第4話 再婚

 養父母から再婚話があったのはそれから二年ぐらい経ってからでした。医者の後継ぎが欲しいとのことでとても真面目で良い方だからと勧められました。断わりたい理由を伝える術もなく、私は再婚することにしました。


 優しく温厚な主人でした。私は主人といるとあなたへの熱い情熱とは違ったほんのりとした安らぎを感じました。医者である主人と薬剤師の私は養家の医院を盛り立てるよう協力し合う一方で温かな家庭を築きました。千代と主人もすぐに仲良くなり、楽しそうに語らう様子が嬉しくもありました。陽だまりのような温かさに包まれて、いつしかあなたへの情熱を追い求める気持ちは薄れていきました。八重やえ深雪みゆきという二人の娘も授かり、私達は穏やかな幸せに包まれていたのでした。しかし、その幸せにも少しずつ翳りが生じていきました。深雪を生んだ後の産後の肥立ちが悪く、私はリウマチに犯されはじめたのでした。


 そして、深雪が突然の高熱に襲われてたことが、哀しみの未来へと大きな拍車をかけました。日本脳炎にかかったまだ三才の深雪は、数日間熱が下がらず、主人も私もただおろおろするばかりでした。幸い熱は下がりましたが、深雪は脳性麻痺により話し方にいくらかの言語障害が生じ、後遺症が残りました。主人は私の病気も深雪の病気も医者としてどうすることもできなかった自分を責め、ときどき陰鬱な面持ちで悩んでいる様子でした。私も主人を責めるつもりはなかったのですが、心のどこかで病気のことを悔やみ続けていました。今、思えばもっと気持ちを解放してあげればよかったのかもしれませんが、私自身も病の痛みによる影響で気持ちに余裕がありませんでした。


 少しぎくしゃくした私達を取りなそうと、千代は何ごともなかったかのように明るくふるまっていました。高校生になった千代は可憐で正義感の強い娘に成長していました。妹たちの面倒もよく見てくれて、私と娘たちだけで家族旅行に出かけたときなどはとても頼もしい存在でした。


 主人は忙しさに浸り込むように仕事に没頭している様子でした。深雪は言語障害はあってもとても可愛らしい娘に育っていったのですが、それだけに主人には深雪の言語障害を悔やむ様子がありました。主人とはなんとなくぎくしゃくしたまま、娘たちの成長ぶり……特にあなたの娘、千代の未来を楽しみに私の日々は忙しく過ぎていきました。

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