10分前の出来事

 「あれ?」

 おかしい。カバンに入れたはずのクリアファイルがない。あれがないとまずい。明日提出のプリントが入っている。

 

 「どうしたの?里奈。」

 「ごめん。咲希、ちょっと忘れ物しちゃ ったから待っててくれる?」


 そう言って私は走り出した。後ろから「ここで待ってるね〜。」と言う咲希の声が聞こえた。




 ここは、雨坂丘あまざかおか高校だ。わたしと咲希は、この高校の一年生だ。

 そして、突然だが、咲希には好きな人がいる。サッカー部のイケメン(わたしにはよくわからないが)と呼ばれている沢崎怜だ。



  教室について忘れ物をとったまではよかった。……だが、今、その沢崎怜が、誰かに告白しているのだ。


 〜遡ること、3分前〜


 「よし。忘れ物持ったし、鍵返しに行くか。 ん?」

 

 足音が聞こえる。…誰かが走ってこっちにくる!?

 この時私は、何故だかわからないが隠れなくてはいけない。という衝動に駆られた。

 まぁ、隠れて正解だったのだが。


 そして、教室に入ってきたのが沢崎怜だったのだ。いや、厳密にいうともう一人いる。しかし、ここからだと逆光で顔が見えない。


 「好きなんだ。今の関係が壊れるのが怖い。でも、気持ちを伝えないのは後悔すると思うんだ。返事は後でもいい。考えてくれないか。」


 これ以上はさすがに聞いてはいけないと思い急いで教室を出た。私は、混乱と動揺しながら廊下を走った。


 そして、現在に至る。


  ………咲希には、言わないでおこう。

私は隣を歩く親友を見ながら心に決めた。



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