時間はたっている筈だ。
俺が合った時にミルカは笑っていた。
それなのに今は何も言わない。
そうだ、手…ミルカの右手を探さなくちゃ…
無い、無い、無い、無い…ミルカの手が何処にもない…
ミルカごめん…手が見つからない…
右手は探してみたが何処にも無かった。
武器である杖も何処にも無い…
誰がミルカの右手を斬り落とした…
ミルカは杖を持っていた筈だ。
街中ならいざ知らず、こんな場所で杖を手放すわけが無い。
ミルカはそんな油断をするわけが無い。
杖を持ったミルカに勝てる存在など、そうは居ない。
もしミルカから杖を取り上げ、右手を切断するような事が出来る人物が居るとすれば…ただ1人…油断させることが出来…同じ位の実力者…ジャミルだけだ。
そう考えれば辻褄があう。
ミルカの手の切断面は風魔法…ウインドカッターで斬られたように見える。
ジャミルの得意な魔法は風…
ジャミル…理由は解らない…だがミルカの右手を斬り落としたのはジャミルだ。
『3つの希望』のうちの1人ミルカは死んだ…
もし、ミルカを殺した事にジャミルが関わっていても…恐らく罰せられない…
これ以上『希望』を世界は失いたくないからな…
だが…俺は知らない…こんな世界。
ミルカが居ない世界なんて俺はいらない…だから俺はジャミル貴様を殺す!
俺はミルカの死体を収納袋に大切に入れた…気がつかなかったがミルカの近くにも死体があった…此処に置いて置くのは可哀そうだ連れて行ってやるか…
俺は街の近くの花が沢山ある丘にミルカを埋めた。
その横に見知らぬ死体も埋めた…
ここなら街が見えるから寂しくないよな…
『またくるよ』
そう伝えて俺はその場を立ち去った。
◆◆◆
ジャミルを殺す…流石に街中じゃ不味い…
街から出る瞬間を狙わなくては…
だが、案ずることは無かった。
ジャミルは夕方になると、あの時と同じように門から出て行き、森の手前で立ち止まった。
「ジャミル…魔族の男なら来ないぜ」
「リヒト、何を言っているんだ…僕は…」
しらじらしい…
「証拠はある…弁解は聞かない…ミルカの仇だ死ね」
俺はレイブンを抜き斬りかかる、遠距離戦は相手に歩がある、接近戦でけりをつける。
「待って、待ってくれ」
流石ジャミルだ、これを躱すとは…
「ならば、奥義…」
「待ってくれ…あと少しで良い…あと少ししたら僕は殺されても良い…だから待ってくれ」
この状況で嘘を言っているとは思えない…
「話を聞こう」
「あと少し、あと少ししたら妹が帰ってくる…それを確認出来たら…この命は必要ない…それまで待ってくれ…」
「どういう事だ!」
「魔族の男と約束したんだよ…ミルカを差し出せば…妹を返してくれるって…だから僕は…最低な事をしたのは解っているよ…だけど仕方なかったんだ…妹、リリナは僕にとって命より大切な存在だったんだ…だから妹さえ帰ってきたら僕は…殺されても良い…だから少しだけ待って…」
滑稽だ。
馬鹿な奴だ…
人間は魔族との約束を守らない。
だから、魔族だって人間との約束は守らない…
『魔族は人間との約束なんて守らない』
「おい…」
「なにするんだ…」
俺はジャミルの髪を掴んだ。
「良いから来い!」
「痛いっ…離せ…僕は此処で待つんだ!」
解った…解ってしまった…
「妹に会わせてやるから来いって言っているんだー――っ」
「本当か?」
「ああっ」
賢者のジャミルが…馬鹿か此奴。
俺は髪を掴みジャミルを引きずる様に引っ張っていく…
ジャミルは最早、痛がりもしなかった。
◆◆◆
「此処は何処ですか」
「お前のせいで死んだミルカの墓だ…」
「僕のせいで…」
ドガッ 思いっきり俺はジャミルを殴りつけた。
「魔族に引き渡せば殺されるのを知ってお前は…このクズが…」
「なんとでも言え…命が欲しければ、殺してくれて構わない…だから妹に、妹に会わせて…くれ」
俺は黙ってミルカの墓の横の墓を指さした。
「えっ…この土盛りは何…」
「良いから掘って見ろよ…」
馬鹿な奴だ…魔族が約束を守るかよ…
「何を言っているんだ! リヒト!」
「良いから掘れよー――っ」
ジャミルはようやく話が解ったのか手で土を掘り始めた。
そして…その死体の服を見た瞬間…
「リリナー――っ! そんな、約束は守ったのに…それなのに…」
「賢者のジャミルともあろう者が、魔族が約束を守る訳ねーの位解らないのか? ボンクラ野郎!」
「リリナ…リリナ、リリナー-っ…ううっうううっ」
「泣いてるんじゃねーよ! 人殺し野郎がよ…馬鹿じゃねーの? 魔族に攫われた時点で殺されている事位解らねーの! 賢者の癖によーっ…何が賢者だ! お前なんか愚者で充分だ」
「リリナが死んだのなら、もう良いよ、約束だ…僕を殺すと良い」
殺してやりたい…殺してやりたいが…殺さない。
死ぬのは…俺だ。
「今のお前を殺すのは楽にするだけだ…だから殺さない…その代り、これから先…この世界はお前1人で死ぬまで守れ」
「リヒト…どういう事…」
こんな事を考えつく様な魔族は1人しか居ない。
恐らく6大公魔の一人『智逆の悪魔アドレラ』だ。
「もう『英雄リヒト』は居なくなる…これからはただの復讐者リヒトだ、お前も殺したいが、殺さない…俺は6大公魔のアドレアをこれから殺しに行く…例え相打ちでもな…ミルカの仇だ! だから、お前は3つの希望の1人を殺して、もう一人を復讐に走らせた…責任をとってお前1人で世界を守れ!」
「僕はミルカを殺して無い」
「利き腕を切断した状態で引き渡せばどうなるかも解らないのか…お前が殺したんだ…黙れクソ野郎」
俺は何か言いたげなジャミルをあとに俺はその場を立ち去った。
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