第2話 笑わないミルカ
夜遅くに目が覚めた。
冒険者ギルドに顔を出すが何も伝言は無いという。
まさか、数日掛かる仕事なのに、俺に声を掛けなかったのか。
まぁ、ジャミルは俺やミルカにとっては弟みたいな存在、浮気は気にしないし、実力的には二人居るなら魔族の幹部クラスですら歯が立たない。
何も問題は無いだろう。
ただ一つ気になるのは…ミルカから連絡が無い事だ。
『戻ってきたら詳しく聞けば良い』
そう思い、俺は宿に戻り再び眠りについた。
◆◆◆
幾らなんでも可笑しすぎる。
あれから1週間がたった。
俺の知らない所でなにかが起きている。
俺は仕方なく、近隣に現れたオーガの討伐をしているが、心配で仕方が無い。
自分の身分が恨めしい。
俺が英雄でなければ、すぐにでもミルカの消息を探せるのに…俺には出来ない。
討伐を終えて街に帰ると…ジャミルが居た。
ジャミルが居るという事はミルカも帰ってきているという事だ。
「おい、ジャミル…」
「…」
ジャミルは急に逃げるように走り出した。
可笑しな奴だ…まぁ良い。
今はこの街を拠点にして活動しているんだ、会いたければ何時でも会える。
それよりミルカだ。
俺は、冒険者ギルドに顔を出した。
「これは英雄リヒト様でないですか? 今日はどういったご用件でしょうか?」
「聖女ミルカに手紙を頼む」
「畏まりました」
◆◆◆
可笑しい…あれから2日間がたった。
この状況で連絡が来ないのは可笑しすぎる。
これはジャミルに聞いて見るしか無いな。
俺はジャミルを探し続けて6時間、既に夕方になっていた。
『居た』
だが、ジャミルは門から外に出て行く途中だった。
『こんな時間に何処に行くと言うんだ』
普通は夕方から外に出るなどしない…魔物が出るからな…まぁジャミル程の腕があれば問題は無いが…
余程の事じゃ無ければこんな事はしない。
様子が可笑しいから後をつけていく事にした。
何が起きたのか解らない。
ジャミルが話しているのは擬態をしているが魔族だ。
英雄の俺なら解る…よく見ると影が無い。
魔族と話す必要は無い…即攻撃が俺達の信条だ。
だが、一向にジャミルは攻撃に移らない。
それ処かなにか懇願している様に見える。
探査スキルが無いのが恨めしい。
「※※返して※※※ば英雄※※※※※※来い」
駄目だ良く聞き取れない。
「約束※※※※※女ミル※※※※※※※、そちらも約束を※※」
良く聞き取れないが『聖女ミ』と聞こえた。
恐らくミルカの事だ。
今はジャミルは良い…それより魔族だ。
俺はジャミルではなくジャミルが話していた魔族の男を追いかける事にした。
◆◆◆
魔族の男に気がつかれない様に後をつけていった。
すると、森の奥へ奥へと歩いていっていた。
『この先に何があると言うんだ』
暫く進むと小さな廃れた屋敷があった。
こんな廃墟に魔族…怪しい気がする。
中からは余り大きな音は聞こえない。
それなら、魔族が居たとしても数は少ないだろう。
魔剣レイブンを抜いて廃墟のドアを開けた。
廃墟の屋敷は月明かりがさしていて充分な視界があった。
上から見て行こうと最上階の三階に昇り片っ端から部屋を見て言ったが…
『可笑しい、気配すら感じない』
そのまま2階を見て回ったが…同じく気配はない。
魔族の男は何処に消えたのか…
一階を見て回ると壁があるのに風が吹き込んでくる場所があった。
『ここに何かある』
そう思い探ると…やはりあった…地下への階段だ。
暫く進むと魔族の男がいた…目が合った。
「貴様、リヒッ」
話を聞く必要は無い…直ぐに剣で斬り捨てた。
「貴様はリヒトだな、死ね」
「死ねー―――っ」
だから二流なんだよ…声を出す位なら直ぐに斬れ。
俺は2人の魔族も斬り捨てた。
他には居ないようだ…この奥に何があるんだ…俺はゆっくり周りを警戒しながら奥に進んでいった。
牢屋が幾つもあるが人は入って居ないようだ。
拷問器具らしき物もあるから、此処は魔族が人間を拷問や尋問、処刑する為の施設に違いない。
奥に進むと…
嘘だ…嘘だ!…嘘だー―――――っ!
俺がそこで見た物は…
鎖で手を縛り、それは吊るされていた。
その胸にはナイフが刺さり…長年の恨みを晴らすかの様に右手が無くお腹を滅多刺しにされた…死体
ミルカが吊るされていた。
「ミルカ…ミルカ…ミルカー―――っ」
俺はレイブンで鎖を斬りミルカを降ろした。
「うっ…ミルカ」
ミルカは返事をしない。
「うっうつ、ミルカー――っ」
ミルカは笑ってくれない。
当たり前の事だ…何故ならミルカは死んでいるのだから…
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