第9話 コラボパフェが食べたか!
教室に着いた俺は自分の机に鞄を降ろす。
右隣の席を見て、机に荷物が掛かっていない事を確認し、少しがっかりする。
入ってきた時に分かっていた事だが、まだ神宮寺は学校に来ていないらしい。
スマホを取り出した俺は、スクリーンショットのフォルダから、『期間限定!断罪の黒騎士コラボパフェ開催!』と書かれたメニューの写真タップする。
これはネットサーフィンをしている時に見つけたものだ。
どうやら、断罪の黒騎士とファミレスでコラボ商品を出しているらしい。
ソフトクリームにチョコで出来た大きな断罪の剣がブッ刺さったパフェはかなりインパクトがあり、神宮寺が知ったらきっと喜ぶはずだ。
今までは、朝のホームルーム開始まで突っ伏して寝るという選択肢以外が無かったのだが、最近は唯一の友達が登校して来るのをこうして楽しみにしている。
朝から他人と話すだなんて鬱陶しいだけだと思っていたが、案外これが楽しかったりするのだ。
早くコラボパフェの画像を見せたくて、そわそわしていると、お待ちかねの人物が教室に入ってきた。
その人物は俺の隣まで移動してきて、実にわざとらしく
「今日も太陽が煩わしい......。我は闇夜が恋しいぞ」
「おはよう神宮寺」
これは彼女なりの『おはよう』だ。
何度も聞いている台詞なので、さすがに慣れてきた。
太陽はカーテンで隠れているので眩しくないはずだが、それは言わないお約束らしい。
「これ知ってるか?」
俺は準備してあったスマホの画面を神宮寺に見せる。
すると彼女は食い付くようにスマホを覗き込んだ。
「断罪の黒騎士......コラボ......パフェだと!?」
「ファミレスとコラボしてるんだってよ」
俺は保存してあったもう一枚のパフェ本体の写真を見せる。
「断罪の剣が......ニブルヘイムに......刺さっているだと!?」
「結構すごいよな。期間限定なんだってさ」
神宮寺が身体を仰け反らせた体勢で固まった。
良い反応をしてくれると思っていたが、想像以上だ。
俺も初めて見た時は衝撃的だったので、その気持ちを共有出来たようで少し嬉しかった。
ゆっくりと体勢を戻した神宮寺は、キラキラと瞳を輝かせ、やや興奮気味に口を開いた。
「明人!コラボパフェを食べに行こう!」
「あぁ、勿論だ。その為にこの画像を神宮寺に見せたんだ」
すると、神宮寺は俺の腕を掴み、教室の外へと引っ張り出した。
「うむ!今すぐ行こう!」
「いやいや、まだ朝のホームルーム前だぞ?それはダメだって!」
俺は暴走気味の神宮寺を宥めて何とか自分の席に帰ってくる。
対する神宮寺は『授業は受けなきゃいけない』という気持ちと、『今すぐ行きたい』という気持ちで葛藤が生じているようだった。
「くっ......!ラグナロクを乗り越えなければ行けないと言うのか!早くしなければ、断罪の剣を奪われてしまうというのに!」
「まぁパフェは逃げないし、放課後まで我慢しようぜ」
最終的には何とか理性が働いたようで、神宮寺はしぶしぶ椅子に腰を下ろしてくれた。
そんな神宮寺を抑える側に回っていた俺だが、実はすぐにでも行ってしまいたかったりする。
何せまだ1限すら始まっていないのだ。
午後の授業まで考えると気分が沈むのは仕方のない事だろう。
そんなこんなでホームルーム開始のチャイムが鳴った。
この後、憂鬱な授業に挑むことになるのだが、休み時間の度に「明人!やっぱり今すぐ行こう!」と神宮寺に引っ張られたのは言うまでもないだろう。
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