EX.勇者

「それじゃあ、早速始めようか。模擬線ということは聞いてるね?」

「はい。よろしくお願いします」


武器は木剣だ。流石に真剣を使うわけにはいかないだろう。

最初はウォーミングアップのう様な感じで軽めに打ち合う。ある程度の剣筋を見るためらしい。

次にもっと早く打ち合う。大体の人はここでギブアップだったらしい。まあ、それもしょうがないと思う。

この時点で騎士団の小隊長と同じくらいなのだ。僕は職業が勇者だからいいが、普通の人には厳しいだろう。


「ふむ、勇者というだけあって強いですね」

「ありがとうございます」

「では、実戦形式でやってみましょうか」

「!はい、お願いします」


来た!これが一番やりたかったことだ。僕の実力がどの程度強者に通じるのか。

ドルドを相手にした時は、不意打ちだったとはいえ戦いにならなかった。でも、今回は備えが十分な状態で臨める。自分の力を確かめるいい機会だ。

審判は騎士の1人が務めてくれるらしい。


「では……始め!」


合図と同時に突っ込む。僕の基本的な戦術はスピード中心のものだ。突っ込んでその勢いと体重をかけて威力を出す。しかし…簡単に剣先で流されてしまった。今までの騎士と技術力が全く違う。騎士にも同じようなことをできる人はいるが、ここまで完璧にはできない。普通はある程度の衝撃を受けて怯むのだが、剣聖はそれを完璧に流していた。

同じように突っ込んでも流されるだけ。それを考えて、色々と違う方法で攻める。

だが…


「まともに当たらない…」

「スピードはいいと思う。ついて行ける者はほとんどいないだろうね」


褒められたのは嬉しい。

だが、ほとんど。そうほとんどなのだ。これではあのドルドという奴には勝てない。


「少し思ったんだが、もう少し頭を空っぽにしたほうがいい」

「え?」

「別に魔物のように戦えっていうわけじゃない。ただ、本能的な物に少しは従ったほうがいい。君の、戦闘中に次の手を考えるというのは間違いなく強みだ。だけど、それは一定以上の技術を修めた者がやることで一番効果が出る。君がやっているのは攻め方、剣の型、相手の反撃への対応。これを全て考えるということだ。この内の1つ。例えば相手の反撃への対応を本能的な部分に任せてしまえば、考えることが減ってある程度は余裕が出ると思う」


言われて、確かにと納得する。

いくら自分の体とはいえ、3種類を織り込んだシミレーションをするのは骨が折れる。それを1種類減らすけで一体何パターン考えなくて済むのか。


「なんとなく理解しました。できるかはわかりませんがやってみます」

「そうか。それなら僕もも少し力を出そうか」


そう言って構える。

先ずは攻め方正面フェイントの右側。剣の型。横振り。これだけ決めて、あとは突っ込む!


「っ!その速さで虚構か!」


虚構というのは前の世界でいうフェイントだ。英語が存在しないからそうなってしまうのは仕方ないだろう。

フェイントをかけた後、事前に決めた通りに右側に回り込み横に振る…直前。突然剣聖の剣が向きを変えて、こっちに振ってきた。

まずい。そう思ったら勝手に体が動いた。剣を避けるために転がり、その勢いのまま後ろに回りこんだ。

そして、そのまま叩き込む…いや、もう一度フェイントか?

そう瞬間。

カツン。


「イテッ」

「最後に無駄なことを考えたね」


やってしまった。

でも、意識した状態でミスしたことで今まで大分無駄なことをしていたと実感できた


「最後はともかく途中まではよかった。さて、ずっと君1人相手にしているわけにはいかない。最後にもう一度模擬線をやろう。僕は少し本気でやろう」

「わかりました!」


少しとはいえ、剣聖の本気。吸収できるものは全てしていこう!


「審判、始めてくれ」

「はい。それでは、始め!」

「速っ!」


開始と同時にすさまじい速度で突っ込んできた。普通は反応もできないだろう。

だけど…モルテリア共和国の路地裏で大人数で囲い、それなのに僕と鴉の人達がなにもできなかったのほうがもっと速かった。

だから…反応できる!!

カァァン。


「…驚いた。まさか反応するとは」

「受けれなかったんですけどね…」


反応はできた。できたけどそれだけだ。


「卑下することはない。騎士団長でも反応できるかできないかの速さだ。今後鍛えていけばこれくらい受けきれるようになるさ」

「はい!ありがとうございます」


その後は全員で素振りなどをして型の癖などを直してもらった。

強くなるための目処はたった。鍛錬を頑張ろう!


ヴェルト・ヘスティア視点

訓練の後。


「勇者はどうでしたか?」

「あれは凄いね。化け物みたいな才能を持ってる」


審判…副官のリードにそう返す。

実際あの勇者は化け物だった。本能と言われて最初に成功する時点で相当の才能がある。それでもできないわけではない。

だが、あのスピードに反応するのは不可能だ。

人が自分の身体能力以上の速度に反応するために必要なこと。

それはさらに高い速度を持つ相手と対峙することだ。

つまり…


「彼は僕よりも強い者と戦ったことがあるようだ」

「報告にあったドルドという悪魔族でしょうか?」

「いや、理由は言えないがそれは確実に違う」

「…では、何者なんでしょうか?」

「さあ」


違うと言える理由は大賢者様だ。この間、廊下で会った時。


「悪魔族が出たということですが、大丈夫なんでしょうか」

「今のところ問題ない。儂が知っている一番強い悪魔にもお前なら勝てる」


一番強い悪魔族。

それは勇者を襲ったという悪魔族なのだろう。勇者の仲間の話ではすくなくとも目に見える速度だったらしい。つまり僕……よりも強い奴は他にいる。

早くそいつに会ってみたいな。



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