第8話 私の盟友


 お風呂から上がり、ドライヤーを済ませた私はベットに腰掛けた。


「今日はばり楽しか時間やったな~」


 ベッドの枕元には、今日手に入れた黒ペンさんの大きなぬいぐるみがどっしりと座っている。

 

 私は黒ペンさんを膝の上に乗せてみた。


 初めてのゲームセンター、初めてやるシューティングゲーム、初めてのUFOキャッチャー。

 何もかもが私にとって初めての経験だった。

 彼と過ごした時間、そのどれもが新鮮な体験で、私をわくわくさせた。

 今日はとても満ち足りた時間だった。


 何より友達と一緒に経験出来た事が嬉しくて、放課後に1人じゃなかった事が嬉しくて、きっとこれが幸せというものなんだろう。


「黒ペンさんはあいらしかねー?」


 私は黒ペンさんに抱きついた。ふわふわとした感触とそのふてぶてしい顔が私の心を癒してくれる。

 きっとこの愛らしさは犯罪級だ。黒ペンさんは罪深いペンギンなのだろう。


 そんな事を考えながら、その大きなお腹に顔を埋めて、ふと溜め息をつく。


「......」


 葉月明人くん。高校に入って初めてのお友達だ。

 高校とは言わず、中学生の時から考えれば、数年ぶりのお友達と言えるかもしれない。

 彼は私の中二病的な言葉を理解してくれ、私の大好きなアニメにも関心がある。

 現在は隣の席で、彼と他愛もない会話をするのが学校での楽しみでもあった。

 時々ちょっとした事でからかわれるが、根は優しい男の子だと思う。


「友達かぁ」


 私は黒ペンさんを抱きかかえ、天井のライトをぼんやりと見つめていた。


 明人くんは本当に私と一緒にいて楽しいのだろうか?

 彼は言葉で「俺も楽しかった」と表現してくれたが、それは本心なのか分からない。


 もしかしたら、また──


 私は黒ペンさんを強く抱きしめる。


 彼は優しい人だ。あの時とは違う。

 そんな事分かっている。分かっているはずなのに。


 優しい彼を疑ってしまう自分に嫌気がさす。


「......明人くん......」


 こんな私を知ったら彼はどう思うのだろう。

 それでも彼は、私と友達でいてくれるのだろうか?

 考えてもどうにもならないネガティブな感情が沸き上がる。


「こげん事考えてちゃいかん......!」


 私は負の感情を振り払うように、ベッドの上に立って決めポーズを作った。


「我の名は神宮寺!黄昏トワイライトより出ル者!」


 言い慣れた台詞。私の象徴とも言える口調。

 この口調はいつも私に勇気を与えてくれた。

 この喋り方をすれば私は『自信に満ち溢れた私』で要られる。


 不安だった気持ちが薄れ、少しずつ落ち着きを取り戻す。


 明人くんなら大丈夫。

 あの時のようにはならない。


 もっと仲良くなって、色々な所を2人で回って、楽しい時間はこれからも続くはずだ。


 心配なんていらない。明日も笑顔で彼と話そう。


 だって彼は私の──


「盟友だからな!」






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