第二話 その① 夏休みの宿題が終わらない!!

 

「ちょおっとだけ」

「とあー」

おわ!!」

「やめてよ、おわねぇちゃん。前回の話読んでないと伝わらない始まり方するのは」

「ふふふ……気配を消し、15歳の姉である私、『大和里おわりしのぶ』に後ろからパイルドライバーを決めるなんて……さすが私の弟……『大和里おわり まこと』!! およそ、9歳とは思えない所業だわね!!」

「ほらー、いきなり読者のみなさまをおいてけぼりにしちゃうから、そんな不自然な人物紹介することになるんだよー……というか、ぼくたち、本名あったんだね。第一話では一回も出て来なかったのに」

「そのことについて、誠。あなたに聞きたいことがあるんだけど」

「なぁに?」

「なんでお姉ちゃんのことを、あだ名の『終死』って呼ぶの? 『忍』っていうちゃんとした名前があるのに」

「わぁ~~。急に名前が出来たからって、調子乗って来たよ、この人」

「良いから、なんで」

「なんでって……近所の人たちも、母ちゃんも、ぼくの友達も、みんなねぇちゃんのこと『終死』って呼んでるじゃん。というかさ……」

「というか、なに?」

「ぼく、基本的には、ねぇちゃんのこと『ねぇちゃん』ってしか呼んでないよ」

「い、言われてみれば……」

「それにさ、『終死』ってあだ名つけたの、ねぇちゃんの友達じゃん。「『大和里』の『おわ』と、『忍』の『し』を取って『おわし』って呼ぼーっ」て。ねぇちゃんも気にいってたじゃん」

「そ、そうでした……」

「もー。こんなことで、無駄に文字数稼がせないでよ? ねぇちゃん」

「ご、ごめんなさいでした……」

「ところでさ、ねぇちゃん。さっきなにやってたの?」

「さっきって?」

「ほら、さっき、冒頭でさ、ぼくにパイルドライバーを決められてたでしょ? その時。なにやってたのかなって」

「ああ、あれね。お姉ちゃん、Vtuberの動画撮ってたの」

「え? あれ、まだやってたの?」

「うん。お姉ちゃんね、前回ではまっちゃって、今、一生懸命がんばってるとこ!!」

「どこに向かってがんばってるか分かんないけど……大丈夫なの?」

「なぁによぉ! お姉ちゃん、これでもやるときはやるのよ!!」

「いや、そうじゃなくてさ……」

「??」

「もうちょっとで、夏休み終わっちゃうよ?」

「……え?」



 驚いた私は、急いで部屋の壁にかけてあったカレンダーを確認する。


「ぐああぁぁっっ!! 夏休みがあと四日で終死おわしだわあぁっっ!! 宿題、いっこも進んでないいぃぃっっ!!」

「やっぱりね……というか、これ一人称視点だったんだね」

「メタ発言している場合じゃないわ、弟よ! ふたりでこのピンチを乗り切るのよ!!」

「お姉ちゃんの責任じゃん。それに、ぼく小学生だから、中三の問題は解らないんだけど」

「そ、そんなああぁぁっっ!!」

「(本当は解るんだけどね……)」

「……なにか言った?」

「なにも言ってない」

「……ああ、私の人生、終死だわ……お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください」

「宿題やってないだけで、そんなに思い詰めないでよ」

「じゃあ、どうすればいいの!?」

「……そうだ、こういうのはどうかな?」

「……くすん、どういうの?」

「ちょっとずるいけど、宿題の終わっているねぇちゃんの友達に電話して、勉強会を開くの」

「勉強会!? それは名案ね!! じゃあ、さっそくはらさんに電話しないと!!」

「え……あの人誘うの……?」

「しょうがないじゃない。ほかの友達は、今、おばあちゃんの家に出かけてるとかでいないんだから。……なあに、誠? もしかして……喜多原さんのこと気になっちゃう感じ?」

「そんなんじゃないけど……」

「本当のこと言いなさいよお〜。うりうり」

「ほっぺたつつかないでよ、ねぇちゃん!」

「吐け! はくんだ! 誠よ!!」

「とあー」

「終死!!」



 ……と、まあ、なんだかんだで私は、夏休みの宿題が終わるまでの間、親友の喜多原とふたりで勉強会をすることになったのです。……四日で終われば良いのですが。



「ねぇちゃんの地の文少ないなぁ」

「黙ってて!!」

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