第7話 孤独
——最初からあまり乗り気ではなかったのです。私のほんの些細な希望さえも失ってしまいそうで……。まだ、なおあなたが戻ってくるとしたらここしかないと潜在意識が囁くのです……。
もう古びてしまった養家の医院の佇まいには、常に人が出入りしていた頃の面影はなく、薔薇がからまった門のアーチも手入れされないままに、かすかに玄関に色を添えているだけだけれど。それでもあなたと私が出会い、約束を誓い合った場所には変わりなかったから。ずっと守っていたかったのです。
そんな私の老後を生きていくためのせめてもの心の支えを千代は理解してくれない。現実を見なさいと私を責めるのです。私は現実で生きている。この世の地獄のような戦争があなたと私を引き裂いても千代を生み育ててきたのも私なのに。あなたへの思いが生きていく支えだったことをちっとも理解してくれない。あなたによく似た澄んだ瞳で私のことを責めるのです。
だから千代の家でいたたまれなかった。千代の家族に囲まれながら、たったひとりぼっちでとり残されている気分だったの。孫達も千代の旦那も優しく接してくれていたのは感じたけれど、肝心の千代が心を閉ざしているようで……。千代に優しく接してもらいたかっただけなのに……。
私は日に日に迫り来る孤独感に耐えきれなくて……そしてまたここへ戻ってきました。たとえひとりきりでも、もう、人には頼るまいと……。私の心の中に住んでいるあなたとの日々をこれからも営んでいこうと……。
でも、病はそれを許してくれなかった。ひとりきりで頑張るには私の病はどんどん酷くなるばかりで……そして……私は歩くこともできなくなってしまった。その間に八重の家や深雪の家でも過してみたけれど……どこに行っても同じだった。別の家族の臭いが私を孤独感に陥れるだけだった。でも、動かなくなった身体をどうすることもできなくて……私は人生を諦めた気分で千代の家族たちと暮らすことにした。千代の娘である孫達が目を輝かせて私の話しをときどき聞いてくれたから……。そして千代の瞳にかすかにあなたを感じることができたから……。
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