終死ちゃん

ネオ・ブリザード

第一話 儂の名は『全身包帯之助』。10那由多とんで、5000歳だ。(大嘘)

 儂の名は『全身ぜんしん包帯ほうたいすけ』。10那由多なゆたとんで、5000歳だ。


 名前のとおり、身体中に包帯がぐるぐる巻かれている。もちろん顔にもだ。包帯が巻かれていないところといえば髪の毛くらいか。なに? なぜそんなに全身包帯だらけか、だと? それはな……儂の身体の部位、ひとつひとつに、暗黒の住人が封印されているからだ! 万が一、全ての包帯が一斉に外れようものなら、この世は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化すだろう……。



おわねーちゃーん。母ちゃんが夕ご飯だって~」



 なに? なにが封印されているか知りたいとな? ふふ、いいだろう、教えてやる。先ずはこの右眉だが、ここにはあの『暗黒龍』が封印されている。次に眉の下の……ここ! この右眼には闇をかける暗黒騎士『ぢゅラハン』! 『デュラハン』が封印されているの!! そしてこの右眼から更に下にある……この右頬にはなんと! あの上級悪魔! 『ベルゼブブ』が封印されている!! どうだ! 恐ろしかろうでしょ!!



「……ねぇちゃん、ご飯だってばぁー」



 ああァァーーっっ!! なんて事だぁーーっっ!!  『暗黒龍』と『どぅラハン』とぉ、『ベルゼブブ』を封印していた部位の包帯が、一斉に剥がれてしまったあぁっっーー!! このままでは、世界が暗黒の恐怖に落ちてしまうぅーーっっ!!



「とあー」

おわっっ」

「ねぇちゃん、ご飯だってさっきから言ってるじゃん!」

「い……ぃたた。成長したわね、弟よ。気配を消し、背後からパイルドライバーを決めるなんて……お姉ちゃん、あと3秒で部屋のオブジェと化しちゃうとこだったぞ♪」

「いつも通り、危なくないように、布団の上に落としてあげたじゃん……あと、ちゃんと返事してよ」

「それでも、危ないけどね……あ、良い子は真似しちゃだめだぞ♪ はぁと♪」

「ところで、ねぇちゃん。一体なにしてたの?」

「え? ああ、これね。今、話題のvtuberにお姉ちゃんも挑戦してたとこ」



 わたしは、小さな机の上に置いてあったパソコンを、9歳の弟に見えるよう画面を向けてあげる。(ちなみに、わたしは15歳)



「……バカじゃないの?」

「なんてこと言うの! さっきも言ったけど、vtuberは世界で大流行の!! えー……あれ! あれなのよ!! それに噂によると、これで生計を立てている人もいるとかで……」

「いや、ぼくがバカって言ったのはねぇちゃんのことなんだけど」

「……え? どういうこと??」

「だってさ、ねぇちゃん、おそらくだけど終わり方考えずにカメラ回してるでしょ」

「うぐっっ!! そ、そんなことは……」

「噛みまくりだし」

「終死っっ!!」

「地球誕生から46億年くらいしか経ってないのに、『10那由多なゆたとんで、5000歳だ。』とか言ってるし」

「おわっ終死!!」



 うう……なかなか痛いところを突っ込んで来るわね……弟よ……



「普通だよ」

「心、読んでる??」

「声に出てたよ」

「ほんと?」

「はあ……それよりもさ、その……全身の部位に封印されている闇の住人……だっけ? それも、ねぇちゃんが思いついたままに言ってるだけでしょ?」

「そ、そんなことないもん! ひとつひとつの部位に、個別の闇の住人が封印されているもん!!」

「じゃあ、聞くけどさ。その右眉にはなにが封印されているの?」

「ここ? ふふふ……よくぞ聞いてくれた! 人間よ!! ここにはな、あの暗黒龍が封印されているんだのよお!」

「中途半端にキャラ作らないでよ……。じゃあさ、その左手の甲にはなにが封印されているの?」

「え、え? いきなり左手?」

「なにか問題ある? もう設定考えてあるんでしょ?」

「考えてるわのよぉ! お姉ちゃん、ちゃんと考えてる!」

「なら、早く教えてよ」

「……ベルゼブブ」

「右頬に封印されているのと一緒じゃん!」

「いや、その、いきなり聞かれちゃったからお姉ちゃん、焦っちゃって」

「ねぇちゃん、生配信はやらない方がいいね」

「うん……お姉ちゃん気をつける……」

「ところでさ、さっきから気になってたんだけど、なんで足には包帯じゃなくてストッキング履いてるの? なんか変だよ」

「ああ、これね! うん! さすがわたしの弟!! 良いところに気づいてくれた!!」

「??」



 わたしは待ってましたとばかりに部屋のすみに向かい電気を消し、壁にあらかじめ設置しておいたピンク色の照明をつける。そして、そのピンク色の照明の下に移動すると、ストッキングを少しだけ下にずらしながら自身満々にこう言った。



「ちょおっとだけ」

「とあー」

おわっっ!!」



      ――第一話 おしまい――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る