第ニ話 その② 先立つ不幸をお許しください、終死。

 ……三十分後、呼び鈴がなったので足早に玄関に行き、サンダルをはいて扉を開けると、その向こう側で、はらさんが明るく手を振っていました。



「おわし〜♪」

「喜多原さ〜ん♪ 来てくれてありがとう〜♪」



 わたしも笑顔で手を振り返し、喜多原さんを中に招き入れます。



「おわし、まだ夏休みの宿題、終わってなかったんだ」

「そ~なの〜。もー、いっこも進んでなくてさ〜」

「……いつも通りだね……あら?」

「い、いらっしゃいませ……」

「きみは……弟のまこと君だね。おわしちゃんには、いつもお世話になってます」

「こ、こちらこそ……姉がいつもお世話になってます……」

「おわしは良いね、こんな出来た弟さんがいて」

「ふぇっ?! あの……その……ありがとうございますした……」

「いやー、そうでも無いのよ〜? 良くわたしに生意気な口をきくし」

「ねぇちゃん!」

「この前なんかさ〜。誠ってば、わたしにパイルドライバー食らわせたのよ〜♪ 酷くな〜い?」

「ねぇちゃん! そういうのはもういいから! 早く喜多原さんを部屋に案内しなよ! 宿題終わってないんでしょ!?」

「それにねぇ〜♪ 今日、喜多原を呼ぶって言ったら誠ってばすごい緊張しちゃって……ぷふー♪」

「せぇのぉ……」

「誠君、STOP! ストーーップ!! おわしを床に落としちゃ駄目ーーっっ!!」



 もう少しで、リビングのオブジェと化すところだったわたしは、止めに入ってくれた喜多原さんにお礼を言いながら部屋に移動すると、いやいや夏休みの宿題を始めるのでありました。



「……あ、あの、麦茶どうぞ……」

「ありがとう、誠君。……じゃあ、おわし。どれから始める?」

「じゃあ、わたしが『算数』でー、喜多原さんが『英語』。んで、誠が『自由研究』ということで」

「なんで分担制になってんのさ! それに、いつの間にぼくも数に入ってるの!? あと、中学は『算数』じゃなくて『数学』でしょ!?」

「誠君の言うとおりよ、おわし。自分の宿題は自分でやらなきゃ。解らないところはちゃんと教えるから。ね?」

「ぜーんぶ解りません」

「真面目にやりなよ、ねぇちゃん!! 喜多原さん困ってるじゃん!!」

「はいはい、分かりましたよ。じゃあ『数学』から」




 こうして、わたしは喜多原さんと弟の手を借りて、数学の宿題に手をつけはじめました。

 ……そして。



「飽きたわー」

「ねぇちゃん! 寝っ転がらないでよ!! 始まってまだ三十分も経ってないじゃん!! ……ごめんなさい、喜多原さん。せっかく来て頂いてるのに」

「ううん、気にしないで。おわしの飽き性は、今に始まったことじゃないから。興味を持ったことは、とことん楽しむんだけどね」

「……確かに、そういうところはあるかも……」

「ほら、おわし起きて! 早く宿題終わらせないと、二学期始まっちゃうわよ!?」

「そんなこと言われてもやる気でないのよ……。あー、なんで日本には宿題なんてあるのかしら。異世界には宿題なんてないのにー」

「い、いきなり異世界……」

「ごめんなさい、喜多原さん。突拍子もないこと言って……」

「う……ううん……大丈夫……大丈夫……」

「とーいうわけでー、わたしはー今からー異世界に旅立ちまーす。お父さーん、お母さーん、先立つ不幸をお許しくださーい。終死」

「ね……寝ちゃった……」

「ね……寝ちゃった……」































 ……終死……終死……聞こえますか……



「え……? なに? この声……」



 ……聞こえますか……? ……終死……



「はっ!? ここはどこ!? 一面真っ暗闇!!」



 ようやく目覚めましたね……終死……



「え!? え!? あなた誰!?」



 ……私は神です……残念ながらあなたは死



「神様!? どうりで背中から羽が生えてると思った!!」



 ……私の話しを聞きなさい……終死……残念ながら、あなたは、さきほ



「握手してもらっていいですか!? あと、サインも!!」



 ……いや、だから



「あ、動画撮っても大丈夫ですか??」



 とあー



「終死!!」



 話し聞けって言ってんだろ、この闇属性の厨二病が。



「……すみませぃん……」



 いいですか? あなたは、不幸なことに亡くなったのです。先ほど。寝ている時に。



「……まじっすか?」



 まじです。



「え? な、なんでなんでなんで?! 死因はなんですか!?」



 死因は……こちらの手違いです。



「は?」



 つまりですね、本来亡くなる予定でないあなたを、心臓麻痺で殺……死なせてしまったんですね。



「それって、殺人じゃないですかぁ!?」



 そうとも言いますね。



「そうとも言いますね、じゃあないですよぉー!!」



 と、いうわけですね、私たちも責任を取って、異世界に転生させてあげようと思います。ああ、もちろん、ひとつだけチート能力を授けて。



「え……? それって、もしかして……」



 ええ、みなさまが大好きな、あの『異世界チート転生』です。



「まじですか??」



 まじです




「……ぉぉぉおおおっっっ!! 異世界転生きたああぁぁ!!」



 では、さっそくですが、なんのチート能力が欲しいのか、決めて下さい。



「じゃあですね! えーと、えーと……そうだ!! 『世界中の人たちにヨイショされる』能力でお願いします!!」



 え……? そんなんで良いんですか……? 転生したとき、なんか哀しくなったりしませんか……??



「全然大丈夫です!!」



 まあ、あなたがそれでいいのなら……では、今から能力を授けますね。



「お……おぉぉ……? なんか、身体が光ってる!!」



 これで、あなたに能力が身につきました。……さあ、その門をとおりなさい。そうすれば、あなたの新たな人生が始まるでしょう。



「まじですか!?」



 まじです。



「ありがとう、神様! これで、わたしの人生はバラ色だわー!!」



 良き異世界ライフを。

































「……こうして、終死こと大和里 忍は、異世界で幸せな生活を送りましたとさ。終死」

「も……妄想オチ……」

「も……妄想オチ……」

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