38.報告

「あの場所は悪魔界で間違いないんだな?」

「ああ、間違いないだろうな。あの数の下級悪魔がいて悪魔界じゃないっていうのは、そのほうがおかしい」

「はあ、そうか。報告がめんどくさいな」

「そんなに書類仕事がめんどくさいのか?」


確かにシュルトは書類が似合わないが、俺が見たときは大抵書類仕事をしていたからあまりめんどくさくないんだと思っていた。


「書類仕事がめんどくさいんじゃない。いや、書類仕事も十分めんどくさいんだがそれ以上に報告した後がめんどくさい」

「後?別に公表はしないんだろ?」


悪魔界の出現を公表しないということは先に聞いていた。悪魔界に通じている迷宮は元々閉鎖していたので、ちょうどよかったらしい。それに100階層にあって、出てくるかもわからないから無駄に混乱を与える必要はないだろう。


「多分だが、上に呼び出されるだろうな」

「探索者ギルドの上ってどこなんだ?この国だけだから本部はないよな?」

「ああ。だから探索者ギルドの上はウィーン帝国ってことになるな。ついでに言うと今回は事が事だから、皇帝に呼び出されるかもしれんな」

「…俺は行かないぞ」


ただの貴族でも会うのが嫌なのに、突然皇帝なんて出て来た。

なにがなんでも会うのを回避しよう。


「だと思ったよ。来てくれたら楽なんだがな。来ない場合は調査したっていう手柄はギルドのものになるぞ」

「それはわかってる。報告の辻褄合わせに必要だろうからな。皇帝に会わないで済むなら安い物だ」

「どれだけ行きたくないんだよ。皇帝から報酬とかもらええるかもしれないんだぞ?」

「いらん」


なんかここまで食い下がってくるとなんか怪しいな。

なんかあったのか?まあ首を突っ込まないのが正解だろう。


「はあ、今色々あってピリピリしてるから来てほしかったんだがな」

「・・・」

「いや、そこは何があったか聞くところだろ!?」

「聞いたら巻き込まれそうだし。巻き込まないと約束できるなら聞くだけ聞くぞ」


知ってるだけで襲われるみたいなことがある案件だったら嫌だからな。


「…わかった。色々世話になってるし教える。巻き込まないのは約束する。」

「それなら、まあ。気になるし」

「だったら最初から聞いておけよ・・・。実は召喚された勇者様が行方不明になっているんだ」


…どこかで聞いた話だな、おい。

気のせいであってほしい。


「しかも勇者様だけがいなくなっていて、他の者は残っているから混乱を招いているんだ。加えて特別だったからな」

「特別?」

「ああ、双子の勇者様だったらしいんだ。今まで勇者様が2人召喚されたことはないから特別だ」


うん、麻紀と麻衣だな。

とりあえず2人に関して、前から気になっていたことを聞いておこう。


「一緒に召喚されたお仲間は何て言ってるんだ?」

「一度様子を見に行ったんだが、見つけられない国に相当怒ってたな。しかもその内の何人かはその勇者様に惚れてたみたいで、人一倍怒っていたな」


あの2人に?

少し考えにくいな。まあそれぞれのクラスで委員長をやってたらしいから人気があったのだろうか。


「帝国はどう対応してるんだ?」

「ここ10年は帝国が使える限りの人脈を使って探すと言っている。それ以前のことは知らん。俺がギルドマスターになる前の話だからな」

「人脈と言っても人相とかは出てるのか?それが無いと見つけようがないだろ?」

「ああ。そうなんだが、勇者様のお仲間はそのことに気づいてないみたいで帝国に任せると言っている」


気付けよとは思うが、中学生ならそんなものか?

実際俺も、50年経っていても精神年齢が変わった感じがしない。多分だが、自分の見た目も変わっていないため成長したという自覚を持てないためにそうなっているのだろう。

まあ、全く動けないようなお爺さんになるよりかはマシだろう。


「てなわけだから、色々手伝ってくれてもいいんだぞ?」

「断固拒否する」

「はあ、わかったよ。そういえばいつまでウィーン帝国にいるつもりなんだ?」

「そろそろ出るかもしれないな。まあ出るときに挨拶位は来る」

「そうか、わかった。話は終わりだ。悪いな、長々と話して」

「全くもってその通りだ」


さて、とりあえず麻紀と麻衣に伝えるか。

とは言ってもあまり目立った反応はしなさそうだな。


シュルト視点


「全くもってその通りだ」


その通りなのは認めるが、普通はそんなことはないみたいなことを言う場面ではないのだろうか。

…まあクロトがそんなことを言ったら気味が悪いか。

さて、


「アイシャ」

「はい、なんでしょうか」

「クロトとその連れに関する情報をできる限り隠蔽してくれ」

「警戒、警戒解除の次は庇護ですか?」

「まあ、庇護だがどちらかというとウィーン帝国に対する庇護だな」


恐らくだが、前にクロトが連れて来たマキとマイが勇者様なのだろう。あそこまで似ている人間を見たことが無い。

この情報がウィーン帝国に渡った場合、国は力ずくで確保しにいくだろう。1、2回は許されるかもしれない。だが、クロトが対処するほうがめんどくさいと思った時はウィーン帝国の上層部がごっそり消えるだろう。


「少し彼らに入れ込みすぎでは?彼らの力を直接、詳細に見たわけでは無いんですよね?」

「これでも、だったんだ。力量位なら見るだけである程度わかる」

「・・・そうでしたね。忘れてました」

「おい!?なんでだよ」

「日頃の行いを振り返ってください」


心当たりは仕事をさぼって外出している位だ。

…それがだめなのだろうか?

まあいいか。何はともあれしばらくは忙しくなりそうだ。

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