07.シーアの実力
火を囲む複数のゴブリン。その1匹の頭が吹き飛ぶ。ゴブリンには状況が飲み込めないまま2匹、3匹と死んでいき、最後のゴブリンも・・・。
俺とシーアは夜の東の森に来ていた。シーアの実力を確かめるためだ。
「昼もすごいと思ったが、暗い中でも全部当たるのか・・・エルフは皆こうなのか?」
「いえ、エルフの始祖の先祖返りといわれる位は実力があります。まあナイフは使えないし、精霊もついてないですけど}
エルフの始祖の事は俺も読んだことがある。弓はいつ何時でも百発百中。ナイフの扱いも一流、上位精霊もついていたそうだ。
「いや、十分だろ。始祖と同じだったら魔王討伐でもしようとしない限りはパーティーもいらないだろうし。実力は見られたから明日は西の森に行くか?」
「魔王がそれを言ってどうするんですか・・・。行きます。『暁』でも結構奥までは行けていたので問題ないはずです」
予定は決まったので。素材を納めにギルドに向かう。
・・・行きの道中では何度か冒険者に絡まれた。どうやら1人になったシーアを、俺が弱みを握って連れまわしているという噂が流れているらしい。
(まあ絡んできた奴の大半は俺に怒ったのではなく、シーアと関わりたいだけのようだが)
そして帰りの道中。
「昼間みたいに話しかけに来ませんね」
「だな。何があったのかは知らないが、ありがたい」
・・・俺ががやっているので知らないわけはないのだが、蝙蝠を使って遠距離から露払いをしているのでシーアは気付かなかったようだ。
《グリーンウォール》の応用、エルダートレント戦で習得した技。これが相当役に立つ。
空から蝙蝠で監視してこちらに敵意を持つ者を見つけたら、蝙蝠を経由して《グリーンウォール》を発動。蔦を足に絡ませてそのまま転ばせたり、人気が無いところであれば投げ飛ばす。
うん、ものすごく役に立つ。・・・絶対使い方が違うけど。
「そうだ、クロトさん。今日お酒飲みに行きませんか?」
「俺はいいが大丈夫か?酒が弱いイメージがあるぞ」
「大丈夫です『暁』でも強いほうでしたから」
ということで酒場に行くことになった。
ちなみに俺が酒を飲めるかどうかは前に試してある。種族のせいか元からかはわからないが、ほとんど酔わなかった。
「ここが俺の行きつけの店だ」
「・・・ここってお酒が強いことで有名な店ですよ?」
「空いてたから入ったんだが・・・知らなかった」
行きつけといっているが来たのはこれが2回目だ。
飲み始めて1時間。シーアは酔いつぶれていた。酒が強いのに1時間もったということは強いのかな?シーアは酔いつぶれるまで『暁』のことを嬉々として話していた。
こっちの価値観はわからないけど、生死の駆け引きは日常茶飯事だからメンバーの死も気にならないのかな?
まあ気にしてたら少し気を使ったほうがいいだろう。無理やり一緒に行動させられるようになったとはいえだ。
・・・あれ?感情薄くなっただけで全然魔王っぽく無いな、俺。
シーアと仕事を始めてから1か月。仕事は順調だった。俺たちの管轄の西の森では冒険者の死亡が無くなった。他の場所では死者がたまに出るそうだが流石にそこまでは見きれない。まあ俺たちの仕事は順調だった。
・・・しかし俺たちは今、至極面倒くさそうな話を聞かされようとしていた。
「なあクロト。遠征行かないか?」
「行かない」
すぐに切り捨てる。当然だ。この雰囲気の時のレーガンが持ってくる話は大抵面倒くさいのだ。
奥地でしかも群生地の存在しない薬草を10本とってこいだの、大空をハイスピードで飛んでいる魔物の素材をとってこいとか言ってくるのだ。
「いや、話だけでも聞いたらどうですか?クロトさん」
「・・・話だけな」
・・・
なにをやっているんだ俺は。
話を聞いてなんか断りずらくなった。
行先はモルテリア共和国。モルテリアでは今、魔物が急増しており小さな町や村が大きな被害に遭っている。モルテリアのギルドは討伐依頼を増やしたが、魔物は全く減らなかった。そこでギルドが被害の少ない他のギルドから助っ人を募ったついうことらしい。
「話がここまでだったら行ってもよかったんだが、勇者がいるとなると・・・」
そう、勇者が来るのだ。目をつけられて目立ちたくないし、何より元クラスメイトだ。しかし、レーガンは・・・
「そういうと思ってな。《認識阻害》のマジックアイテムを用意した」
「マジックアイテムなのはいいとして・・・なんで仮面の形状が髑髏なんだ?」
「それは製作者に聞いてくれ。まあつけてるやつは結構多いから目立たないと思うぞ」
「はあ、わかった。行くよ」
まあ目立たないのならいいだろう。
帰り道・・・
「そうだ。髪切ってあげます」
「・・・どうしてそうなった?」
シーアが俺の髪を切るという話を出してきた。どうも
「遠征に行くのなら印象を良くしたほうがいいはずです」
ということらしい。そういうことなら切ってもらってもいいのだが、できるのだろうか。
「この髪は自分で切ってるんですよ?」
表情で察したのか、そう言ってきた。
それにしても前からシーアの髪は切り方がうまいから、誰にやってもらっているのかと思っていたが自分だったのか。
「それはすごいな・・・。じゃあ頼むよ」
「はいっ!」
満面の笑みで返事をされた。そんなに喜ぶほど俺の髪が気になったのだろうか?
商会で散髪室を(あるとは思わなかった)借りた。
「じゃあ始めますね」
10分後・・・
「へえ、こんなに変わるもんなんだな・・・ん?どうした」
「・・・失敗しました」
「え?十分すごいと思うけど」
「いえ、顔を直視できなくなりました。でも明日には慣れると思うので大丈夫です。」
そんなに酷いだろうか?まあ俺は満足だからいいか。
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